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お願い探らないで|真実を知った私は放火犯を殺した

 母は私が三歳の時に、火事で亡くなった。


 火は私たちが住んでいた部屋と、その周辺を焼いた後、消防士に消し止められたそうだ。


 私が助かったのは母が火事に気付いた人に協力してもらい、マンションのベランダから下に落としたから。


 けれど受け止められたのは、体重の軽い幼児だった私だけ。


 母は救助が間に合わず亡くなった。


 しかし中学生になった私は、あれは事故ではなかったんじゃないかと疑っている。


 幼かったからハッキリ覚えていないけど、母の葬儀で大人たちが、


「××が火をつけたんじゃないか?」


 と確か話していた。


 それに対して普段は大人しい父が、


「二度とそんなことを言うな!」


 と激怒したのを、なんとなく覚えている。


 その父は火事から僅か一年で幼馴染の女性と再婚した。


 ハッキリ言って私は、父と継母(ままはは)を放火犯として疑っている。


 父は継母との結婚の理由を『妻を失って色々と辛かった時期に、親身に支えてくれたから』と言っていたが、本当は逆なんじゃないか?


 父は継母と不倫していて母が邪魔になり、火事に見せかけて葬ったのかもしれない。


 その証拠に私が火事のことを聞こうとすると、二人は怖い顔で「もうあのことは忘れなさい」と命じる。


 きっと私に探られちゃ困ることがあるんだ。


 正直、三歳で死に別れた母のことはよく覚えていない。


 でも母は私を下の人に落とした後、自分は火の中に取り残されたのに、ホッとしたように笑った。その優しい顔だけは覚えている。


 そのせいか母の死を、ただの事故と片付けて忘れることに罪悪感があった。


 だから私はどうしても知りたい。あの火事の真相と、誰が犯人なのかを。


「そっか。それでオカ研を訪ねてきたんだ」

「うん。前に友だちがここでコックリさんをしたら、探し物がドンピシャで見つかったと言っていたから」


 私の発言に、オカ研の部長はキリッと訂正する。


「細かいけど、うちのはコックリさんじゃなくて交霊術ね。お稲荷さんじゃなくて、その人の守護霊やご先祖様を呼んで、質問に答えてもらっているの」


 だから普通の占いとは違って遠くのことや未来のことは分からないが、逆にその人の過去や周辺の状況なら当たりやすいという。


 さらにオカ研の部長は、火事について聞きたいなら私の母を呼んでくれると言った。


 もし他殺ならまだ成仏していないだろうし、父や継母が犯人なら娘である私を心配して近くにいるはずだと。


「じゃあ、お願い。お母さんに聞いてみて。あの日の火事の真相を」


 交霊術の結果、母の霊は現れた。しかし質問への答えは――


『オトウサンタチハワルクナイ。モウワスレテ』


 とだけ告げて、後は何を聞いても答えなかった。


「どういうこと? つまりあの火事は放火じゃなかったってこと?」


 困惑する私に、オカ研の部長はこう指摘する。


「でも私たち、お母さんに『あの火事は放火によるものですか?』って尋ねたよね? 『はい』か『いいえ』で答えられる質問に、わざわざ文章で返すっておかしくない?」


 彼女の言うとおり、交霊術のボードには普通のコックリさんと同様『はい』と『いいえ』が書かれていた。


 そこなら十円玉を一度動かすだけで済むのに、お母さんはあえて質問とは違う答えを返した。


「つまり放火自体は否定していないってこと?」

「というか、火事のこと自体、触れて欲しくないみたいだなって」


 私もオカ研の子たちと同じ感想を持った。


 だけど放火の可能性があるなら、やっぱり犯人を知りたい。


 私はもう中三だが、マッチやライターで火をつけることが怖くてできない。


 子どもの頃はむしろマッチやライターで遊ぶのが好きだったらしいから、明らかに火事のトラウマだ。


 しかし恐れているのは火そのものじゃなくて、何か思い出しそうな感覚だった。


 その証拠に焚き火や調理の火を見るのは別に怖くない。


 もしかすると、私は犯人が火をつけるところを見たのかな?


 だから火をつける動作にだけ恐怖を感じるのかもしれない。


 だとすれば、その抵抗をねじ伏せて火をつけてみれば、当時のことを思い出せるかも。


 そう考えた私は父の灰皿を借りると、怖いと騒ぐ胸を無視して自室でマッチを擦ってみた。


 それで分かった。部屋に火をつけた犯人と、父と母が「忘れろ」と言った理由が。


 でもゴメンね。お父さん、お母さん。


 全て忘れて生きられたらよかったけど、お母さんは火に焼かれて、どんなに苦しかっただろうと思ったら、私はどうしても犯人を許せない。


 だから私は後日、誰にも迷惑がかからない場所で、犯人にガソリンをかけて火をつけた。


 親泣かせの馬鹿な行為だと分かっている。


 それでも天国のお母さんだけは、どうか私を責めないで。もし再び会えたら、あの温かな腕で抱いて欲しい。




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■ 解説■

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 トラウマを乗り越えて過去の記憶を取り戻した語り手によれば、火事はやはり人為的なもので犯人がいるという。


 そして後日、母と同じ方法で犯人を葬ることにした。


 では母を殺した犯人は誰か?


 母の葬儀に来ていた大人たちは放火犯に心当たりがあったようだ。


 けれど、それについて父は「二度とそんなことを言うな!」と激怒している。


 つまり容疑者は身近な人たちが知っている人物で、なおかつ父にとっては庇うべき相手。


 さらには殺された母親自身が「もう(事件のことは)忘れて」と庇うような相手。それは当時三歳だった娘(語り手)しか考えられない。


 作中でも子どもの頃の語り手は『マッチやライターで遊ぶのが好きだった』と書かれている。


 語り手は悪気なく部屋に火をつけてしまい、その火事によって母を殺した。


 その罪も忘れて、父や育ててくれた継母を疑っていた。


 語り手はそんな自分を許せず、母と同じ死に方を選んだ。

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