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お腹に赤ちゃんがいます|前妻からの不可解な電話

 その日、俺は妻とともに大事な連絡を今か今かと待っていた。


 そこに見知らぬ番号から携帯に着信が入る。


 しかし慌てて電話に出ると、その相手は別れた前妻だった。


 今更なんの用だと、イライラしながら用件を尋ねると、前妻はうっとりした声で言った。


『あのね。今、私のお腹にあなたの赤ちゃんがいるの』


 ……コイツはいきなり何を言っているんだ?


 前妻と離婚したのは三年前。それも理由は彼女の不妊症だった。


 前妻には悪いが、俺はどうしても自分の子どもが欲しかったので、慰謝料を払って別れてもらった。


 その後、運よく身ごもることがあったとして、彼女と別れたのは三年前。明らかに俺の子どもではない。


『いきなりゴメンね。だけど私は、ずっとあなたの子を身ごもるのが夢だったから。「お腹にあなたの子がいる」って、どうしても言ってみたかったの』


 『言ってみたかった』ということは、本当に妊娠したわけではないのか?


 明らかに様子がおかしいし、酒に酔った勢いか何かで俺に電話したのかもしれない。


「悪いけど、こっちはそれどころじゃない。俺はもう君の夫じゃないんだから連絡しないでくれ」


 俺にはもう新しい妻がいる。


 今の妻を悲しませないように、あえてキッパリと前妻を拒むように電話を切った。


「あなた、さっきの電話は?」


 不安そうに尋ねる今の妻に、俺は首を振りながら返す。


「いや、警察や犯人からじゃない。昔の知り合いからだ」

「ゴメンなさい。私があの子から目を離したから」

「君のせいじゃない。悪いのは子どもを連れ去った犯人だ」


 前妻に「今それどころじゃない」と言ったのは嘘じゃない。


 今日、妻が少し家を留守にした隙に、家で寝ていたうちの子どもが誘拐された。


 子どもはまだ生後半年。自分で歩ける年齢じゃないのだから、どう考えても誰かに攫われたのだ。


 侵入者は金目のものには目もくれず、赤ん坊だけ攫って速やかに立ち去った。


 俺たちが待っていた連絡は警察か誘拐犯。どちらでもいいから、うちの子を取り返すための手がかりを今か今かと待っていた。


 翌日、今度こそ警察から連絡があった。ただ我が子の行方が分かったのではなく、改めて誘拐犯の心当たりはないか尋ねたいそうだ。


 最初に聞かれた時は、俺も妻も心当たりがなかった。


 しかし今は、ふと閃くことがあった。


「あの、誘拐とは関係ないかもしれないんですが、実は……」


 三年前に別れた前妻から、あなたの赤ちゃんがどうのと急に変な電話がきたことを話す。


 考えすぎだと言われるかと思ったが、警察はすぐに前妻を調べてくれた。


 結果、前妻は俺の家から子どもを攫ったことを認めたという。


 どうも前妻は俺と別れた後、子どもを産めなかったことで精神を病んでいたそうだ。


 加えて離婚後も、俺や妻のSNSをチェックしていたらしい。


 そこで自分は産めなかった子どもを、俺たちが授かったことを知った。


 だから俺たちの生活を調べ上げ、隙を突いて子どもを攫ったのだろう。


 恐らくは俺の子どもで母親ゴッコをするために。


 おぞましい動機だが、目的が母親ゴッコなら子どもはきっと無事だろう。


 早めに取り戻せそうで良かったと、俺と妻は胸を撫でおろした。


 しかしすぐに警察から不可解な連絡が来る。


 前妻に子どもの行方を聞いたところ、彼女は膨らんだ腹をさすりながらこう言ったそうだ。


「赤ちゃんがどこにいるかなら、もうあの人に話しました」と。




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■ 解説■

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 前妻の台詞は全て事実であり、動機は母親ゴッコだろうという語り手の見立ても正しい。


 語り手の赤ちゃんは前妻の腹の中にいる。

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