ドジっ娘OL 第七話。
渋谷、虹色企画。
トゥルル、トゥルル。
神崎のデスクにある電話が鳴り響く。
「ありがとうございます。こちら虹色企画、企画営業一課。」
「へくしゅん!!すみません神崎課長。風邪、ひいちゃいました。」
「春野!?」
神崎は少し驚いた声を出すと、ハァとため息をついた。
少し呆れた顔をしながらも、電話越しに優しくひなに話しかける神崎。
「いいわ春野、今日は休みなさい。ちゃんとお医者様に行くのよ、わかった?」
ひなは春野家のリビングで、スマホを片手に申し訳なさそうな顔をしている。
ひなのアホ毛も申し訳なさそうに垂れ下がる。
「はい、ごめんなさい神崎課長。へくしゅん!!」
ひなの父が、その様子を見守りながらひなに声をかけた。
「じゃ、ひなちゃん、ちゃんとお医者さんに行くんだよ。お父さん会社あるから。」
「はぁい。へ、へ、へくしゅん!!」
ひなはくしゃみで父に答えた。
港区、家電メーカー技術開発部。
そのデスクには≪佐々木昇≫とネームプレートがあった。
デスクに座る小太りの佐々木に呼ばれたひなの父、浩志。
佐々木はグレーのハンカチで、汗で脂ぎった額を拭うと軽い口調で浩志に告げた。
「春野君。すまないが明日からキャリアデザイン室に行ってくれないか?」
「キャリアデザイン室ですか?」
ショックを隠せない浩志。
肩を落とし、自身のデスクに戻ると、浩志は荷物整理を始めた。
浩志は思わず呟いた。
「20年以上、会社の為に働いてきたのにな……。」
浩志がデスクにある写真に手を伸ばす。
そこには、ひながまだ子供の頃の家族写真があった。
「……。」
ひなの父、浩志はただ写真を黙って見つめた。
つくし野総合病院。
若い女性医師が軽い口調でひなに告げた。
「う~ん、風邪ですね。鼻のお薬出しておきましょう。」
「はぃぃ……。へくしゅん!!」
ひなは女性医師にくしゃみで返事すると診察室の外に出た。
会計を済ませ、ひなが病院の出口に向かうと、そこには見覚えのある男性の姿があった。
「熊谷さん?」
「君はたしか、虹色企画の……。」
病院の出口に向かって歩く2人。
歩きながらひなが右隣を歩く熊谷に聞いた。
「熊谷さんも風邪ですか?」
熊谷が足を止め、うつむくと少し疲れた様子で答えた。
「僕は一人っ子でね。母さんがこの病院に入院してるんだよ。」
2人はつくし野総合病院を出て、道路に向かって歩いた。
トゥルルと熊谷のスマホが鳴る。
「青木君か、これから会社に行くよ。仕事の話はそこで。」
ひなの中の小さなひなが鼻声で呟いた。
(ぶぁぁ!?青木さん?)
熊谷が手を上げ、タクシーを止める。
タクシーに乗り込む熊谷が、優しく微笑むとひなに声をかけた。
「じゃあ、春野君。風邪、早く治るといいね。」
ブロロロロと音を鳴らし、去ってゆくタクシーを1人見送りひなは呟いた。
「人生、色々だなぁ……。」
ひなはぼんやり白くかすんだ空を見上げ、つくし野総合病院のバス停に向かった。
ピューと、まだ寒さの残る春の風がひなを突き抜けた。
「さ、寒っ!!」
体を震わせ、ひなは1人バス停の前で大きなくしゃみをした。
「へ、へ、へくしゅん!!」
くしゃみに合わせ、ひなのアホ毛が上下に揺れた。
第七話。 終わり。




