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冒険者ギルド遺書課 〜最期の言葉を届ける者〜  作者: トリバード
白梟

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12/19

返す者、届ける者

本日もよろしくお願いします。

 翌日の昼前。


 地下書庫には、いつもと変わらない静かな時間が流れていた。


 帳簿へ記録を書き込むエリアス。


 書類を整理するリシェル。


 暗い表情はしているものの、普段通りの業務に努めるミア。


 昨日の出来事が嘘のような静けさだった。


 机の上の魔導通信具が淡く光る。


 エリアスは受話部へ手を伸ばした。


「生命契約管理課、エリアス・アッシュです。」


『救助局です。』


『白梟の生還者三名の保護が完了しました。』


『ダリウス・グレイ。』


『カイル・レンフォード。』


『セレナ・ミスト。』


『三名とも命に別状ありません。』


 エリアスは帳簿へ三人の名を書き記す。


『死亡確認。』


『ルーク・アスター。』


『アイリス・ノエル。』


『以上です。』


「確認しました。こちらの状況とも一致しています。」


『一致確認いたしました。』


「では、遺書返却業務へ引継ぎます。」


 短く答え、通信が切れる。


 エリアスは静かに帳簿を閉じた。


 地下書庫には再び静寂が戻る。


 リシェルは何も尋ねなかった。


 帳簿が閉じる音だけで、十分だった。


     ◇


 その日の午後。


 地下書庫の扉が三度叩かれる。


「……失礼する。」


 入ってきたのはダリウスだった。


 その後ろにはカイルとセレナ。


 三人とも傷の手当ては済んでいた。


 だが、その表情だけは、死地となった森から帰ってきていなかった。


 エリアスは静かに一礼する。


「お待ちしておりました。」


 返事はない。


 エリアスは書架へ向かった。


 白梟の棚。


 青白い光を灯し続けた三通を取り出す。


 一通ずつ。


 丁寧に。


 三人の前へ差し出した。


「お預かりしていたものを、お返しします。」


 誰もすぐには受け取れなかった。


 やがてダリウスが両手で封筒を受け取る。


 続いてカイル。


 最後にセレナ。


 三人とも、封筒を見つめたまま動かない。


「……俺の判断が遅かった。」


 ダリウスが小さく呟く。


「違う。」


 カイルが首を振る。


「あの毒だ。」


「回復魔法が効かねぇなんて聞いてねぇ。」


 セレナは封筒を抱えたまま俯く。


「それだけじゃない……。」


「あのゴブリンたち。」


「統率個体なんかじゃなかった。」


 静かな声だった。


「人が……いた。」


 地下書庫へ沈黙が落ちる。


 ダリウスは苦々しく続ける。


「笛で動きを合わせていた。」


「毒矢も。」


「あんな連携、魔物だけでできるはずがない。」


 拳が小さく震えていた。


「俺がもっと早く気付いていれば――」


「ダリウスさん。」


 静かな声だった。


 エリアスが名前を呼ぶ。


 三人の視線が向く。


「その件につきましては、危険任務管理局と調査局が対応します。」


「ここでは、私たちが扱う案件ではありません。」


 責めるような口調ではない。


 ただ、事実を伝えるだけだった。


 三人も、それ以上は口にしなかった。


 地下書庫に再び静けさが戻る。


 しばらくして。


 ダリウスがゆっくりと口を開いた。


「……ルークとアイリスの遺書は。」


 エリアスは頷く。


「本日、ご指定の宛先へお届けします。」


 ダリウスは視線を落とした。


 少し迷うように息を吐く。


「俺たちも……。」


「同行させてもらえないか。」


 エリアスは少しだけ考えた。


 遺族。


 身元引受人。


 同行者。


 業務規程を頭の中で確認する。


 そして答えた。


「業務の妨げにならないのであれば、問題ありません。」


 ダリウスは深く頭を下げた。


「……ありがとう。」


 エリアスは首を横に振る。


 礼を受けることではない。


 仕事だからだ。


 書架へ向かう。


 光を失った二通の封筒を、静かに両手で取り上げた。


 ルーク・アスター。


 アイリス・ノエル。


 二つの名前を確かめる。


 振り返る。


「では。」


 エリアスは静かに言った。


「行きましょうか。」


 三人は小さく頷く。


 地下書庫の扉が開く。


 遺書を返す仕事は終わった。


 エリアスは先頭を歩く。


 その腕には、二通の封筒。


 ダリウスたちも、静かにその後へ続いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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