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病みつき罪の味|事件は隣町で起こった

 リビングでダラダラとスマホを見ていた妻が突然「ひぃぃ~……」と犬のような悲鳴を上げる。


「いきなりどうした?」

「すっごい怖い事件を見ちゃった」


 妻が言うには、児童養護施設の責任者である夫妻が逮捕されたそうだ。罪状は、なんと『食人』。


 たまたま食べた人肉の味が忘れられず、子どもたちを養子に出すふりをして密かに殺して食べていたらしい。


 特に脳みそのペーストは、一度食べたら病みつきになる美味さだったと言う。


「いや、たまたま食べた人肉の味って何!? 人肉をたまたま食べる機会なんてある!?」


 反射的にツッコむ俺に、妻は青い顔で追い打ちをかける。


「その夫妻の最初のきっかけは分からないけど、彼らは近隣住民や施設の子どもたちにもコッソリ人肉を振る舞っていたらしいよ……」


 ネットの記事によれば、異常者のくせに自分たちの異常性に悩んだ夫妻は、他の人たちにも人肉や脳のペーストを振る舞うことで反応を知りたかったそうだ。


 そして「すごく美味しい!」「もっと食べたい!」と思うのが自分たちだけじゃなかったことに安堵したという。


「知らずに人肉を食わされていた人たち、今頃ショックで震えているだろうな……」

「しかもこれ隣町の事件なんだ……」


 妻からの追加情報に、俺の口からも「ひぃぃ~……」と情けない悲鳴が漏れる。


「怖ぁぁ……。俺たちは人から肉とか肉料理をもらうことはなかったから、大丈夫だよな?」


 うちの場合、親戚やご近所さんや職場でもらうのは菓子や野菜が多かった。


「うん。それは大丈夫。記事には『人肉は明らかに他の肉とは違う味がする。だからこそ犯人は他の肉では満足できなくなった』って書いてあるし」

「じゃあ、心配ないか」


 俺たち夫婦はどちらも一般的な料理しか食べないので、知っている肉の味は鳥、豚、牛だけだ。


 確かにメチャクチャ怖い事件だが、犯人はもう捕まったんだから取りあえずは安心だろう。


「でも今後は他所の人からもらったものは、食べないようにしよう」

「特に肉はね……!」


 と俺たちは震えながら誓い合った。




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■ 解説■

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 作中で語り手は「人肉をたまたま食べる機会なんてある!?」とツッコんでいるが、その可能性の一つが犯人たちの行動で示唆(しさ)されている。


 彼らは自分たちだけが異常なのかと悩み、一般的な反応を知りたくて他の人たちにも密かに人肉を振る舞った。


 彼らも他の食人鬼に振る舞われて、たまたま人肉を口にしたのかもしれない。


 確かなのは犯人夫妻に人肉や脳のペーストを食べさせられた人たちが「すごく美味しい!」「もっと食べたい!」と感じたこと。


 特に脳のペーストは一度食べたら病みつきになる美味しさだと言う。


『人肉は他とは明らかに違う味で、だからこそ他の肉では満足できなくなった』と犯人夫妻は語っている。


 この感覚も同じだとしたら、このニュースによって「あれは人肉だった」と知ってしまったご近所さんたちは「すごく美味しい!」「もっと食べたい!」という衝動を堪えられるのだろうか?


 もしそれが起きた時、隣町に住む語り手夫妻は今度こそ無関係ではいられないかもしれない。

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