↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/10

ドジっ娘OL 第九話。

つくし野にある春野家の2階。

ひなの部屋から電子キーボードを弾く音が聞こえる。


♪♪♪♪♪~。


ひなは子供の頃から使っている≪コイズミ≫の学習机の上に電子キーボードを置き、ピアノの練習をしていた。


「ふん、ふん、ふん~♪♪♪。」


鼻歌交じりに機嫌よく練習するひな。

1階から母、裕子がひなを呼ぶ声が聞こえた。


「ひなちゃ~ん、晩御飯の時間よ。」


「今、行きま~す。」


1階のダイニングに降り、晩御飯を食べるひなと両親。

父、浩志が間を置き、少し真剣な表情をすると、ひなに話しかけた。


「ひなちゃん、ちょっといいかな?お父さんね、会社を辞めることにしたんだ。」


ひなは突然の父の話にショックを受けた。


「幸い、声をかけてくれる会社の研究所が大阪にあってね。そこへ行こうと思う。」


そう言って食事を終え、浩志は箸を静かに置いた。


「お父さんはお父さんらしく、不器用なりに残りの人生、頑張ってみるさ。お母さんと楽しくやるんだよ、ひなちゃん。」


浩志は立ち上がり、ひなの横を通り過ぎた。

ひなは振り向き、父親を見てうつむくと呟いた。


「不器用なりに、頑張るかぁ……。」



渋谷の老舗洋食店に入るひなと青木。

ひなはライトベージュのコートを脱ぎ、淡いピンクのニットに花柄のスカート姿になると、ダークブラウンの木製の椅子に腰掛けた。

ひなの前にはネイビーのジャケットを着た青木がいる。

 

「こちら、トロトロ卵のオムライスになります。」


洋食店の従業員がオムライスをひなの前に出した。


「うわぁ、美味しそう!!」


ひなは目をキラキラと輝かせ、アホ毛をピョンピョンと揺らした。

美味しそうにオムライスを食べるひな。


「うん、美味しい!!トロトロ卵、最高!!」


青木が意味ありげな表情でひなを見つめた。

ひながオムライスを食べ終わる。


「春野さん、この後、渋谷スカイに行きませんか?」


「えっ、あっ、はい!!」


ひなの顔に満面の笑みがこぼれた。

ひなの中のひなが呟く。


(ナイス!!やるじゃない、この男!!)

 

2人は洋食店を後にし、渋谷スカイへ向かった。

屋上に着くと、2人の眼下に東京の街並みが広がる。

ひなは思わず声を出した。


「わぁ、凄い。」


「そうですね……。」


どこか寂しげな表情で青木が答えた。

2人で過ごした時間は、溶けるように過ぎていった。




夜、つくし野バス停の満開の桜を街灯が照らす。

ひなから父の話を聞く青木。

 

「そう、お父さんにそんなことが……。」


「お父さんが大阪に行っても、お母さんと楽しくやりなさいって。」


ひながニコニコ笑いながら青木に言う。

青木はうつむきながらひなに話しかけた。

 

「春野さん。少しいいかな?」


ひなは青木の雰囲気が変わったことに気づいた。


「俺、会社を辞めて、香川にある実家の酒蔵を継ごうと思うんだ。」


青木がひなを見つめて言う。

唖然とするひな。


「ごめんね……。」


青木は両手で謝る仕草をした。









「……ピアノ聞けなくて。」



あまりのショックで、声が出ないひな。

青木は右手を小さく上げた。


「元気でね。ありがとう……春野さん。」


ひなに背を向け、歩き出す青木。

桜舞うバス停で、ひなは1人立ちすくむだけだった。

コートの裾が春風でひらひらと揺れた。


第九話。 終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。