ドジっ娘OL 最終回。
つくし野にある春野家2階。
ひなは1人キーボードの前で立ち尽くしていた。
右手を伸ばし、細い指先で鍵盤を叩くと、自然と涙があふれ出した。
その時、下からひなを呼ぶ声がした。
母、裕子の声だった。
「ひなちゃ~ん。お父さん出発するよ~。」
涙を右手で拭うと、ひなは明るい声で母に返事した。
「はぁ~い、今、行きます。」
1階に降り、玄関の前まで行くと、父が靴を履いている最中だった。
父、浩志がひなに気づく。
浩志は振り返り、ひなに話しかけた。
「ひなちゃん。母さんをよろしくね。」
「えっ、あっ、うん……。」
ひなは力なく答えると、父を見送った。
数日後、渋谷にある虹色企画。
神崎が落ち込むひなの話を聞いている。
「だから、ひならしくない顔してるんだ。で、ひなはどうしたいの?」
「どうしたいって?私……ドジだし、不器用だし……。」
ひなは首を横に振ると下を向いた。
神崎はハァとため息をつき、ひなに話しかけた。
「不器用だっていいじゃない。自分らしく、ひならしく生きてみなさい!!」
事務員らしき若い女性が神崎を呼んでいる。
「神崎課長、お客様が七階に。」
その場を立ち去り七階へと向かう神崎。
落ち込んで下を向いていたひなが、何かを決めたようにデスクに向かい、辞表を書くと立ち上がった。
ひなはつくし野レンタカーで淡い水色の≪フィット≫を借りた。
≪フィット≫を走らせ自宅に着くと、2階の自室に駆け上がった。
自室にあるキーボードを抱え1階に降りると、母が驚き声をかけた。
「ひなちゃん、何してるの?まだ、昼の2時過ぎよ、お仕事は大丈夫なの?」
「お母さん、行ってくる。」
そう言うと、ひなは家を飛び出し、キーボードを≪フィット≫に積み込んだ。
≪フィット≫を運転するひなが、自分を励ますように話す。
「伝えなきゃ、伝えなきゃダメなんだ!!頑張れ、私!!」
ひなを乗せた≪フィット≫が、夕日に照らされ、香川に向けて走り出した。
翌日の朝、香川、青木酒造。
酒蔵で1人、ヘザーグレーの長袖の作業着を着て、仕事にはげむ青木。
ブーン、キキッ!!酒蔵の外で車が止まる音がした。
青木が酒蔵の奥に掛けられた時計の針を見ると、朝の8時47分を指している。
「こんな朝早くにお客さんの約束なんてあったかな?」
入り口に人の気配を感じ、青木は振り返った。
酒蔵の入り口を見ると、ひなが立っていた。
ひなは驚く青木を真剣な表情で見つめると口を開いた。
「あっ、あの、ピアノ聞いてもらいたくて。」
青木が笑顔で答えた。
「そうだね。まだ聞いてなかったね。」
青木の前で必死にキーボードを弾くひな。
♪♪♪♪♪~。
ノクターンを弾き終わると、立ち上がり青木を見つめるひな。
「あの、私……。」
渋谷、虹色企画。
コツコツとヒールを鳴らしながら出社する神崎。
神崎は自身のデスクに不器用なりに書かれた1通の辞表を見つけた。
そこには、ひなの神崎への感謝、青木への思いが綴られていた。
「そうか、頑張れ、ドジっ娘!!」
再び、青木酒造。
ひなが青木に告白する。
「私……ドジだし、不器用だけど……好きになっていいですか?」
ひなは照れくささから頬をピンク色に染め上げ、青木に背を向けた。
ひなの背中から優しい声が聞こえた。
「ドジだって、不器用だっていいじゃないか?俺は自分に一生懸命な人は好きだよ。」
青木の言葉を聞いて、ひなのアホ毛がピンッと立った。
ひなが振り向いた。
2人は目が合うとケラケラと笑い出す。
青木がひなに声をかけた。
「春野さん、うどん、食べに行こうか?香川のうどんは美味いぞ~。」
ひながキラキラと目を輝かせ、満面の笑みで答えた。
「あっ、はいっ!!」
2人が酒蔵の入り口に向かう。
香川の暖かい春の日差しが2人を照らしていた。
笑顔で酒蔵を後にする2人————
数年後の夏。
ドテッ!!
白いワンピースを着た、小さな女の子がすっ転ぶ。
「ほんまドジっ娘やなぁ。しっかりしぃ、小春も、お姉ちゃんなんねんで。なぁ、純。」
麦わら帽子に白のマタニティワンピースを着たひなが、お腹を擦り、呆れた顔で青木に話しかけた。
青木はひなによく似た、小春を暖かい目で見ると、ひなに話しかけた。
「ドジやって、不器用やってええ。一生懸命に生きてくれたら。ひな、そう思えへんか?」
小春がアホ毛をピョンと立たせ、自身の力で起き上がる。
小春は両親を見上げると、右手の小さな人差し指を立て口を開いた。
「せやな!!」
ひなはクスッと笑うと、ゆっくり優しく小春に話しかけた。
「せや、せや。」
3人は思わずケラケラと笑い出した。
香川の真夏の太陽が、3人を明るく照らしていた。
ドジっ娘OL。 終わり。
ドジで不器用なあなたに愛を込めて————
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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