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またあなたに会えるなら|勇者が再び呼ばれた理由

 嘘みたいな話だが、俺は一年前に異世界へ召喚された。


 その世界では昔から『魔王の封印が解かれると異世界から勇者が来る』ってシステムらしい。


 それでなんやかんや頑張って魔王を再封印し、世界を平和にすると『任務終了』ってことで、勇者が望めば元の世界に帰れる。


 歴代の勇者の中には、美しい王女やら聖女やら女騎士やら女魔術師やらと恋仲になって現地に残る選択をした者もいるそうだが、俺は迷わず元の世界に戻った。


 根が小市民の俺に勇者ライフは合わなかった。元の世界で一般市民として、誰にも気にされずに生きていきてぇ。


 ところが帰還からわずか一年後。俺はまたあの世界に呼ばれてしまった。


「えっ、嘘だろ? あれからたった一年で魔王がまた解き放たれたって言うのか?」


 目を丸くする俺に、かつての仲間である聖女はしょんぼりと肩を落とす。


「本来なら今度こそ二度と封印が解かれないように、勇者様に託された私たちがしっかり守らなければいけなかったのに、こんなことになって申し訳ありません」

「君を責めるつもりはないけど、どうしたらこんな短期間で封印が解かれるんだ? 封印場所は魔王と戦った時のメンバーしか知らないはずだし、その封印を解くための三つのアイテムは君たちがそれぞれ管理していたはずだろ?」


 俺の問いに、相変わらず無駄にセクシーな格好をした女魔術師がクールに答える。


「責任転嫁するわけじゃないけど、私と彼女は封印を解く鍵をそれぞれ教会と魔術師ギルドの本部で預かってもらっていたの。個人で管理するよりも、そのほうが安全だろうって」


 しかし何者かがまるで魔法のように、誰にも気づかれずその鍵を二つとも盗んだらしい。


 そして『剣聖』の称号を持つ俺の師匠が持っていた三つ目の鍵は――


「えっ……殺して奪われた……?」


 魔王の封印が再び解かれたことよりも信じられない凶報に、俺は頭が真っ白になった。


「はい……恐らく封印場所も鍵を奪うついでに、あの方の口を割って聞き出したのだと」


 遠慮がちに推測する聖女に、俺は思わず反論する。


「そんな。たとえ拷問されたって、あの師匠が簡単に口を割るわけがない」

「でも事実として魔王の封印は解かれた。魔王を封印した場所を知るのは、ここにいる私たち以外には、あの人だけ。だとすれば、いくら信じがたくても、なんらかの理由であの人が言ってしまったのよ」


 女魔術師の言うとおり、ここにいる俺たちに心当たりがないなら、師匠が秘密を漏(も)らしたことになる。


「そんな……師匠……いったい何があったんだ……」


 この世界では魔王が解き放たれると、その影響で一部の動植物が魔物と化して人を襲う。逆に言えば魔王が封印された状態では、この世界に魔物は存在しない。


 なんらかの理由で魔王の力を求めた人間が、封印を解き災厄をまき散らすのだ。


 だから師匠を倒したのは人間ってことになる。でも『剣聖』とまで呼ばれた師匠を誰が倒せたというんだ? よほど卑怯な手でも使われたのだろうか?


 あの誰よりも強く高潔な人が卑怯な手段で葬られたと思うと、酷く悔しかった。


「ともかく魔王が解き放たれてしまったからには、一刻も早く再封印しなければ。また勇者様にご迷惑をかけることになってしまいますが、どうかお力をお貸しいただけませんか?」


 聖女の要請に、つい顔が歪む。


 本当は再び戦いに身を投じるなんて御免だったけど、


「……そりゃまた呼ばれちまったなら、やるしかないだろ。魔王を封印しなきゃ帰れないんだし、仮に可能でも大勢が死ぬかもしれないこと放っておけねぇよ」


 と嫌々ながら答えた。自分のせいで魔王の封印を解かれてしまった師匠の無念を思えば余計に。


「迷惑ついでに悪いけど、魔王の封印が一年で解かれたことを考えると、あなたには封印後も守り人として、この世界に残ってもらったほうが良さそうだわ」


 女魔術師の残酷な提案に、俺は反射的に叫ぶ。


「やめてくれ! 俺も薄っすらそうかなと思ったけど、まだ元の世界に帰れる可能性を諦めたくねぇ!」

「まぁ、その件については、おいおい考えましょう」


 聖女は苦笑気味に取りなすと、改めて口を開く。


「それと勇者様」

「ん?」

「不謹慎かもしれませんが、またあなたにお会いできて本当に嬉しいです」

「そうね。お帰り、勇者君」


 そう言って二人は、とても綺麗な顔で笑った。


 自惚れかもしれないが、多分彼女たちは俺に好意がある。


 でもそれを認めたら、今度こそ俺はこの世界に囚われてしまう。


 彼女たちを好ましく思う気持ちより、まだ元の世界への愛着のほうが大きくて、俺はまた気付かぬふりをした。




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■ 解説■

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 かの名探偵シャーロック・ホームズは「どれほど信じがたいことでも、全ての不可能を除外して最後に残ったものが真実だ」と言っている。


 作中でも自分たちしか知らない魔王の封印場所について、


「自分でも彼女たちでもないなら、死んだ師匠から秘密が漏れたのだろう」


 と語り手は考えた。


 ところが実際のところ『自分がバラしたのではない』と言い切れるのは、語り手だけ。


 弁解すらできない死んだ師匠とは違い、生きている彼女たちは、その気になれば嘘を吐ける。


 そして彼女たちが魔王の封印を解いた(或いは、それを望む者に協力した)のだとすれば、他の二つの鍵を預けていた場所は、彼女たちが所属する組織。


 本部に出入りできる彼女たちなら、比較的簡単に鍵を盗めただろう。


 そして『剣聖』と呼ばれた師匠の敗北。


 普通の人間にはまず勝てない相手。けれど相手が彼と同等の力を持つ聖女と魔術師なら?


 加えて、この三人は他人ではなく仲間だった。事前に毒を盛ったり不意打ちをしたり、手段を選ばなければ、さらに戦いを有利にできる。


 ではなぜ一度は平和のために魔王を封印した彼女たちが、組織を裏切り仲間を殺し世を乱してまで解き放ったのか?


 それは魔王の封印が解けると、異世界から勇者が来るから。


 つまり彼女たちは、また主人公に会いたいという共通の目的のために罪を犯したのだ。

いつもお話を読んでくださり、ありがとうございます。


皆様からの反応に、とても元気をいただいています。


他のサイトに追いついたので次話からは毎日21:10に、1話ずつの更新になります。


今後も色んなお話を投稿していきますので、また見に来ていただけたら嬉しいです。

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