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冒険者ギルド遺書課 〜最期の言葉を届ける者〜  作者: トリバード
白梟

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19/19

『お父さん』

本日もよろしくお願いします。

 レイモンドは、小さく息を吸った。


 震える指先で便箋を持ち直す。


 娘が残した、最後の言葉。


 一文字も見逃すまいと、ゆっくりと視線を落とした。


⸻


 レイモンド神父様へ。


 この手紙を読んでいるということは、私は約束を守れなかったんですね。


 必ず帰ってきます。


 そう言って孤児院を出たのに、ごめんなさい。


 きっと神父様は、「謝ることじゃありません」と言うんでしょうね。


 でも、やっぱり最初に謝らせてください。


 本当に、ごめんなさい。


 孤児院のみんなは元気にしていますか。


 また新しい子が来ているかもしれませんね。


 泣き虫の子も、いたずら好きな子も、ちゃんとご飯を食べていますか。


 神父様は、無理をしていませんか。


 忙しいと、自分のことは後回しにしてしまうから少し心配です。


 私の部屋に遺したもので、まだ使えるものがあれば、孤児院で使ってください。


 服でも、本でも、何でも構いません。


 誰かの役に立ってくれたら、私は嬉しいです。


 それから、一つだけお願いがあります。


 白梟のみんなを責めないでください。


 みんな、本当に強くて、優しくて、頼れる仲間でした。


 最後まで諦めず、最善の選択をしたはずです。


 だから、誰も悪くありません。


 私は自分で選んで、自分で決めて戦いました。


 後悔はありません。


 幸せな冒険者でした。


 最後くらいは、こう呼ばせてください。


 お父さん。


 血は繋がっていなくても、お父さんはずっと私のお父さんでした。


 初めて名前をもらって。


 初めて「おかえり」と言ってもらって。


 初めて誰かに心から叱られて。


 初めて誰かに抱きしめてもらいました。


 私には何もありませんでした。


 でも、お父さんが家族をくれました。


 帰る場所をくれました。


 だから私は、一人ぼっちだったと思ったことは一度もありません。


 それから、一つだけ謝らせてください。


 私はずっと、


 「アイリス・ノエル」


 と名乗っていました。


 孤児である私に本当は家名なんてないのに。


 勝手に、お父さんの家名を名乗ってしまって、ごめんなさい。


 でも、あの名前を書くたびに、とても嬉しかったんです。


 自分にも家族がいるんだって。


 帰る場所があるんだって。


 そう思える、大切な名前でした。


 だから最後まで、その名前でいさせてください。


 お父さん。


 本当にありがとうございました。


 私は、とても幸せでした。


 またいつか会えたら、その時はちゃんと、


「ただいま」


 って言いますね。


 その日まで、どうかお元気で。


              アイリス・ノエル


⸻


 便箋を持つレイモンドの手が、小さく震えた。


 視界は滲み、文字がぼやけていく。


 それでも彼は、最後の一文字まで何度も何度も目でなぞった。


「……おかえり。」


 その声は、誰にも届かないほど小さかった。


 けれど、その一言には、娘へ伝えたかったすべてが込められていた。


 静かに便箋を胸へ抱く。


 もう涙を拭うことはしなかった。


 窓の外では、子どもたちの笑い声が今日も変わらず響いている。


 アイリスが命を懸けて守った、穏やかな日常。


 レイモンドは目を閉じ、その音に静かに耳を傾けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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