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冒険者ギルド遺書課 〜最期の言葉を届ける者〜  作者: トリバード
白梟

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16/19

面影

本日もよろしくお願いします。

 澄んだ鐘の音が、午後の風に乗って響いていた。


 白い石造りの教会。


 その隣には、木造の小さな建物が寄り添うように建っている。


 孤児院だった。


 庭では十人ほどの子どもたちが追いかけっこをし、笑い声が絶えない。


 アスター家で張り詰めていた空気とは、まるで別世界のようだった。


「わあっ!」


 一人の男の子が教会の門へ視線を向ける。


「あっ、ダリウスにーちゃんだ!」


 その一声をきっかけに、遊んでいた子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。


「セレナねーちゃん!」


「カイルにーちゃんもいる!」


 小さな手がセレナの腕へ飛びつく。


 セレナは驚きながらも、ぎこちなく笑みを浮かべた。


「みんな、元気そうね。」


「うん!」


「この前の木の実、おいしかった!」


「今度はもっといっぱい取ってきてよ!」


 無邪気な笑顔。


 白梟の三人も、その笑顔に応えるように微笑む。


 けれど、その笑みはどこか力なかった。


 一人の少女が辺りを見回す。


「あれ?」


「アイリスねーちゃんは?」


 その一言で。


 時間が止まったようだった。


 ダリウスの表情が固まる。


 カイルは目を伏せる。


 セレナの笑顔が消えた。


 誰も答えられない。


 子どもは、不思議そうに首を傾げるだけだった。


 その沈黙を破ったのは、リシェルだった。


 子どもたちの前へしゃがみ込み、穏やかに微笑む。


「今日は来ていないの。」


「そうなんだー。」


 少女はあっさり頷く。


 何も疑わない。


 だからこそ、その無邪気さが胸を締め付けた。


「ねえ、レイ先生はいらっしゃるかな?」


「あっ、いるよ!」


 男の子が教会を指差す。


「礼拝堂の奥!」


「お花のお水あげてる!」


「ありがとう。」


 リシェルは優しく頭を撫でる。


 子どもたちは再び庭へ駆け出していった。


「ねー、今度は鬼ごっこしようね!」


「アイリスねーちゃんも連れてきてね!」


 その声に。


 白梟の三人は振り返ることができなかった。


 エリアスも静かに目を閉じる。


 アイリスは、この子たちの笑顔を守るために剣を取ったのだろう。


 そう思うと、胸の奥が静かに痛んだ。


「行きましょう。」


 短く告げる。


 一行は教会の中へ足を踏み入れた。


 高い天井。


 色鮮やかなステンドグラスから差し込む光。


 静寂に包まれた礼拝堂の奥で、一人の老人が祭壇へ飾る花を整えていた。


 白髪交じりの髪。


 穏やかな横顔。


 振り返ったその表情には、人を安心させるような優しさが滲んでいる。


「こんにちは。」


 老人は柔らかく微笑んだ。


「すみませんね。水やりをしていたもので……。」


「どちら様でしょう。」


 エリアスは一歩前へ出る。


「突然の訪問、失礼いたします。」


「冒険者ギルド危険任務管理局・生命契約管理課、エリアス・アッシュと申します。」


 老人の笑みが止まる。


 その目が、エリアスの胸元の紋章へ向けられる。


「……生命契約管理課。」


 小さく、その名を繰り返した。


 そして。


 何かを悟ったように、静かに目を伏せる。


「……。」


 顔を上げ、白梟の面々を見る。


 ゆっくりと息を吸い。


 震える声で問いかけた。


「……アイリス、ですか。」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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