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4話 - ウィルフレッド公爵

 玉座に座る王妃が、ふと会場に目を凝らす。


「……あら? 彼、見当たりませんわねぇ」

「来場していたはずですが」とカーティス王太子も会場を見回した。


 ふむ、と腕を組む国王。


「アイリーンの婚約者候補筆頭……あの、破天荒のアイリーンともうまくやれそうな――」



 


「オルブライト公爵家長男、ウィルフレッド・オルブライトと申します。アイリーン王女様」


 アイリーンを引き寄せた、やや小柄な貴族風の青年が、白と黒二色の短髪を揺らしながら深々と頭を下げた。

 ぴた、と動きを止める騎士団の皆。


「……オルブライト公爵家?」


 ロヴィも目を丸くする。

 

「って、確か怖いもの知らずで、黒い鬼神とか呼ばれてる?」とユージーン。

「めったに社交界に顔を出さない……」とレイ。

「あー……変人――」


 そうミックが言いかけた瞬間――ウィルフレッドが迷わず剣を抜いた。

 

 咄嗟に躱し背後へ飛ぶミックの前に、ロヴィは身体を滑り込ませ、剣を受ける。

 剣の交わる高い金属音が響いた。


「……っ……!」

 

 ロヴィは、ぎり……と顔を歪める。


 ウィルフレッドが、わずかに口端を上げる。

 そのまま剣を振り抜き、ロヴィを弾き飛ばした。


 背後にいたミックが咄嗟に膝蹴りで止める。


「っだあ!!!」


 痛みに悶えるロヴィ。


「……いっ…………お前……止め方……!!!」

「あー悪ぃ悪ぃ」とけらけら笑いながらも、ウィルフレッドへ鋭い眼光を向けているミック。


 変わらず涼しい顔のウィルフレッドへ、震える手を抑えながら、ロヴィは苦い顔を向けた。


「……王女様の前で無礼ですよ。剣をお納めください」

「王女様の護衛にしては、随分とお粗末だな」


 カチン、と4人はウィルフレッドを睨む。


「弱いし、ぎゃあぎゃあとうるさい上に頭も悪そう……もう少し品の――」



 だん!!!



 と、その時、アイリーンが足を床に叩きつけた。

 

 え、と固まる皆。


 動揺する皆をよそにアイリーンは、そのまま、ぐり……! とウィルフレッドの爪先を踏みつける。

 さすがに皆驚き、ぎょっ!? と目を見開く。


「……ウィルフレッド様? 私の愛する騎士様たちを侮辱するは、この私を侮辱するも同じ。これ以上の無礼は――」


 すると、今度はウィルフレッドがアイリーンの手をすっと持ち上げた。

 不思議そうに目を丸くするアイリーンへ、にや、と笑みを向ける。


 すると、そのまま流れるように、甲へキスを落とした。

 

 ロヴィは、息を止めた。


「これはこれは、予想以上にやんちゃなお姫様だ」

「……――!」


 アイリーンも、口をぱくぱくとさせたまま声が出ない。

 次の瞬間――


「――いいな」


 ぴた、と皆動きを止める。

 え……と恐る恐るウィルフレッドを見た。


「貴方のような強気の女性は好きだ。いい意味で裏切られた」

「えっ?」

「やんちゃなところも実に愛らしい。手に入れたくなるな」

「えっ!?」


 そう言いながら顔を寄せるウィルフレッドに、不慣れなアイリーンが、ひゃあ……! と頬を染める。


「無礼な――」


 咄嗟にロヴィが抜いた剣を、ウィルフレッドは素手ですぱーん! と叩き落とす。

 あ、こいつガチでやべー奴だわ、と引く皆。


 見かねたミックが、思わず口を挟む。


「いやー……こういっちゃアレですけど、多分思ってる100倍はやんちゃですよ?」


 まるで意に介していない表情のウィルフレッドが、ははっ! と笑う。


「それは楽しそうだ」

「!?」


 驚く皆。


「いや……すぐ跳ぶし逃げるし――」とレイ。

「元気でいいな」

「噛みつくし」ユージーン。

「情熱的じゃないか」

「…………かわいいですよ?」


 かわいい、しか出ないロヴィに、おい、と皆思わず突っ込む。

 赤い瞳を真ん丸にして見上げるアイリーンを見て、ウィルフレッドが楽しそうな笑い声を上げた。


「のようだな」




 は、離してください! と腕を振りほどこうとがしがしと蹴るアイリーンを、照れてる王女様も可愛らしい! と楽しそうに見つめているウィルフレッド。

 何だか戦意を削がれた皆は、その様子にドン引きであった。


「やべーの出てきましたね……」

「アイリーン姫の蹴り、なかなか強烈だけどねぇ」

「何かまるで話が通じる気がしない……」


 ミック、ユージーン、レイが、次々声を漏らす。

 そして1人、真っ白になって固まっているロヴィ。

 

 すると、はたとアイリーンは動きを止め、ウィルフレッドを見上げた。


「……もしや、ウィルフレッド様は、私の婚約者候補なのですか?」

「はい。そのために今日、参加いたしました」


 そうなんだ……婚約者候補……! とかすかに瞳を輝かせるアイリーン。

 はっ! と意識を取り戻したロヴィが、むっ! と顔を歪める。


 アイリーンは慌てて、ぱぱっ! とドレスを整えるとふわっと髪をなびかせ、ウィルフレッドにらしからぬ作り笑みを向けた。


「ウィルフレッド様は、何の動物の血を引かれているのですか?」


 

