↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/53

この罪を許して|偽りの謝罪に被害者が喜んだ理由

 ずっと信じていなかったが、この世には確かに霊がいるらしい。


 なんでそれが分かるかって、まさに俺と仲間が今その霊に煩(わずら)わされているから。


 相手は最近、死んだクラスの男子。血まみれで薄っすら透けているソイツが、ふとした瞬間に現れて恨めしそうに俺たちを見やがる。


 今のところ実害はないが、放置すれば悪化する可能性もある。ただ霊になったソイツに暴力は通じないし、怒鳴ったくらいじゃ消えない。


 こうなりゃプロに祓ってもらうしかねぇと、俺たちは知り合いに聞き回って、なんとか霊能者を紹介してもらった。


 その霊能者が言うには死者よりは生きた人間のほうが強くて、こちらがそれを許さない限りは、乗り移ったり命を奪ったりはできないらしい。


 命の危険はなさそうで安心したが、死んだヤツにいつまでもつきまとわれるのは迷惑だ。


 霊を消す方法を尋ねると、霊能者はこう答えた。


 霊を消すには、除霊と浄霊という方法がある。除霊は霊力によって、強制的に霊を消し去ること。霊には魂しかないので、存在自体が消滅するらしい。


 浄霊は霊自身に納得して去ってもらうこと。十分に供養したり未練を晴らしたりすれば、勝手にあの世に行くという。


 ただ供養は形だけしても意味がなく、心から故人の死を悼まなければ成仏しないらしい。俺たちの場合は、悪かったと本気で反省しなければならない。


 仮に可能でも、何度もアイツが死んだ場所に足を運んで、花やら缶ジュースやら供物(くもつ)を捧げて、祈らなければならないらしいので、そんな面倒は絶対に嫌だ。


「じゃあ、手っ取り早く除霊してもらっていいスか?」

「さっきも言ったけど、それは魂ごと消し去って完全に消滅させてしまうことだから。殺人よりも恐ろしいことだし、よほど性質(たち)の悪い霊にしかしないよ」


 あんなつまらねぇヤツを完全に消し去ったところで誰が困るんだよ。


 流石にそこまで赤裸々には言えないので俺は半笑いで返す。


「確かに命の危険はないみたいだけど、アイツは逆恨みで俺たちにつきまとって迷惑をかけてんスよ。十分性質が悪いじゃないスか」

「逆恨み? その子は君たちに万引きさせられたせいで店員に追いかけられて、車に轢かれたようだけど。それが逆恨みだと?」


 当事者以外には誰も知らないはずの事実を言い当てられて驚く。


 そうか。コイツは霊能者だからアイツから聞くか何かしたのか。


 流石に少し居心地の悪さを感じつつ、俺たちはこう言い返す。


「確かに万引きしろとは言ったけど、最終的にやると決めたのは自分じゃないスか。店員にバレて追いかけられたのもアイツがトロいせいだし、それを俺たちのせいにされちゃ堪らないっスよ」


 霊能者は「なるほど」と呟くと、微笑みながらこう続けた。


「まぁでも、もともと害意というのは理不尽なものだからね。君たちだって、その子をイジメたことに正当な理由なんてないんだろう?」


 非難したきゃ真正面からすりゃいいものを、ネチネチ当てこすりやがってムカつく。


 でもアイツを消せるのはコイツだけだと我慢して話を戻す。


「説教を聞きに来たわけじゃないんで、解決策だけ教えてくれませんかね?」

「供養はしたくないとのことだったね。じゃあ、君たちに提示できる解決策は二つだ」


 一つはアイツの死の真相を明らかにし、俺たちが社会的な罰を受けること。


 俺たちはアイツの万引きがバレた瞬間、さっさとその場から逃げた。だから世間はアイツが自分の意思で万引きし、自業自得で車に轢かれたと思っている。


 だから俺たちが証言することでアイツの名誉を回復するとともに、社会的な罰を受ければ気が晴れるだろうとのことだ。誰がお前なんかのために泥を被るかよ、馬鹿。


 消去法で俺たちは、もう一つの方法を選ぶしかなくなった。それは俺たち全員がアイツに向かって「なんでもするから許してくれ」と謝ること。


「でも確か供養の時は心がこもってなきゃダメみたいなことを言っていたのに。俺たち別にアイツに悪いなんて思ってないっスよ」

「大丈夫。その方法なら供養と違って心からの反省はいらない。心で舌を出していようが、ただ『なんでもするから許してくれ』と言えば彼は満足する」


 全く意味が分からん。まぁ、でもプロの言うとおりにすりゃいいのか。


 霊能者と別れた後。俺たちは日が暮れてからアイツが死んだ場所に向かった。


 すると話を聞いていたみたいに、すぐにアイツが姿を現す。


「……俺たちのせいで死なせて悪かったよ。なんでもするから許してくれ」


 誰の目にも嫌々しているに過ぎない謝罪。


 これで本当に成仏するのか? 半信半疑の俺たちに、意外にもアイツは、


「許してくれて、ありがとう」


 と笑みを見せた。


 許してくれて? 『謝ってくれて』の間違いだろ?


 しかし『許してくれて』で合っていたし、アイツは確かに成仏した。


 取りあえず、あのクソ霊能者は絶対に殺す。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 解説■

━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 彼らは霊能者の話をあまり聞いていなかったのだろう。


 霊能者は途中、霊の危害について、こんな話をしている。


『こちらがそれを許さない限り、乗り移ったり命を奪ったりはできない』と。


 つまりこちらが許可すれば霊は命を奪えるようになる。


 そして彼らは霊能者に言われて、


「なんでもするから許してくれ」


 と自ら復讐を許可してしまった。


 それが「許してくれて、ありがとう」の意味であり、彼らへの復讐を果たしたことで確かに霊は成仏した。


 その代わり命を奪われた彼らは霊となり、今度は自分たちを嵌めた霊能者を狙っている。


 ただ霊能者はこうも言っていた。『除霊は魂ごと消し去って完全に消滅させることだから、よほど性質の悪い霊にしかしない』と。


 霊能者はいちおう少年たちに反省の意思があれば助かる道を示した。けれど少年たちは提示された選択肢から、見事にハズレを引き続けている。


 このうえ自分たちの行いを少しも顧みず霊能者を襲うなら、今度は魂ごと消滅させられるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。