幸せな結婚|死んだ推しに瓜二つの夫
初めて彼を目にした瞬間、私は思わず泣いてしまった。なぜなら最近亡くなった推しのアイドルと瓜二つだったからだ。
推しの死因はひき逃げ。しかも車は盗難車だったそうで、犯人を割り出すのは困難らしい。
盗んだ車でアイドルを轢くとか重罪すぎるでしょ! 絶対に許さない!
突然の訃報に抜け殻のようになりつつも、ちゃんと勤務先のカフェに出勤はしていた健気な私の前に、お客さんとして現れたのが亡くなった推しに激似の彼だった。
彼は突然泣き出した私に驚きつつも「大丈夫ですか?」とハンカチを差し出してくれた。
男性でこんな綺麗にアイロンがかかったハンカチを持っているなんて王子様ポイント高すぎる。好き。
「すみません、最近亡くなった推しとあまりに似ていらっしゃるので……」
「ああ、よく言われます。ファンの方は大変ですね」
笑顔も優しい~。私は感激と混乱のあまり、あり得ない要望を口走ってしまう。
「あの、ご迷惑かもしれませんが、ここまで似ていらっしゃるなら代わりにデビューしていただくとかは……」
「それはちょっと……」
「ですよね……」
お顔はもちろん声も素敵だし、推しの代わりに歌って踊って欲しかった……。
「でも僕でよければ、心の傷が癒えるまで話し相手になりましょうか?」
以上が私と彼の馴れ初めである。
そう! 私はなんと亡くなった推しに激似の彼と、現在お付き合いしているのだ!
不幸のどん底からの超V字回復により今が幸せの絶頂です!
こんなあり得ないほどの幸運は、もしかしたら半年ほど前に有名な縁切り神社で祈願したおかげかもしれない。
私はその頃、何者かにストーカーされていた。
私が暮らす部屋のポストに毎日手紙が入っていて「あのお菓子、僕も好きです」とか「今日は遅刻しちゃって残念でしたね」とかアプローチのつもりか親しげに話しかけてきた。極めつけは「今度は直接会いに行きますね」というメッセージ。
いよいよ怖くなった私は警察に相談するとともに、有名な縁切り神社で「ストーカーがいなくなりますように!」とお願いしたのだ。
その縁切り神社は悪縁を切って良縁を結んでくれると評判だから、それがこの奇跡的な出会いに繋がったのかもしれない。
ちなみに祈願のおかげか、私が警察に相談しに行ったのを見てヤバいと思ったのか、それ以来ストーカーから手紙は来ていない。
嬉しい出来事はさらに続く。
「えっ、結婚!?」
「うん。僕はそうしたいと思っていて。でも出会ってまだ半年なのに早すぎるかな?」
少し不安そうな顔をする彼に、私はふるふると首を振る。
「ううん、嬉しい。私もあなた以外は考えられないから」
「良かった」
ああ~、本当に笑顔が優しくて素敵。好き。
「じゃあ、あれだね。今度ご両親にご挨拶に行かなきゃ」
そう言いかけて私はハッと思い出す。
「ってゴメン。確かご家族は皆火事で……」
前に子どもの頃の写真が見たいと彼にねだった時、実家が火事で全焼してしまい、ご家族も思い出も全て失ったと聞いたのに、うっかりしていた。
けれど私のあり得ない失言に、彼は柔らかく微笑んで返す。
「気にしないで。ずっと寂しかったけど、これからは君が家族になってくれるんだから大丈夫。思い出も、これからたくさん作って行こう」
彼が抱える大きな悲しみに、私は泣きそうになりながら宣言する。
「絶対に幸せにするから! 死んでもあなたを一人にしない!」
ギュッと手を握ると、彼は「ありがとう」と頬を染めて続ける。
「ずっと君が好きだったから、そう言ってくれて嬉しい。色々がんばって良かったな」
彼はずっと少女漫画の王子様みたいにスマートだったけど、だからこそ本当は陰で色々とがんばってくれていたのかな?
私の両親と顔合わせを済ませて、結婚の許可を得た後。私たちは早速、婚姻届を書くことにした。
彼が先に名前を記入し、今度は私が書くことになったのだが……。
「どうかした?」
婚姻届を見て固まる私に、彼が不可解そうに問う。
なんかどこかで見たような字だなと気になったんだけど、別にわざわざ言うほどのことじゃないか。
「ううん。なんでもない」
式はまだだけど、先に婚姻届を提出しに行く。私は役所に行くまでの道のり、彼の腕に「えへへ」と抱き着く。
「これから、ずっと一緒にいようね」
「うん。一生離さないよ」
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■ 解説■
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亡くなった推しにそっくりで、語り手にとって何もかも完璧な彼。それは彼が語り手の理想に合わせて自分を作り変えたから。
語り手にはストーカーがいた。それがこの彼である。
最後に語り手が婚姻届の字を見て「どこかで見たような」と感じたのは、ストーカーから受け取った手紙と同じ筆跡だったから。
語り手の仕事先のカフェでの出会いも偶然ではない。推しに瓜二つの容姿も、生まれつきではなく、わざわざ整形したのだ。
そして整形であることを隠すために実家を全焼させて、写真など証拠になりそうなものを自分の家族ごと葬った。
もちろん語り手の推しを轢き殺したのも彼である。全ては語り手の最愛になるために。




