気の毒な転校生|彼が事故で失ったのは
担任によると、明日からこのクラスの一員になる転校生は、事故で両親を失ったらしい。
精神的に不安定だから、なるべく刺激しないように、慎重に接して欲しいとのことだ。
事故で両親を一度に亡くすなんて大変だな。
俺たちは先生の言うとおり、事故や家族のことには触れないようにしようと決めた。
ところが転校生が来てから三か月後。
「なぁ、昨日うちの店に誰が来たと思う!? 転校生だよ! しかも親と一緒だった!」
ソイツの家は中華料理屋で、休日は店を手伝わされている。そこに転校生が家族連れで来たそうだ。しかも父母どちらも揃って。
「どういうことだ? アイツに両親はいないはずだろ?」
「嘘だったんじゃね? 可哀想なフリをして周囲の同情を引こうとか」
「本人が言っているだけならともかく、先生まで騙せるか……?」
気になった俺たちは本人に確かめることにした。
実のところ、その転校生は、顔よし頭よし運動神経よし、性格までよしの完璧超人で『事故で両親を失った』という悲劇性も相まって一躍女子の人気者になった。
俺たち男子としてはちょっと気に入らなかったのだが、「アイツは両親がいなくて可哀想だし」と遠慮していた。
それが実は嘘だったとしたら、メッチャ話が変わってくる。
放課後。さっそく男子だけで校舎裏に転校生を呼び出し話を聞いた。
「お前の両親、事故で死んだんだろ? それなのに昨日コイツの店に両親と来たって。どういうことだよ?」
俺の質問に、転校生が怪訝な顔で問い返す。
「僕の両親が事故で死んだって……それ誰に聞いたの?」
「担任だよ。お前が転校してくる前日に『事故で両親を亡くして大変だから気遣ってやれ』って言われたんだ」
「……へぇ、そうなんだ。そのことは誰にも言わないでくれって、あれほど頼んだのに」
いつも柔和な転校生の顔が急に強張る。その反応を見て、中華料理屋の息子が「えっ?」と目を丸くする。
「じゃあ、事故で両親を亡くしたのは本当ってこと? だったら一緒に店に来た二人は? 父さん、母さんって呼んでいただろ?」
「あれは新しい両親だよ。死んだのは前の親」
「あっ……」
言われてみれば当然の話。俺たちはまだ未成年なんだから、両親を亡くせば別の大人に保護される。
転校生は施設じゃなく、別の家庭に引き取られたってことなんだ。
「ゴ、ゴメン。嫌な話をさせて」
「いいよ。君たちのことは怒っていない」
人当たりのいい転校生はニコッと許してくれたが、
「でも、このことは他の人たちに言わないでくれる?」
と口止めした。人に自分の両親のことを知られるのは、すごく嫌だからと。
「わ、分かった。絶対に誰にも言わない」
「早合点して嘘吐き扱いして本当にゴメン」
転校生にも嫌な想いをさせたけど、俺たちにも苦い後悔が残った。これが『口は災いの元』ってやつか。
今後は軽々しく人のデリケートな部分に触れないように気を付けよう。
あと事件と言えば、もう一つ。
俺たちが転校生と揉めてから二週間後くらいに、担任が死んだ。
仕事帰りに誰かに刺されて、財布と高価な腕時計を盗まれたらしい。
俺たちの知る限り担任はいい人で、特に恨まれる心当たりはないから金目当ての犯行だろう。
転校生の両親といい担任といい、人の命って儚いんだなと俺は少し怖くなった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
転校生は「君たちのことは怒っていない」と語り手たちを許した。しかしこの時、許されたのは彼らだけ。
クラスメイトに自分の秘密をバラした担任については、明らかな怒りを滲ませていた。
それからすぐに担任は何者かに刺殺されている。
いくらデリケートな問題をバラされたとしても、普通は相手を殺すまで至らない。それゆえ誰も転校生を疑わなかった。
けれど転校生の秘密を知れば、その認識は覆る。
実は転校生が事故によって失ったのは『両親』ではなく『良心』。
担任は良心を失った転校生が他人とトラブルになったら、どんな報復をするか分からないと生徒たちに忠告した。
その一方で良心がないと知られることで、逆に転校生が差別されないように、あえて生徒たちの誤解を解かなかった。
担任はどちらの生徒も傷つかないように最大限の配慮をしたせいで、逆に自分が命を奪われることになった。




