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修羅場不可避|不倫夫の大ピンチ

 ここだけの話、俺は会社の後輩女性と不倫している。


 さらに妻が三日間出張で留守にするので、今日はなんと会社帰りに自宅のマンションに連れて来てしまった。


 部屋の前に到着すると、不倫相手が横からニヤニヤとからかう。


「奥さん、出張で留守だと言っていましたけど、ドラマみたいに急に帰って来たりしません~?」

「今朝も今から仕事だって連絡きたから大丈夫だって」


 苦笑いで返事しつつ、玄関の鍵を開けようとするも「あれ、鍵どこにやったっけ?」と少しもたつく。


 ようやく鍵を見つけて玄関を開けると、寝室のほうからドアが閉まるような音。


 嘘だろ、まさか妻が先に帰ってきたのか?


 幸い不倫相手には聞こえなかったようで「先輩?」とキョトンとしている。


「ゴメン。一応、中を確認してきていい?」


 俺は彼女を部屋の外に待たせると、まずは一人で中に入った。


 ……嘘だと思いたいけど、やっぱり妻が帰って来たのかもしれない。なぜなら途中、台所やリビングの照明がついていた。


 いや、でも俺が家を出る時に消し忘れたのかな?


 照明の消し忘れや引き出しの閉め忘れなど、ちょっとした物忘れは普段からあり、よく妻に注意されるので、ちょっと自信がない。


 寝室の照明もつけっ放しだった。ただ部屋の中には誰の姿もない。


 でも確かに物音が聞こえた気がするんだけど……何せ一緒にいた不倫相手は聞き逃すほど一瞬の物音だったので、今となっては分からない。


 けれど、これから不倫現場となる寝室に、もしかしたら妻がいるかもなんて不安を残すのは、よろしくない。


 俺は念のために、この寝室で唯一、人が隠れられそうなクローゼットを開けようとした。


 しかしその前に携帯に通知が入る。反射的に確認すると、それは妻からだった。


『ちょっと早いけど、お土産は何がいい?』


 土産について聞くってことは、やっぱりまだ出張中ってことか?


 ほぼ確信しつつも俺は念のために、


『お土産はなんでもいいけど、寂しいから少し話したいな。ついでに顔も見たいから、ちょっとだけビデオ通話してもいい?』


 と妻に返信した。


 よく考えたら不倫相手が近くにいるのに、わざわざ妻と通話するなんて危険だった。


 しかし今はそれより妻が出張中である確証が欲しい。


 ビデオ通話なら周囲の様子も映るから、少なくとも家の近所ではないことが確認できる。


 その結果、妻はやはりまだ出張先だった。また帰りは予定どおり、明日の夕方以降になるそうだ。


 じゃあ、さっきの物音は俺の勘違いか。


 俺は妻との通話を終えると、待たせていた不倫相手を安心して部屋に招いた。


 不倫相手とたっぷり楽しんだ後、彼女がこんな提案をする。


「お腹空きません? よかったら何か作りましょうか?」

「いいの? ありがとう。あっ、調理器具や食材は好きに使ってくれていいから」

「はい。じゃあ、できたら呼ぶんで先輩はゆっくりしていてください」


 可愛いだけじゃなくて割と家庭的でいい子だよな。


 まぁでも、なんだかんだ本命は妻だから、いつかはお別れしなきゃいけないんだけど。


 そういえば今日あの子を呼んだのは、子どもの頃の写真を見たいと、ねだられたからだっけ。


 ちょうど暇だし用意しとくか。確か実家に山ほどある子どもの頃のアルバムが、一冊だけ我が家にもあるはずだけど、どこに仕舞ったっけ?


 まずはこの部屋のクローゼットから探してみるか。


 クローゼットの戸を開けた俺の背に、台所から不倫相手の声が聞こえる。


「先輩~。果物ナイフしか見当たらないんですけど、大きい包丁がどこにあるか分かります~?」


 彼女が探している大きい包丁は、俺の目の前にあった。




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■ 解説■

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 寝室から聞こえた物音は出張中の妻じゃないかと危惧した語り手。


 しかし妻からの連絡により、彼女ではないと分かって一安心。


 けれど、それは妻はこの部屋にいないと確認できただけ。


 この部屋には明らかに、家主の不在に照明をつけて寝室に入ったらしい『誰か』がいる。


 そして寝室に人が隠れられそうな場所はクローゼットのみ。


 つまり妻ではない誰かは、ずっとクローゼットに身を潜めていた。


 それは家主不在の部屋に侵入した泥棒。


 犯行の発覚を遅らせるため、なるべく部屋を荒らさずに金目のものを盗んで去るつもりだったが、そこに彼らが帰ってきた。


 咄嗟に隠れようとするも、どうやら相手は鍵を探しているらしい。


 すぐには入って来ないと思った泥棒は、台所から包丁を盗んで寝室のクローゼットに隠れた。


 無事にやり過ごせればよし。もし見つかった時は、目撃者を殺して逃げるために。

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