面影
本日もよろしくお願いします。
澄んだ鐘の音が、午後の風に乗って響いていた。
白い石造りの教会。
その隣には、木造の小さな建物が寄り添うように建っている。
孤児院だった。
庭では十人ほどの子どもたちが追いかけっこをし、笑い声が絶えない。
アスター家で張り詰めていた空気とは、まるで別世界のようだった。
「わあっ!」
一人の男の子が教会の門へ視線を向ける。
「あっ、ダリウスにーちゃんだ!」
その一声をきっかけに、遊んでいた子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。
「セレナねーちゃん!」
「カイルにーちゃんもいる!」
小さな手がセレナの腕へ飛びつく。
セレナは驚きながらも、ぎこちなく笑みを浮かべた。
「みんな、元気そうね。」
「うん!」
「この前の木の実、おいしかった!」
「今度はもっといっぱい取ってきてよ!」
無邪気な笑顔。
白梟の三人も、その笑顔に応えるように微笑む。
けれど、その笑みはどこか力なかった。
一人の少女が辺りを見回す。
「あれ?」
「アイリスねーちゃんは?」
その一言で。
時間が止まったようだった。
ダリウスの表情が固まる。
カイルは目を伏せる。
セレナの笑顔が消えた。
誰も答えられない。
子どもは、不思議そうに首を傾げるだけだった。
その沈黙を破ったのは、リシェルだった。
子どもたちの前へしゃがみ込み、穏やかに微笑む。
「今日は来ていないの。」
「そうなんだー。」
少女はあっさり頷く。
何も疑わない。
だからこそ、その無邪気さが胸を締め付けた。
「ねえ、レイ先生はいらっしゃるかな?」
「あっ、いるよ!」
男の子が教会を指差す。
「礼拝堂の奥!」
「お花のお水あげてる!」
「ありがとう。」
リシェルは優しく頭を撫でる。
子どもたちは再び庭へ駆け出していった。
「ねー、今度は鬼ごっこしようね!」
「アイリスねーちゃんも連れてきてね!」
その声に。
白梟の三人は振り返ることができなかった。
エリアスも静かに目を閉じる。
アイリスは、この子たちの笑顔を守るために剣を取ったのだろう。
そう思うと、胸の奥が静かに痛んだ。
「行きましょう。」
短く告げる。
一行は教会の中へ足を踏み入れた。
高い天井。
色鮮やかなステンドグラスから差し込む光。
静寂に包まれた礼拝堂の奥で、一人の老人が祭壇へ飾る花を整えていた。
白髪交じりの髪。
穏やかな横顔。
振り返ったその表情には、人を安心させるような優しさが滲んでいる。
「こんにちは。」
老人は柔らかく微笑んだ。
「すみませんね。水やりをしていたもので……。」
「どちら様でしょう。」
エリアスは一歩前へ出る。
「突然の訪問、失礼いたします。」
「冒険者ギルド危険任務管理局・生命契約管理課、エリアス・アッシュと申します。」
老人の笑みが止まる。
その目が、エリアスの胸元の紋章へ向けられる。
「……生命契約管理課。」
小さく、その名を繰り返した。
そして。
何かを悟ったように、静かに目を伏せる。
「……。」
顔を上げ、白梟の面々を見る。
ゆっくりと息を吸い。
震える声で問いかけた。
「……アイリス、ですか。」
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