因果は巡る|俺を殺したヤツらは来世同じ目に遭うらしい
肉体と魂を繋ぐ糸が千切れる感覚と同時に、俺は真っ暗な空間で目を覚ました。
「こ、ここは……?」
辺りを見回す俺を、知らない男が見下ろして告げる。
「ここは生と死の狭間だよ。死んだ人間は生まれ変わる前に必ずここを通るんだ」
「あ、あなたは?」
男はここの説明役だと言う。死者の疑問に答えるとともに、心の整理を手伝うためにいるそうだ。
「心の整理って……」
「いきなり来世に進んでも構わないほど、君の心は穏やかかい?」
「お、穏やかなわけがない……」
男の言葉で思い出した。ここに来る直前の記憶を。
「彼女と一緒に夜の公園にいたんだ。そうしたらガラの悪い連中が絡んで来て、彼女を置いて行けって……彼女はなんとか逃がしたけど、俺はヤツらに捕まって、無理やり車に乗せられた……」
ヤツらは山奥の廃墟に俺を連れて行くと、思いつく限りの方法で肉体と尊厳を破壊した。
あんなのもう不良とかじゃなくて悪魔だろ……。思い出すだけで恐怖と憎悪と屈辱で吐きそうになる。
悔し涙を堪えて震える俺に、男は優しく声をかける。
「辛いなら無理に話さなくていい。君の身に起きたことは知っているから」
「あの、こういう場所があるなら天国や地獄もあるんですか? 俺を殺したヤツらは、いつか地獄に堕ちますか?」
ところが俺の質問に、男はこう答えた。
「残念ながら、人間は何度も生まれ変わって生死を繰り返すだけだ。善人だけが浮かばれる天国も悪人だけが堕ちる地獄もない」
「そんな! じゃあ、悪人はやったもん勝ちで、善人は泣き寝入りですか!?」
今どき滅多なことじゃ死刑にならない。
仮に上手いこと死刑になったって、俺が味わったほどの苦痛では絶対にない。
天の裁きだけが残された希望なのに、それすらないのかと絶望した。
ところが俺の言葉を、男は「いや」と否定する。
「天国や地獄はないが、全ての人間は己が所業を必ずその身に受けることになる。ただし今世ではなく来世でね」
「今世ではなく来世でって……」
オウム返しに呟く俺に、男は改めて説明する。
「つまり他人を虐げた者は来世、自分がしたのと全く同じ仕打ちを別の人間から受けるのさ」
「じゃ、じゃあ、アイツらは来世、俺と同じような死に方をすると?」
「そう。君に与えたのと同等の理不尽な死に見舞われてね」
男に太鼓判を押された俺は自然と笑顔になる。
「そうか! そりゃいい! ザマァみろ!」
できればすぐに罰を受けて欲しかったが、来世、何もかも忘れたヤツらが、俺と同等の理不尽に見舞われるのも一興だ。
なぜ自分がこんな目に? そんなやり切れない感情とともに死ねばいい。
来世でヤツらにバチが当たると確約されて気が晴れた俺は、次の世に旅立つことになった。
「あの、俺の来世はどんな風になりますか?」
「それは君が今回の人生をどう過ごしたかによる。良くも悪くも君が人にしたことがそのまま返ってくるよ」
男の言葉に、俺は自分の短い一生を振り返る。
「……さほど悪いことをした覚えはないけど、いいこともあまりしなかった気がします」
「でも君は命がけで恋人を助けた。その命がけの献身は、来世のどこかで君に返ってくる」
「そ、そうか」
悪行だけでなく善行も返ってくるなら、あの時振り絞った勇気が報われる気がした。
「……自分の行いが次の人生で返ってくるなら、今度はもっとよく生きるようにします」
「そうだね。その気持ちを、どうか忘れないで」
男に頭を下げて、俺は次の世へと旅立った。
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■ 解説■
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語り手の世界には自分が今世でしたことを、来世で別の人間からされるという法則があるらしい。
それによって語り手の命を理不尽に奪った犯人たちは、来世で別の人間から同等の仕打ちを受けて死ぬそうだ。
しかしこれは言い換えれば、今世で自分がされたことは、前世で他人にしたことになる。
つまり思い出すだけで恐怖と憎悪と屈辱で吐きそうになる悪魔のごとき所業を、前世の語り手は誰かにしたのだ。
そして恐らくは、
――できればすぐに罰を受けて欲しかったが、来世、何もかも忘れたヤツらが、俺と同等の理不尽に見舞われるのも一興だ。
――なぜ自分がこんな目に? そんなやり切れない感情とともに死ねばいい。
この語り手の言葉は、そのまま前世で彼に殺された者の叫びだった。




