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最愛の者と引き換えに|十億円より高すぎた代償

 友人から面白い噂を聞いた。あることと引き換えに、どんな願いでも叶えてくれる神社があるそうだ。


 そのあることとは『最愛の者の死』。願いを叶えた代償に、自分の最も愛する者が死ぬと言う。


 ネットの口コミによると、普通ならあり得ない願いも本当に叶ったらしい。ただ奇跡的な願いが叶ったなら、最愛の者の死も現実になるかもしれない。


「そんで願いが叶いかけたんだけど、怖くなって土壇場でキャンセルって人が多いんだって」

「願いをキャンセルって?」


 首を傾げる俺に、友人が改めて説明する。


「たとえばアイドルになれるチャンスがきたとするだろ? それを受ければ願いが叶ったことになるけど、断ればキャンセル扱いになるのか誰も死なずに済むらしい」


 それが本当なら面白いと、俺は友人と一緒に願いをかけた。


 ちなみに友人は『現役のトップアイドルと結婚』。まだ半信半疑の俺は適当に『十億円』と願った。


 だからって十億円を得るべく宝くじを買うなど、具体的な行動はしない。大金とは無縁の俺の人生に、十億円が舞い込む奇跡を起こせるもんなら起こしてみろってんだ。


 しかし願いをかけてから、わずか一週間。なんと友人はひょんなことから、そのトップアイドルと知り合い、交際を申し込まれたらしい。


「すげーじゃん! それでなんて答えたんだよ!?」


 馴染みの居酒屋で興奮気味に問う俺に、友人はげんなりと返す。


「もちろん断ったよ」

「断ったって、どうして?」

「どうしてって……お前、忘れたのか? これがあの願いの結果なら、引き換えに誰か死ぬかもしれないんだぞ? 俺の最愛の者……家族か友だちか、彼女自身が死ぬかもって思ったら絶対に無理だった」


 全く未練がないわけじゃないようで、友人は景気の悪い顔で続ける。


「お前ももし十億円が入りそうになったら、絶対に拒否したほうがいいぞ。どんなすごい願いだって、人の命には替えられないんだからな」

「ああ、まぁ、そうだな……」


 俺にも後日、信じられないような成り行きで十億円が入ることになった。


 もちろん受け取り拒否することもできるけど……俺がそれを叶えた場合、死にそうな相手のことを考えてみる。


 仲の悪い弟のことは全く愛してないから、まずは両親か。愛していると言うと大げさだが、いなくなったらやっぱり困る相手だ。


 後いちおう二年くらい付き合っている彼女がいる。ベタ惚れってほどじゃないけど、普通にいい子だし、他にもっといい出会いがなければ、結婚してもいいかなって感じだ。


 後はさっきの友人。アイツとは高校時代から二十五歳の現在に至るまで、ずっと親しく付き合っている。


 ぱっと見は冴えないけど、誰か死ぬくらいならトップアイドルの誘惑を振り切れるくらい良いヤツで、いちばんの親友だ。


 ……でもソイツらを失わないために、逆に十億円もの大金をもらえるチャンスを蹴れるか?


 一生働かずに暮らせる額だろ。こんだけ金がありゃ親がいなくても困らないし、女にしても友人にしても、もっとハイレベルな相手と付き合える。


 むしろ女なんか友人のように、どんな高望みな相手でも、またあそこで願えば思いのままじゃないか?


 じゃあ、いいか。引き換えに誰が死んだところで致命的なダメージはなさそうだし。俺はそんな考えで、そのまま願いを叶えた。




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■ 解説■

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 語り手は『最愛の者の死』と引き換えに十億円を手に入れた。


 ところで自分の幸せのためなら差し出せる相手を、最愛と呼べるだろうか?


 最愛とは、いちばん大切に思う気持ち。


 他の誰を死なせても自分の幸せを選べるなら、語り手にとって最も大切なのは明らかに自分である。


ここまでご覧くださり、ありがとうございました。


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