「ラーテルです」


 

「……――!?」


 皆は、一斉に固まった。


「……ラー……?」

「え? 何て?」


 ざわつく騎士団の皆。

 アイリーンが、きょとんとウィルフレッドを見上げた。


「ラーテルって、何ですか?」

「よく言われます」




 

「――で、結果的に婚約者候補の公爵家子息を落としたと」


 アイリーンを遠目から眺めながら、イライザが楽しそうに笑った。


「落ちるところなかったですけど」

「淑女教育、関係ないよねぇ」

「絶対落とせなさそうな人落とすあたり、さすが姫……」


 ミック、ユージーン、レイも、揃って呆れた声を漏らす。

 自然と、会場でアイリーンをエスコートするウィルフレッドへ皆の目が向いた。


 周囲の王族貴族たちを平然と睨み、喧嘩をふっかけるような態度のウィルフレッドに、うわー……、と顔をしかめる。

 見かねたアイリーンの兄、カーティスがウィルフレッドに声をかける。

 その瞬間、あっという間に言い合いを始める2人に、え……、と皆引いたような表情を浮かべた。


 呆れ顔のミック。


「……王太子殿下にも……あの態度?」

「さすが、ライオンをも臆さない、世界一恐れを知らないラーテルねぇ」


 興味深そうに、イライザが笑う。

 先ほどの奇行を目の当たりにしたレイとユージーンも、やや冷静さを取り戻して失笑混じりの雑談に花を咲かせた。

 

「まあ……その彼の功績で今の地位があるのが、オルブライト公爵家ですからね」

「アイリーン姫と結婚して、その地位を確固たるものにしたいっていうのは、理解できなくもない?」


 すると、あれ? とイライザがきょろきょろと周囲を見渡した。


「ていうか、ロヴィは?」

「ああ……アイリーン姫が多分――」


 そう言いながら、レイはアイリーンにちらっと目を向けた。




 カーティスと言い合うウィルフレッドを、ぽつん、と見つめているアイリーン。


 すると、背後から軽く引き寄せられ、えっ!? と目を見開く。

 思わず見上げた先にある不機嫌そうな顔に、きゅん……! と胸が鳴った。


「アイリーン姫を平気で1人にする男なんて、ロクな男じゃないですから」

「……ロヴィ……!」


 むっ、としたまま、小声で囁くロヴィ。


「歩けますか?」

「!」


 その心配そうな声に、わずかにアイリーンの胸が高鳴った。


「……何で」

「足、いつ痛めたんですか……」


 恥ずかしそうに俯くと、ちらっと視線だけロヴィに向けた。


「……ウィルフレッド様の……足を踏んだとき?」

「でしょうね」


 呆れながら手を添えるロヴィに、アイリーンはこっそり頬を染める。


「……身体、強くないのですから」

「ちょっと力の入れ方を間違えると、痛めるだけです」

「しょうもない痛め方、しないでください」

「しょうもなくありません」


 ぷいっ、と顔を背けるアイリーン。


「騎士たちの名誉に比べれば、私の足など大したことではありません」


 ウィルフレッドの言葉を思い出したのか、むすっと頬を膨らませるアイリーンを、ロヴィは愛おしそうに見下ろした。

 ウィルフレッドに怒りをぶつけ足を思いきり踏みつけた瞬間を思い出し、ふっと笑みが漏れる。


 そういうところだよなあ、と小さく笑うと、何ですか薄気味悪い、と言ってアイリーンはすんと目を細めた。



 するとアイリーンはロヴィの胸に、ふわっと頭を預け目を伏せた。

 ロヴィは、ぴしっと固まる。


 じっと動きを止めるアイリーンに、ロヴィも動けない。

 少しして、ちらっとロヴィへ視線を上げるアイリーン。


「どうですか? こうしたら殿方はどきどきすると聞いたのですが。これで落とせますか?」


 ふふっ、と可愛らしく笑うアイリーンに、ロヴィは顔を真っ赤に染める。


「……俺にしてどうするんですか……」


 ロヴィの速い鼓動を聞きながら、アイリーンは嬉しそうに再び目を伏せたのだった。




 次の瞬間――カーティスとウィルフレッド、2振りの剣がロヴィに向けて振り下ろされた。


「……ハイエナ騎士風情が……アイリーンに何してる……!」

「ハイエナ……なるほど、薄々気づいてたが、人のものほど欲しくなる性質(たち)かお前?」

「いや、アイリーン姫ほっといたのあなたたち――ちょ……ええ!?」

 

 ロヴィ……と目を伏せたままぴたっとくっついて離れないアイリーンに、ちょ、姫、空気読んで!! と思わず叫ぶ。

 平然と振り下ろされる剣を、ロヴィはアイリーンを抱き上げながら慌てて躱した。

 

 あらあらアイリーン姫楽しそうねぇ、と微笑ましく見守るイライザの横で、男衆は、あーロヴィどんまい……と憐れみの目を向けていたのだった。




 その会場の一角。


「……例の話通りだな」

「ああ……とすると、あの噂……信憑性があるな」


「あの……赤い瞳」


 そう小さく呟くと、アイリーンへ視線を向ける2人の貴族は目を細め、にや、と静かに冷笑を浮かべた。

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