↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/56

神様に選ばれた特別な子・後編|私は全て奪われた

 神様に選ばれた特別な子は、十八年に一度の神事で感謝の印に命を捧げる。要するに生贄だ。


 そして神事を行った日から最初に生まれた子が、次の生贄に選ばれる。


 私の誕生日は彼女の翌日。一歩間違えれば私が生贄に選ばれていた。


 それを知った日から彼女は私の命の恩人になった。


 彼女は村の平和のため、私の代わりに死んでくれるのだ。


 それを思えば多少の不満は気持ちよく許せた。


 けれど、いくら生贄でも許せないことを彼女はした。


 それは私の彼を奪ったこと。


 彼は人気があるから妬まれないように周囲には内緒で付き合っていた。


 だから彼女も彼がフリーだと思って、告白したらしい。


 でも自分みたいなブス、正攻法じゃ相手にされないって普通は分かるでしょ?


『特別な子』の特権を意図的に使ったんだ。


 実際、村の大人たちが知れば「それくらい叶えてあげなさい」と言うだろう。


 けれど、それは他人事だから言えるのだ。


 なんでもうすぐ死ぬからって、私の恋人を貸さなきゃいけないの? 彼だって、あんなブスの相手をさせられるんじゃ可哀想だ。


 しかし彼自身も彼女に同情したのか「友だちからなら」と受け入れてしまった。


 すごく嫌だったけど、反対したら冷たい子だと嫌われるかも。


 だから譲歩して、こんな条件を出す。


「話したり出かけたりは許すけど、体に触ったり触らせたりは絶対にしないで。手を繋ぐのもダメ」

「……分かった。なるべくそうするよ」

「なるべくじゃなくて絶対!」


 つい怒鳴ると、彼は眉をひそめて言い返す。


「キスやそれ以上ならともかく、手も繋がないなんて極端な約束はできないよ」


 この時点で、もう爆発しそうだった。


 たとえ同情でも、他の女に触れて欲しくなんかないのに。


 それでも、なんとか自分を抑えようとした。あまり口論して不仲になりたくなかったから。


 しかし、さらに許せないことが起きた。


「ねぇ、この間、あの女を抱き締めたでしょ? どうして、そんなことをしたの?」


 彼が言うには「一度でいいから抱き締めて」と頼まれたそうだ。


 神事まで残り一か月。これがあの女にとって本当に最後の抱擁になると思ったら可哀想で断れなかったと。


 けれど、その弁解に私はついキレてしまう。


「じゃあ、彼氏を奪われた私は可哀想じゃないの!? 高校最後の年なのに、あの女のせいで全然一緒に過ごせないんだよ!?」

「あの女って……もし自分が彼女の立場ならって少しも思わないの?」

「そりゃ気の毒だとは思うよ。でもそれは彼女の不運でしょ。どうしてその穴埋めのために、周りが我慢しなきゃいけないの!」


 村全体の安寧のために、誰か一人が犠牲にならなきゃいけない。その仕方ないことに、たまたま彼女が選ばれた。


 だからって何をしてもいいわけじゃないはずだ。


 私の正論に、彼は否定的な沈黙の後に告げる。


「……じゃあ、もう別れよう」

「えっ?」

「俺にはこの状況で彼女より君を優先するなんてできない。だから別れよう。仮に今すぐ解放されたって、もう君と付き合いたいと思わないし」


 今すぐあの女に全てぶちまけたかった。


 アンタのせいで私は彼に捨てられたんだって。でも堪えた。


 だってそれを説明するには、生贄のことを話さなきゃいけなくなる。


 そうしたら逃げるかもしれないでしょう?


 私はあの女に初恋を台無しにされたんだから、せめて生贄役くらい、ちゃんと果たしてもらわなきゃ。


 けれど私の心を逆なでするように、最悪の展開は続く。


 神事の三日前。これが最後だからと頼み込んで東京のテーマパークに遊びに行った彼と彼女が帰って来なかった。


 家族が部屋を調べたら、通帳を含む有り金一切が消えていたという。


 つまり村には、もう戻らないつもりで逃げたのだ。


「まさか家族や友人を全て捨てて逃げるとは……」

「今年の神事はどうしましょう?」


 村長である父と母が困り顔で言い合うのを見て、私はイライラと怒鳴る。


「どうするもこうするも、あの女を探すしかないでしょ! こんなところで悠長に話していないで、さっさと探しに行きなよ!」

「しかし闇雲に捜したところで神事までに見つけられるか……」

「最初から逃げるつもりだったなら、東京行き自体が嘘かもしれませんしね」

「じゃあ、五百年分の災厄が一気に村を襲うのをただ待つの!? 手がかりがあろうとなかろうと、死に物狂いで探すしかないでしょ!?」


 神事を行えなかった場合、村が滅ぶほどの災厄に見舞われる可能性が高いらしい。


 それなのに父は、なおも悠長に尋ねる。


「つまりお前はどれほど生贄が嫌がろうと、神事は必ず行うべきだと?」

「当たり前でしょ! 逆になんで一人の命のために、他の全員を危険に晒してもいいと思うの!? だから五百年も儀式を続けて来たんでしょ!?」

「ああ、だがお前の意向を知りたかったんだ。他でもないお前が賛成なら、神事は予定どおり行おう」

「良かった!」


 生贄の特権を使って彼を奪いながら、義務を果たさないなんて許さない。


 父が神事を行うと断言して、私は心底ホッとした。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 解説■

━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 神事で生贄になるはずだった少女が、語り手の元カレとともに消えた。


 語り手は彼女への嫉妬も手伝い、必ず見つけ出して神事を行うべきだと両親に怒鳴る。


 それに対して村長である父は「他でもないお前が賛成なら、予定どおり神事を行おう」と断言する。


 ところで「他でもないお前」とはどういう意味だろう?


 村長の娘というだけで、大事な神事を左右する権限があるのだろうか?


 疑問は他にもある。


 なぜ村の大人たちは神事の直前に、大事な生贄を外に行かせたのか?


 外出を許すなら、せめて万一にも逃げられないように見張りを付けるはずだ。


 では、どうしてそれをしなかったのか?


 大事な生贄だからこそ、決して絶やさない仕組みが他にあるのだ。


 それは身代わり。


 今回のような逃亡の他にも、次の神事までの十八年間に、事故か病気で生贄が死んでしまう可能性は当然ある。


 そのもしもの時は、神事からいちばん近い誕生日の子が新たに選び直される。


 今回の場合は、いなくなった彼女の翌日に生まれた語り手である。


 だから父は、代理の生贄である娘の意向を知りたがった。


 そして語り手は「一人の命のために、他の全員を危険に晒していいわけがない」と答えた。


 仮に語り手が「生贄は残酷だからやめよう」と言ったところで結末は変わらない。


 ただ両親を始めとする村の大人たちが「この子自身もそれを望んだのだから」といくらか気分が楽になるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。