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指切り|そして約束は果たされる

「ゆびきり、げんまん、うそついたら、はりせんぼんのーますっ」


 漫画やドラマで指切りのシーンを見ると幼い日の記憶が蘇る。


 私には幼稚園の頃、とても好きな男の子がいて「大人になったら結婚しようね」と何度も指切りした。


 ところがその子が遠くに引っ越すことになった。


「嘘つき。大人になったら結婚してくれるって言ったのに」


 泣きじゃくる私に、その子はこう言った。


「嘘じゃないよ。大人になったら迎えに行くから、そうしたら結婚しよう」

「本当に迎えに来てくれる?」

「うん。その代わり僕が迎えに行くまで誰とも結婚しちゃダメだよ」

「そんなことしない! ずっと待っている!」

「じゃあ、指切りね」


 その約束は二十五歳になった今も美しい思い出として、ずっと心に残っている。


 けれどお話と違って現実は、約束が果たされる保証などない。


 本当に迎えに来てくれるか分からない男の子を待って、一度しかない青春を無駄にするなんてことはできず普通に恋愛した。


 そして何度かの手痛い失敗の末に『この人となら一生仲良く暮らせそう』という優しい男性と出会い、二十五歳で結婚した。


 ところが結婚からわずか一か月。


「えっ!? あなたがあの時の子なの!?」

「そうだよ。昔、約束したでしょう? 『大人になったら迎えに行くから結婚しよう』って」


 身分証を見せてもらったが、確かにあの子と同じ名前だった。


 子どもの頃から可愛らしかったけど、芸能人みたいなイケメンに育っている……。


 もし独身なら少女漫画のような恵まれた再会なんだけど、残念ながら私はもう人妻だ。


 どれだけ相手が魅力的でも「嬉しい。じゃあ、結婚しましょう」とはなれない。


「ゴ、ゴメンなさい……。子どもの頃の口約束だし、まさか本当に迎えに来てくれるとは思わなくて……」


 気まずそうに謝る私に、彼はニコッとして答える。


「君が結婚したことなら知っているよ。だからこそ約束を果たしてもらいに来たんだ」

「ど、どういうこと? 結婚以外に何か約束していたっけ?」

「ついてくれば分かるよ。一日だけ付き合って」


 彼は私と結婚できないことは分かっているみたいだ。


 それでも約束を果たすために、一日付き合って欲しいと言う。


 私は約束を破ってしまった罪悪感もあり『一日だけ、夫を裏切るようなことでなければ』という条件で、彼に付き合うことにした。


 彼はその条件を守ってくれたけど、私は二度と夫に会えなくなった。




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■ 解説■

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 語り手は幼い頃に初恋の彼と、


『大人になったら結婚する』

『彼が迎えに来るまで他の人とは結婚しない』


 という条件で指切りした。


 ところで指切りとは、嘘を吐いたら(約束を破ったら)


・指切り(指を切断)

・拳万(げんまん)(拳骨一万回)

・針千本(針を千本飲ませる)


 上記の制裁を加えるという凄まじい約束である。


 つまり語り手は指切りによって結婚と同時に、それを違えたら上記の制裁を受ける約束をしている。


 大人になった彼は彼女の結婚を知り、指切り拳万針千本の制裁を加えるべく会いにきた。


 拳万だけでも、女性が一万回も男性に殴られて無事でいられるとは考えにくい。


 語り手は不倫的な意味で今の夫を裏切ることはなかったが、約束を果たした結果、帰らぬ人となった。


 ちなみに初恋の彼がしたかったのは最初から、結婚ではなく『指切り』である。

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