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あの日、私が見たのは|『家族』は今も幸せに暮らしている

 私はこれまでに一度だけ霊を見たことがある。それもかなりハッキリと。


 それは深夜のファミレスバイト中。この時間帯はいつも客が少ないのでホールは私、後は調理のスタッフが一人だけだった。


 特にこの日は酷い雨だったので、もしかしたら今日は誰も来ないかもと調理の人と話していた。


 そこに若い夫婦と小さな子どもたちが来店する。


 でも異様なのは七歳くらいのお兄ちゃんのほうが、全身びしょ濡れで、まだ肌寒い季節なのに半袖短パンだったこと。


 気温に加えて雨に打たれたせいか、顔は青白く寒そうに震えていた。


 私は思わず両親に声をかける。


「あの、お子さん、すごく濡れていますが、大丈夫ですか? よろしければタオルをお持ちしましょうか?」


 けれど、私の申し出に母親はキョトンと目を丸くする。


「えっ? 別に傘を差してたし濡れてないよね?」

「雨酷かったし、ちょっとは濡れたかもだけど、タオルを借りるほどじゃないよな」


 そう言いながら父親は、小さな女の子が濡れていないか確かめた。


「えっ、いや、そっちの子じゃなくて……」

「それより早く席に案内して欲しいんですけど」

「は、はぁ。では、こちらの席へどうぞ」


 私は窓際の席へ、その親子を案内した。母親が五歳くらいの女の子の隣に、父親がびしょ濡れの男の子の隣に座る。


 一緒に座ったってことは、やっぱり家族だよね?


 なんで少しも、あの子を見ないんだろう?


 不審に思いながらも、まずは人数分の水とメニューを持っていく。


「なんで四人分?」


 テーブルに置かれたコップを見て首を傾げる夫婦に、私も「えっ?」と困惑する。


「えっ? なんでって、何がでしょうか?」

「だって私たちは三人なのに。なんで四つも持ってくるんですか?」

「えっ!? いや、だって、そちらのお子さん……」

「そちらのお子さんって?」

「いえ……あの……なんでもありません……」


 私は視線だけで男の子を確認したが、その子は暗い表情で俯くだけで何も言わなかった。


 その横で若い夫婦と小さな女の子は、


「お腹空いたね~」

「何を食べようか?」


 と和やかに話し合っている。


 まさか男の子が見えていないの? 改めて観察すると男の子は妙にやせ細っていて、半袖短パンから覗く肌は痣だらけだった。


 よく見れば両親のどちらとも似ていないし、とてもこの幸せそうな家族の一員とは思えない……。


 それから注文された料理を運んだが、やはり男の子の分はなかった。


 ジッと黙って俯く男の子の横で、若い夫婦と小さな女の子だけがワイワイと楽しそうに食事をした。


 食事と会計を済ませてファミレスを出る家族連れを、私はお見送りのふりをして店外まで見に行く。


 外はまだ酷い雨なのに、やはり男の子だけ傘を差していなかった。生乾きの髪と服が、いっそうぐっしょりと濡れる。


 それでも夫婦や小さな女の子が、その子を気にかける様子はない。


 父親が運転席に乗り、母親と女の子が後部座席に座った後、最後に男の子も乗り込んでバタンとドアが閉まった。


 後でその奇妙な光景について調理の人に話し、説明のついでに監視カメラで確認することになった。


 もし映っていなかったら、どうやってさっきの奇妙な出来事を証明しよう?


 しかし私の心配をよそに、映像には男の子がハッキリと映っていた。


「こんなにハッキリ映っているのに、その家族連れには男の子が見えていなかったのか?」

「はい。しかも最後は一緒に車に乗って帰って行きました」

「ヤバいじゃん。それ絶対にとりつかれているよ。怖いな~」


 あの家族が気になった私は三か月後、なんとか本物っぽい霊能者さんを探し、監視カメラの映像を見てもらった。


「……映像の男の子は、もう亡くなっていますね」


 やっぱり生者じゃなかったんだ。私は霊能者さんの返事に背筋が凍った。


 霊能者さんいわく家族のほうは何事もなく、今も幸せに暮らしているそうだ。


 良かった。あの日、私が何もしなかったせいで、もし恐ろしいことが起きていたらと心配だったから。


 ちなみにそれ以来、お化けの類(たぐ)いは見ていない。なんであの子だけあんなにハッキリ見えたのかは、今も謎のままだ。




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■ 解説■

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 語り手にしか見えない謎の男の子。


 後日、映像を見せた霊能者から「映像の男の子は、もう亡くなっている」と聞いたことで、語り手は幽霊だったと結論した。


 けれど、あの日の帰り。家族と一緒に店を出た男の子は『雨に打たれて、いっそう濡れた』。実体のない幽霊なら雨に打たれて、さらに濡れるはずがない。


 加えて車のドアは男の子が乗り込んだ後でバタンと閉まった。これも幽霊なら自分でドアを閉められたはずがない。


 仮に母親が閉めたとすれば、どうして彼女は酷い雨の中、男の子が乗るまでドアを閉めなかったのか?


 それは彼が乗るのを待っていたから=本当は見えていたからだ。


 実は、あの家族は男の子を『いないように扱う』遊びをしていた。


 そんな残酷な仕打ちをしたのは、あの子が夫婦のどちらにも似ていないことに関係がある。


 男の子は母親の連れ子で、前の夫に似ていた。新しい娘が生まれた今、前の夫に似た男の子は夫婦にとって邪魔だったのだ。


 深夜のそれも酷い雨の日に、わざわざ子連れでファミレスを訪れたのは、虐待がバレないようになるべく人が少ない時を狙ったから。


 そしてあの日はまだ生きていた男の子は三か月の間に亡くなり、家族は何事もなく幸せに暮らしている。


 霊能者がわざと曖昧な言い方をしたのは、語り手に真実を知らせてショックを与えないためだった。

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