元の世界へ帰るには|心を一つにする方法
僕は三年前に『七勇者』の一人として異世界に召喚された。共に召喚された人たちと協力して、この世界の脅威を排除し人々を救って欲しいと。
なぜただの一般人である僕に、突然そんな使命が課されたのか、今でも分からない。
ようやく念願が叶って最愛の女性と結婚したばかりなのに、どうして自国ならまだしも縁もゆかりもない世界のために命がけで戦わなければならないのか。
しかし元の世界に戻るには、召喚された目的である『この世界の脅威の排除』を達成しなきゃいけない。だから危険でも戦いに身を投じるしかなかった。
ところが元の世界へ帰りたいからと真面目に使命を果たそうとするのは、僕の他に二人だけ。
残りの四人は『世界の脅威から人々を護る英雄』という物語を、むしろ続けたがった。
完璧に脅威を排除したら、ヒーローはいらなくなってしまう。適度に危険があったほうが、ずっとチヤホヤされていいと。
積極的に邪魔されることはなかったが、全員の協力は得られない中、僕はどうにか残りの二人と使命を果たした。
しかしその結果、二人は死んでしまった。
彼らも元の世界に帰りたがっていたのに、それを果たせずに亡くなってしまって気の毒だ。
それでも僕はようやく妻のもとに帰れる――はずだった。
実は帰還には、もう一つ条件があった。
それは一緒に召喚された全員が帰還を望むこと。
戦いの途中で二人亡くなってしまったが、生存者全員の総意があれば帰還できるという。
ところが例の四人は、この期に及んで元の世界に戻るつもりはないようだ。
無事に使命を果たした『七勇者』は、この世界の英雄になった。
その名声に加えて、召喚時に授かった特別な力と技。
元は僕と同じ一般人だった彼らは、その名声と力を手放したくないらしい。
「アンタはアイドルそっくりの勝ち組だから向こうの世界でも幸せだろうけど、こっちは元の暮らしになんて戻りたくないんだよ」
「それにあなたは特に活躍したからって、大国の王女様と結婚して次の国王になってくれと言われているそうじゃない。王女様はものすごい美人だし、あなたの平凡な奥さんなんかより、ずっといいでしょう?」
僕と死んだ仲間たちが、どれだけ苦労して使命を果たしたか知らないで、格下相手に楽しく無双していたヤツらが勝手なことを言う。
まぁ、でも彼らからすれば、勝手なのは僕のほうなのだろう。
同じ気持ちだった仲間二人は死に、今や元の世界に戻りたいと願っているのは、僕だけなのだから。
それでも僕には、最愛の妻を諦めるなんてできない。
僕はなんとか生存者の心を一つにすると、元の世界に戻った。
不幸中の幸いで僕は召喚される前に戻された。つまりこちらでは全く時間が経っていない。
向こうで負った手傷も全て治っていた。まるでこれまでのことは全て夢で、本当は何もなかったみたいに。
しかしハッと気づいてポケットやカバンを探ると、
「良かった……」
死んだ仲間二人に託された手紙は、ちゃんと持っていた。
もしかしたら全員で生還はできないかもしれないから、生き残った者が大切な人へあてた手紙を代わりに出そうと約束したもの。
でもゴメン。この手紙は後で必ず出すから、今は先に彼女と会わせて欲しい。
僕は手紙を大事に仕舞い直すと、すぐに三年ぶりの我が家へと走った。
玄関を開けると、台所にいたらしい妻が「おかえり」と笑顔で出迎える。
僕は思わず彼女を抱き締めた。
「きゅ、急にどうしたの?」
「ゴメン。すごく会いたかったんだ」
「朝も普通に会ったのに、変なの」
妻は不思議そうにしながらも「でも抱き締めてくれて嬉しい」と頬を染めて笑い僕の背に腕を回した。
あの世界ではついぞ感じなかった安堵と幸福が胸に溢れる。
この世界に戻れて本当によかった。
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■ 解説■
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語り手は無事に元の世界に戻った。
とすると、もう一つの条件である『召喚された者全てが帰還を願うこと』を達成したのだ。
しかしあれだけ異世界に残りたがっていた彼らが、そう簡単に意見を変えるだろうか?
それでも語り手はなんとか生存者の心を一つにした。自分以外の全員を殺して意思を一つにすることで。
戦いの途中で二人亡くなったが、生存者全員の総意があれば帰還できる。
それはつまり生存者が一人になれば、その人物の意思だけで帰還できるということ。
他の全員を皆殺しにしても元の世界に帰れば誰にも知られることはないのだから、自分自身の良心以外に語り手を止めるものはない。
特にこの語り手はかつて『幸せな結婚|死んだ推しに瓜二つの夫』で愛する女性と結ばれるために、人気アイドルの顔に整形し本物を殺害。さらに過去を消すために、実の家族を実家ごと焼き払った男なのだから尚更である。




