映っていたのは|霊の仕業ならよかった
私は今、ある現象に悩まされている。
それは深夜、自室のベッドで眠っている時に起きる。
暗闇の中、誰かが仰向けで横たわる私に跨って、
「死ね、死ね、死ね……!」
と笑いながら首を絞めるのだ。
金縛り中は意識が朦朧としていて、姿も声もハッキリとは思い出せない。だから、これだけなら悪い夢の可能性もあった。
けれど朝起きると必ず、首に誰かに絞められたような痣ができている。
また寝ている間に首を絞められたことを話すと、同居中の友人は心配そうな顔で言う。
「嘘みたいだけど、やっぱり幽霊の仕業かな?」
「この部屋、もしかして前に誰か亡くなったりしているの?」
この部屋を契約したのは友人なので確認するも、事故物件ではないらしい。
だとすると私自身に何かついている? でも身近で亡くなった人も、恨まれるような心当たりもないのに。
しかし、そんな私に友人はある可能性を挙げる。
「でも、そういう怪奇現象って必ずしも死者の仕業じゃなくて、生きている人間が念を飛ばしているせいって話も聞かない?」
「それって生霊ってやつ?」
「そう。アンタって昔から可愛くて男に人気だから、顔も知らない相手に一方的に恨まれているとかありそうじゃん」
友人の推測に、私は思わず顔を歪める。
「何それ。男にモテたいなんて一度も思ったことないのに」
異性には昔から、痴漢に盗撮に付きまといと嫌なことしかされていない。それなのに同性からは被害を話しても「何? モテ自慢?」と妬まれる。
今回もそういう理由で誰かの生霊に夜な夜な首を絞められているのだとしたら、いよいよ泣きたかった。
半泣きになる私の頭を、友人は優しく撫でると、
「まぁ、誰の仕業だとしても私はアンタの味方だから。できることがあれば、なんでも言って」
と励ましてくれた。
彼女の言うとおり、小六からの付き合いであるこの友人だけが、昔から異性にも同性にも心を許せない私にとって唯一の味方だった。
一人暮らしなんて怖くてできないから、彼女がいなかったら一生実家を出られなかっただろう。
「あ、ありがとう」と涙ぐむ私に、友人はニコッとして席を立つ。
「よく眠れるように、今日もハーブティーを淹れてあげる」
友人はハーブティーにハマっているみたいで、最近よく飲ませてくれる。その日によって配合が違うのか、飲みやすい時もあれば変な味の日もあって、私としては微妙なんだけど。
ハーブティーにはリラックス効果があると言うし、私を気遣ってくれているんだろうなと、苦手でも毎回飲んでいる。
それはそうと例の現象については、霊能者さんに相談することにした。
ただ霊能者さんによれば『霊の仕業ではない』とのことだった。友人の言うような生霊でもないらしい。
「じゃあ、私の気のせいだって言うんですか? 朝起きるとハッキリ痣が残っているのに?」
「勝手に誰か部屋に入ってきたら、同居している私が気付くはずですし、本人の言うとおり絶対に霊の仕業だと思います」
私と友人が食い下がると、霊能者さんはこう申し出た。
「では念のために連絡先を交換しませんか? 私も気付いたことがあれば、また連絡させていただきますから」
「は、はい。じゃあ……」
多分、気休めだろうと思いつつ、霊能者さんと連絡先を交換した。
けれど、その夜。友人がお風呂に入っている時に私の携帯に連絡があった。何か分かったのかと希望を持ったけど、霊能者さんの指示はこうだった。
霊の正体を見極めるために、私の部屋に隠しカメラを仕掛けて欲しい。
霊に気付かれると現れない可能性もあるから誰にも内緒で仕掛けて、確認も私だけで行うようにと。
霊の正体を見極めるためって、やっぱり霊の仕業だったってこと?
どちらにしても、この問題の解決について少しでも前進できるならありがたい。
全て私一人でやらなきゃいけないようなので、ネットで調べて小型カメラを買い、ベッドが映る位置に隠して仕掛けた。
その後いつもの現象が起きた。
その映像には霊能者さんの言うとおり、霊は映っていなかった。
……だからこそ私は、もうこの部屋ではとても暮らせないと思った。
それから私は友人に嘘の理由を話して同居を解消すると、実家に戻った。
それ以来あの現象は起きていない。
離れて暮らすようになってからも、友人からはたまに遊びの誘いがくる。
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■ 解説■
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語り手が相談した霊能者が言うには、首を絞めているのは霊ではないらしい。
語り手自身も隠しカメラの映像に、霊は映っていなかったと言う。
けれど、その映像を見た語り手は、もうこの部屋では暮らせないと思った。
それは霊ではない犯人が映っていたから。
深夜に侵入者があれば友人が気付く。霊でも侵入者でもなければ、語り手の首を絞められたのは、同居していた友人しかいない。
友人が毎日のように淹れてくれていたハーブティーには、たまに薬が入っており、語り手はそれで眠らされていた。
動機は本人が言っていたように、異性に人気のある語り手への嫉妬。
ただ語り手自身のことは好きなため、居心地のいい関係を手放すことができず、本人に分からないように攻撃するという歪んだ行動に走った。
語り手は友人の異常さを恐れて、あえて犯行を指摘せず、静かに縁を切ろうとしている。




