ワガママなお姫様|最上の美の作り方
貿易で他国に行くと、我が国では決して見られない美しい人々に目を奪われる。
特に今回訪れた国の王族たちは『生きる宝石』と呼ばれるほど際立って美しい。
貿易商として宮殿に呼ばれた私は、御年十六歳のその国の末の姫から、こんな質問をされた。
「あなたの国には『豊穣の女神の化身にして最上の美の持ち主』と謡われる巫女姫がいるのでしょう? その巫女姫とやらは、私や姉様たちよりも美しいの?」
「美しさにも種類がありますから、私にはなんとも……」
まさか本人たちを前に「我が国の巫女姫のほうが美しい」などと言えるはずもなく曖昧に言葉を濁す。
そんな私に、末の姫は初夏の太陽のような快活さで笑う。
「心配しなくても、私たちを選ばなかったからって罰は与えないわ。ただ噂の巫女姫がどれほど美しいのか興味があるだけよ」
「あなた様をはじめこの国の姫君は、どなたもとてもお美しいですが、やはり最上の美に相応しいのは我が国の巫女姫かと」
けれど、この私の返答によって、思わぬ方向に話が流れた。
「そんなに美しいなら一度この目で見てみたいわ。私をあなたの国に連れて行ってよ」
若く美しい姫君のワガママを私は何度も断った。
我が国は人の出入りに厳しくて、他国の民が入国すれば代わりに二度と出られない。
それに巫女姫はこの世で最も美しいが、我が国には男女ともに、他に際立った美貌の持ち主はいない。
美男美女が多い国に生まれたあなた様にとっては、つまらない場所だと。
けれど末の姫は少しも迷わずにこう返す。
「あら、あなたの国に巫女姫以外の美人がいないなら、かえっていいじゃない。そこに私が行けば、この国より恵まれた結婚ができるでしょう? 私、美男と対等な恋愛をするより、見た目はまずくても裕福な男に女神のように扱われたいわ」
確かに我が国は、この国よりも豊かだ。なぜなら例の巫女姫の『豊穣の力』により、豊かな実りと枯れない水源が約束されているのだから。
残念ながら末の姫だけでなく父である国王も同意見だった。
二度と故郷に戻れずとも豊かな国に嫁がせてやりたい。
巫女姫以外に際立った美人はいないと言うなら、きっと宝石のように大切にしてもらえるだろうと。
追い詰められた私は、最後にこう警告した。
「……我が国では安全のために一度入ったら文のやり取りさえできませんよ。家族や故郷との縁を完全に切ることになってもよろしいのですか?」
どうか怖がって、やめると言ってくれ。
しかし私の願いとは裏腹に、末の姫はかえって面白そうに笑う。
「そんなに止められると、かえってどうしてもという気になるわ。私、絶対あなたの国に行く。そして噂の巫女姫の美しさが、どれほどのものか見せてもらうわ」
こうして、この輝くばかりに美しい姫君は住み慣れた故郷を離れて、永遠に我が国に骨を埋めることになった。
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■ 解説■
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語り手の故郷には『この世で最も美しい巫女姫』がいるという。
ところが話の冒頭で語り手は『他国に行くと我が国では決して見られない美しい人々に目を奪われる』と独白している。
この世で最も美しいのが本当に巫女姫なら、他国で美しい人を見ても『我が国の巫女姫ほどではないが』と思うか『我が国の民と違って、美形が多くて羨ましい』という感想になるだろう。
つまり噂の巫女姫は、決して最上の美の持ち主などではない。
それなのに彼の国の民は男女ともに、巫女姫ほども美しくないという。
それは巫女姫よりも美しい者が『豊穣の女神の化身』として崇められる彼女の命により、男女ともに殺されているから。
だから語り手は自分について来たがる美しい姫君を、何度も止めようとした。
けれど語り手の願いに反して、姫君は自分の意見を変えなかった。
『骨を埋める』とは、その地で一生を過ごすという意味の慣用句だが、最後の一文はそのまま『かの地で殺されて埋められた』という意味である。




