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冒険者ギルド遺書課 〜最期の言葉を届ける者〜  作者: トリバード
白梟

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18/19

神父

本日もよろしくお願いします。

 応接室を出ると、エリアスたちは誰一人として口を開かなかった。


 廊下を歩く靴音だけが、静かな教会に小さく響く。


 玄関へ向かう途中、子どもたちの笑い声がどこからか聞こえてきた。


 その声に足を止める者はいない。


 けれど誰もが、同じことを思っていた。


 アイリスも、この笑い声を守るために剣を振るったのだと。


 やがて玄関へ辿り着く。


 エリアスは静かに振り返り、応接室のある廊下へ一礼した。


 それが、遺書課職員としてではなく、一人の人間としてできる最後の礼だった。


 静かに扉が閉まる。

 

 孤児院には再び、穏やかな静寂が戻った。


◇◇◇


 レイモンドは、一人応接室に残っていた。


 机の上には、一通の白い封筒。


 生命契約の封印は既に解かれている。


 それでも封筒は、アイリスが預けたままの姿で、静かにそこにあった。


 手を伸ばしかける。


 しかし、その指先は封筒へ届くことなく止まった。


 これを開けば、本当に終わってしまう。


 あの子はもう帰ってこない。


 その現実を、自分自身の手で受け入れることになる。


 レイモンドはゆっくりと息を吐くと、封筒をそっと胸へ抱き寄せた。


 便箋越しに伝わる温もりなど、あるはずもない。


 それでも、今だけは娘を抱きしめているような気がした。


 静かに立ち上がる。


 窓辺まで歩き、外へ目を向けた。


 中庭では、子どもたちが思い思いの時間を過ごしている。


 木剣を振り回し、笑いながら駆け回る子。


 木陰で夢中になって本を読む子。


 年長の子どもたちは、小遣い稼ぎのために編み物や縫い物へ黙々と針を動かしていた。


 それぞれに違う毎日を送りながらも、皆、この孤児院で育つ子どもたちだった。


 レイモンドは一人ひとりへ静かに視線を送る。


 泣き虫だった子。


 いたずら好きな子。


 甘えん坊な子。


 頑固な子。


 誰一人として同じ子はいない。


 皆、大切な家族だった。


 その視線が、不意に止まる。


 一人の少女が、小さな木剣を懸命に振っていた。


 何度も振る。


 休んでは、また振る。


 まだぎこちないその剣筋に、レイモンドは目を細めた。


 その姿に、幼い日のアイリスが重なった。


 誰よりも剣が好きだった。


 転んでは泣き、泣き止めばまた木剣を握る。


 夕暮れまで素振りを続けては、腕が上がらなくなって笑っていた。


 年下の子が泣いていれば、いつの間にか隣へ座り、小さな手を握っていた。


 誰かを守れる人になりたい。


 まだ幼かったアイリスは、そう言って笑っていた。


 あの日の小さな背中が、窓の向こうの少女と重なり、ゆっくりと消えていく。


 レイモンドは窓枠へ手を添えた。


 指先が小さく震えている。


 視界が滲む。


 一筋の涙が頬を伝い、静かに窓辺へ落ちた。


「……いけませんね。」


 小さく呟き、袖で涙を拭う。


 神父として。


 この孤児院の子どもたちの父として。


 泣いてばかりはいられない。


 深く息を吸い、ゆっくりと吐く。


 もう一度だけ中庭へ目を向けると、レイモンドは静かに机へ戻った。


 胸に抱いていた白い封筒を、そっと机へ置く。


 震える指先で封を切る。


 中から、一枚の便箋をゆっくりと取り出した。


 見慣れた文字だった。


 読み書きの勉強の際に、何度も見てきた、几帳面で優しい文字。


 レイモンドは便箋を両手で持ち、静かに視線を落とす。


 そこには、最初の一行だけが書かれていた。


『レイモンド神父様へ』


 レイモンドは、小さく目を閉じた。


 そして、娘からの最後の手紙を読み始めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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