神様に選ばれた特別な子・前編|村の皆が優しい理由
私は神様に選ばれた特別な子らしい。だからどんなワガママを言っても許される。
これは私の勝手な思い込みじゃなくて、親をはじめ、この村の大人たちが昔から言っていること。
子ども同士でおもちゃやお菓子を取り合っていると、村の大人たちは必ず、
『その子は神様に選ばれた特別な子なんだから、譲ってあげなきゃダメよ』
と私を優先してくれた。
特に印象的だったのは、私を「ブス」と罵った同じ小学校の意地悪な男子が、親と一緒に家まで謝りに来た時。
すごく傷ついたのに「ゴメン」の一言で済まされるのが嫌で、
「絶対に許さない! 親なんだから、もっとちゃんと叱ってよ!」
と叫んだら、私の前で親がその子を殴った。
本人も驚いていたけど、私もビックリした。まさか私に言われたからって、親が自分の子を殴るとは思わなかったから。
勉強も運動もお手伝いも、私が嫌ならやらなくていい。他の子がもらったプレゼントを「私も欲しい」と言えば、後日同じものを買ったり作ったりしてくれる。
たとえ「自分のプレゼントなのになんで?」って、その子が嫌がったとしても。
「あなたのプレゼントを取り上げて、あの子にあげるわけじゃないんだから」
と私じゃなくて、その子が我慢させられた。
しかも私が高校生になってからは、大人たちだけでなく、同世代の人まで優しくなった。
それは皆にも私がどれだけ特別な存在か、村の大人たちから改めて説明があったからだそうだ。
それは私も高三になって初めて聞いた話。
この村には十八年に一度の大事な神事があって『特別な子』はそこで神様に日頃の感謝を示す役目があるらしい。そして次の神事までの村の安寧を祈願するそうだ。
その神事のお陰で、この村は他の地域と違って、あらゆる天災から護られているという。確かに地震とか台風とか、よそでは死傷者が出るような災害も、うちの村は軽くしかきたことがない。
それは私が知る範囲だけではなく、神事をするようになってから五百年くらいずっとそうらしい。
神事がそれだけすごいことなら、その中心人物である私が大事にされてきたのも頷ける。
ただ、その役目は一度きり。私が役目を終えたら、その神事の日から最初に生まれた赤ちゃんが、次の『特別な子』になるという。
「じゃあ、神事が終わったら私は用済みってこと? 今みたいに大事にはしてもらえなくなるの?」
「そんなことない。特別な子は最後まで大事に扱われるよ」
私の質問に親はそう答えたけど、多分それは嘘だ。
だって前の特別な子について私は聞いたことがない。
それはもう特別な子として扱われてはいないということだ。
この立場の期限が迫っていることに気付いた私は少々欲が出た。
普通なら絶対に振り向かないだろう、学校でいちばんモテる男子にダメもとで「付き合って」と頼む。
彼は一瞬顔を歪めたけど、
「……いきなり恋人は無理だけど、友だちからなら」
と言ってくれた。
でも、あんまり嫌そうだったので、
「それって私が特別な子だから? 神事をしてもらえないと困るから受け入れたの?」
と、つい聞いてしまう。
分かっていて付け込んだくせに、当たり前のことを聞くなんて馬鹿だ。
しかし自虐する私に、彼は少しバツが悪そうに答えた。
「違うよ。神事をしてもらえないと困るからじゃなくて、君のおかげで神様に護ってもらえる恩返し。多分、他の人たちもそうだよ。困るからじゃなくて恩返し」
私はこれまで少なくとも大人には無条件に愛されているのかなと思ってきた。
でも本当は神事で大切な役割をする私への理由ある優しさだと知った。
けれど本来はそれが当たり前なんだ。おかしいのは今まで一方的な特別扱いを、当然のこととして受け取ってきた私のほう。
「じゃあ、私、神事をがんばるね。私こそ今まで皆によくしてもらった恩を返さなきゃ」
しかし私の言葉に、彼はまたしても予想外の返事をした。
「……君は俺たちに恩なんて感じなくていいよ」
「どうして?」
その疑問には答えず、彼は急に私の手を取ると、
「優しくする。一緒にいられる間はずっと」
と不器用に微笑んだ。
その愛情ではない優しさに胸を締め付けられる。
私こそ「恩なんて感じなくていい」と、この手を放すべきだったけど、
「嬉しい。ありがとう」
と笑顔で受け入れてしまう。
皆の優しさの理由が神事で役目を果たすことなら、特別扱いもやはりそれまでだろう。
いつかは終わることなら、今だけは幸せな夢を見させて欲しい。
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■ 解説■
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語り手には十八年に一度の大事な神事で、果たすべき大役があるらしい。
だからと言って、その子への恩返しのために、親が自分の子を殴ったり、同じ高校の男子が不本意な交際に応じたりするのは少々異様だ。
その異様なほどの優しさの理由が語り手への恩返しなら、村人たちはそれほど大変なことをさせようとしていることになる。
また語り手は、自分の前の特別な子について聞いたことがないという。
普通なら同じ神事を務める者として「前回はこの人が務めたのよ」などの紹介がありそうなものだ。
それがないのは、語り手より前の『特別な子』がいないから。
つまり神事とは感謝の印として、特別な子の命を捧げること。
語り手への優しさについて意中の彼が、
「神事をしてもらえないと困るからじゃなくて、恩返しだ」
と答えたのは、特別な子が神事で犠牲になるのは逃れられない運命(決定事項)なので村人が困ることはないが、せめてもの恩返し(罪滅ぼし)をしたいという意味。




