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スペア|自分のクローンと暮らすなんて絶対に嫌!

 夏休み明けの高校。友人からの思いがけない質問に、私は「えっ?」と目を丸くした。


「夏休みどころか、私は海外になんて一度も行ったことないよ」


 夏休み中、家族と海外旅行をした友人は、そこで私のそっくりさんを見かけたらしい。それも似ている程度じゃなくて、丸きり私にしか見えないような人を。


「え~? じゃあ、他人の空似だったのかな?」


 納得いかない様子の彼女に続き、別の友人が悪戯っぽく言う。


「ドッペルゲンガーだったりして」


 この子はすぐにオカルト方面に話を持っていく。


 呆れる私たちをよそに、また別の友人が口を挟む。


「それよりスペアじゃね?」

「何? スペアって」


 詳しく聞いたところ、スペアとは要するにクローンのことらしい。


 以前は人工生命を作るのは禁止だったが、十年ほど前に深刻な事情がある場合に限り失った家族やペットの代わりに、そっくりのクローンを作っていいことになったそうだ。


 深刻な事情とは、残された人の悲しみがあまりに深いこと。これは自己申告ではなく、専門医が厳しく判断するそうだ。


 ただスペアの寿命は、偽物が本物の生命にとって代わることがあってはならないという考えから人間は十年で動物は五年だという。


 またクローン技術を乱用してはならないとしてスペアは一世帯につき、一つしか作れないそうだ。


「へぇ、そんな制度があったんだ」

「アンタって本当に世間知らずだね」


 友人の辛辣(しんらつ)なコメントに、私はムッとして返す。


「仕方ないじゃん。私は皆より十二年も出遅れているんだから」

「生まれてすぐに事故に遭って、それから十二歳で目覚めるまで、ずっと植物状態だったんだっけ?」

「そう。だから学校の勉強についていくだけで精一杯」


 むしろ赤ちゃん状態からたった五年で、偏差値低めの高校ではあるけど、普通に通えるまでに成長したのだから褒めて欲しい。


「で、結局なんなんだろうね? 海外で見かけたって言うアンタのそっくりさん」

「だから絶対にスペアだって」

「でもスペアは家族か飼い主しか作れないんでしょ?」


 私の指摘に、友人は軽薄な笑みで返す。


「そこはアンタを気に入った金持ちのストーカーがコネと財力を駆使してさ……」

「なんで海外の金持ちが日本にいる私に目を付けるのよ……」


 その場ではツッコんだけど、クローン人間を作れる技術があるなら、どこかの変態が勝手に気に入った子を複製しているなんてこともあるかもしれない。


 後で不安になった私は「そんなことあるわけない」と否定して欲しくて、その話を親にした。


 すると両親は、


「お前にそっくりの女の子!?」

「どこで見たの!?」


 と血相を変えて私を問いただした。


 えっ? マジで犯罪の可能性があるの?


 それから両親が警察に相談した結果、友人の目撃証言から私のそっくりさんと海外で暮らしていた犯人が無事に逮捕された。


『事実は小説より奇なり』とはいうけど、本当に私のスペアがいたなんて……。


 これだけでも十分ショックだけど、さらにうちの両親がまさかの行動に出る。


「えっ!? 私のスペアを引き取るの!? どうして!?」


 今回のように、もし本物がいるのにスペアが作られてしまった場合は、もちろん偽者のほうを処分する決まりらしい。


 そこをうちの両親はわざわざ役所と交渉して、もう用済みのスペアを我が家で保護したいと考えているそうだ。


 否定的な私の反応に、父は困り顔で言う。


「『どうして?』って……たとえ作られた命でも、もう五年も人間として生きているんだぞ。偽者だからって処分するのは可哀想じゃないか」

「どうせスペアは十年しか生きられないし、あと五年くらいなら姉妹ができたと思って、一緒に暮らしてもいいんじゃないかって」


 しかし両親の意向に、私は猛反対する。


「姉妹!? 馬鹿を言わないでよ! 勝手に自分のクローンを作られるなんて、ただでさえ気持ち悪いのに、一緒になんて暮らせるはずがない! 親なら娘の気持ちをいちばんに考えてよ!」


 涙目で訴えると、父は悲しそうに応じる。


「……分かった。そこまで言うならスペアは処分するよ」


 後日、スペアはいなくなって、この家の娘は一人に戻った。




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■ 解説■

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 この話の要点は以下の三つだ。


1・全く同じ姿の人間がいて、片方はスペアである。

2・スペアは原則として家族か飼い主しか作れない。

3・語り手が自我を持ち、学習を始めたのは十二歳から。


 これらの事実を踏まえると、スペアは海外で目撃された少女ではなく、語り手のほうである。


 両親は昔まだ幼い娘を誘拐された。


 しばらく必死で探したが、見つからないまま七年が経過。


 生死不明のまま七年以上行方が分からない場合、法律では死亡したものとみなすことができる。


 これによりスペアを作る権利を得た夫婦は、厳しい審査を経て我が子のクローンを作った。


 赤ちゃんの状態でもらうこともできたが、夫婦は自分たちの娘と同じ年齢にして欲しいと頼んだ。


 『生まれてすぐ事故に遭って植物状態になった』というのは、十二歳の姿なのに赤ちゃん状態であることを誤魔化すための嘘。


 海外で目撃されたのは誘拐された本物の娘。


 つまり最後に、本来はあった保護の可能性を自ら潰して殺されたスペアは語り手である。

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