聖女のご馳走|「両想いですね」と彼女は笑った
高位魔族との死闘の末に片腕を失った。普通なら剣士生命に関わる大怪我だが、仲間に聖女がいれば万事解決。
切り落とされた腕も、すぐに元通り。あっという間に切断箇所から新しい腕が生えてきた。
「うぉぉ、こういう治り方なのか? てっきり切られた腕をくっつけるもんかと」
「あっ、普通はそうですよね。すみません。せっかく拾ってきてくれたのに」
「いや、治りゃなんでもいいよ。もういらないみたいだし、これは捨てとくか」
しかしその場に腕を捨てようとする俺を、聖女があたふたと止める。
「あっ、あの。その腕、私がもらってもいいですか?」
「いいけど、腕なんてもらってどうするんだ?」
首を傾げる俺に、聖女はモゴモゴと説明する。
「もらうというか、剣士様の一部だったものを無造作に捨ててしまうのが嫌で。ちゃんと大事に葬りたいなって……」
「本体は生きているんだから、気にしなくていいのに」
「でも、いらないのなら、やっぱり私にくださいませんか?」
「う~ん。じゃあ、任せるわ」
死者ならともかく腕一本を丁重に葬りたいなんて聖女は変わっている。
まぁ、子どもの頃から戦場育ちで、ろくに教育を受けていない俺のほうが、思いやりや礼節に欠けているのかもしれないが。
その後、仲間の魔法使いに拠点まで一気に飛ばしてもらった。
飯食って風呂入って、さぁ寝るかって一度はベッドに入ったものの、死闘の余韻でよく眠れなかった。
水でも飲むかと調理場に行くと、そこには先客がいた。
「聖女? 何しているんだ?」
俺に声をかけられた聖女は、ハッとして手元にある何かを隠そうとした。
育ちの悪い俺は遠慮なくそれを覗き込む。
「おっ、珍しいな。品行方正な聖女様が皆に隠れて盗み食いなんて」
「み、見ないでください……」
聖女はどうも皆に隠れて、肉団子を食っていたみたいだ。肉団子に絡めてあるタレか、ちょっと甘じょっぱいようないいニオイがする。
「しかも肉って……聖女は肉食禁止じゃなかったか?」
聖女はユニコーンの力を借りて、奇跡的な回復魔法を使う。
その代償として、処女を失えばユニコーンに突き殺され、殺生すれば加護を無くすなど、色んな制約があるらしい。
余談だが、殺生よりも処女喪失に厳しいユニコーンって、すげぇ気持ち悪い。
その一環か聖女は俺の知る限り、肉や魚を食わなかった。
だから殺さなきゃ食えないものはダメなのかと思っていた。
「聖女が禁じられているのは姦淫と殺生で……お肉はこれみたいに特別なものなら食べられます」
「つまりそれは普通の肉とは違うのか? 俺にも少しくれない?」
俺には他の仲間たちのような立派な志はなく、美味いものをたらふく食うために生きていると言っても過言ではない。特に肉は大好物だ。
聖女はいつも親切だから快く分けてくれるかと思いきや、
「ダ、ダメです!」
「盗み食いの上に独り占め!? 今日の聖女はなんかいやしいな!? 逆に親近感湧くけど!」
驚く俺に、聖女は遠慮がちに申し出る。
「あの、どうしてもというなら後日、剣士様用のお肉を用意しますので。ただ特別なものですから、他の皆さんには内緒にしてください」
後日。聖女は約束どおり、他の皆が寝静まった隙に、あの肉を振る舞ってくれた。
前回は肉団子だったが、今回は薄くスライスした肉に、塩と香辛料をつけて焼いたものだった。さらに約束したのは肉だけだったが、白いご飯までつけてくれた。
「どうですか?」
「メチャクチャうめぇ! なんかすごく上品で上質な味がする! こんないい肉、食ったことねぇ!」
味付けがシンプルだからか素材の良さが際立っている。恐らくパンとも合うだろうが白米との相性も最高だった。
「ほ、本当に? 今まででいちばんですか?」
「マジでいちばん美味い。前に城で出された肉よりも美味いわ」
夢中で肉とご飯にがっつく俺に、聖女は頬を染めて笑う。
「わ、私も。昨日のお肉、すごく美味しかったです」
続けて何やらもじもじと「りょ、両想いですね」と付け足した。
同じ肉を食って同じ感想を抱くことを両想いって言うのか?
「なぁ、またこの肉食いたい。でも手に入れるの大変か?」
俺の頼みに聖女は少し困った顔をしたが、
「あまり頻繁には無理ですけど、剣士様になら私もまた食べて欲しいです」
と微笑んで「でも他の皆さんには内緒ですよ?」と二人だけの秘密にした。
現金だけど、美味い肉を食わせてくれる聖女をちょっと好きになった。
女って何を喜ぶんだろうな? 今度何かお礼しよう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
語り手が片腕を失った日。
切り落とされた片腕を丁重に葬りたいと回収した聖女は、深夜、仲間に隠れて普段は口にしないはずの肉を食べていた。
この肉団子は語り手の片腕をひき肉にしたもの。
ユニコーンとの契約によって姦淫を禁じられた聖女は、密かに片想いをしている語り手の肉を食べることで交わりたかった。
ちなみに本来は語り手の想像どおり、死肉を口にしてはいけないのだが、彼は生きているのでセーフと判断した。
語り手に肉を分けなかったのは、本人に自分を食べさせるのは悪いと思ったから。
けれど語り手に肉をねだられた聖女は、ふと思いついてしまう。
それなら自分の肉を彼に食べて欲しいと。
そして聖女は自分の肉を削いで語り手に振る舞った。
「両想いですね」という不可解な発言は、お互いの肉がいちばん美味しいと思えたことが、聖女にとっては特別の印だったのである。




