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3話 - パーティー当日

 クライヴ誕生パーティー当日。


 部隊長・ブラッドリーの元へ集まるロヴィ、ミック、レイ、ユージーン、イライザ。

 大柄で強面のブラッドリーが、皆を一瞥する。


「今日は多くの王族貴族に加えて、新興貴族たちも参加する。混乱を起こさぬよう、ぬかりなく警護……おい、ロヴィはどうした?」


 あー……、と壁にめり込んで上の空のロヴィに、ブラッドリーは困惑の色を浮かべる。

 ミックが、ははっと笑ってブラッドリーへ顔を向けた。


「あー、すみません隊長。王女様が婚約者を探してるって話、今朝初めて聞いたみたいで」

「そうか……何か知らんが集中しろ、ロヴィ」

「容赦ない……!」

「話聞いてました? 隊長」


 笑うユージーンの横で、呆れたような声を漏らすイライザ。

 新興貴族ね……と小さく呟くレイが軽く空を仰ぐと、はぁー……、とため息をついた。


「……何事もないといいけど」




「ここ最近、会ってないんだって?」


 城内を歩きながら、ユージーンが愉快そうにロヴィの顔を覗き込む。


「……うるさいですよ、ホークアイさん……」

「ウサギ姫が、やたら最近勉強熱心だそうで」


 とけらけら笑いながら、茶化すような目線をロヴィに向けるミック。


「自分で姫にけしかけて姫が勉強にのめり込んで、自己嫌悪で壁にめり込んでるとか、ほんとお前救いようねーな」

「……腹立つなミックお前」

「あら……最近アイリーン姫がいい男を落とすって言ってたのは、ロヴィが言ったからだったのね?」


 ぐさっ……、とイライザの言葉がロヴィに刺さる。


「さすがウサギ姫担当……よくわかってるよねぇ、アイリーン姫の扱い方」とユージーン。

「なるほど……じゃあ、今日は気合い入れて婚約者候補の誰かを落としにくるわけだ」とレイ。

「楽しみねー、それ見守るの!」とイライザがとどめを刺した。


 言わなきゃよかった……、と項垂れるロヴィ。

 可笑しそうに笑いながら、ミックがロヴィを軽く押した。


「まーまー、早く迎えにいけよ、護衛騎士」




 パーティー会場まで護衛するために、アイリーンの部屋の前まで来たロヴィ。

 はあ――……! と大きくため息をつく。


『気合い入れて婚約者候補の誰かを落としにくるわけだ』

 

 扉を叩こうと手を上げ、気の重さで動きを止める。

 むっと口をとがらせた。


「……そのままで十分可愛いんだから、別にわざわざ落としに行く必要なんて……いや落とさなくていい。落とさなくていいんだけど」

 

 小さく自問自答する声が、しんと静まり返る城の廊下へと吸い込まれる。


 ぐっと1度拳を握ると、首をぶんぶんと横に振った。俺は護衛騎士、護衛騎士! と言い聞かせる。

 ロヴィはすっと背筋を正し、コンコン、と部屋の扉を叩いた。


「アイリーン姫。お時間でございます。準備――」


 その瞬間、扉が勢いよく開いた。


 普段より煌びやかなパーティー用のドレスに身を包んだアイリーンが、ぴょん! と跳び出してくる。

 

 ロヴィは目を丸くしながらも、反射的に受け止めた。

 きらきらと美しく輝くアイリーンに息を止めると、思わず見惚れる。


 すると、ロヴィに抱き上げられているアイリーンが、ふわっ、ふわっ、と輝くような白い髪をなびかせた。


 ??? とロヴィは目を見開いたまま、不思議そうにぱちぱちと目を瞬く。


「今の仕草、どうですかロヴィ! 可憐ですか? 落ちますか??」


 ぽかん、と口を開いたまま固まるロヴィ。

 あまりのいつも通りのアイリーンに、思わず眉を下げ、安堵したように吹き出した。


「……世界一可憐ですよ」

「ほんと!?」

「もうちょっとおしとやかに――」


 言いかけて、ロヴィは口をつぐむ。


「はい?」

「……いえ。何でもありません」


 何の香りですかこれ? と素でアイリーンのドレスへ顔を埋めるロヴィに、きゃ! とアイリーンが楽しそうな声を上げた。




「……楽しそうだな」


 突如、背後からぬっと現れたクライヴに、ロヴィは、びくっ! と大きく身体を弾ませた。

 思わず落としそうになったアイリーンを、しかと抱き留める。

 ロヴィは慌てて頭を下げた。


「クライヴお兄様」

「アイリーン。騎士に甘えるな。適度に距離を保て」

「はーい」


 むー、と膨れながらも、アイリーンはロヴィから跳び降りた。

 顔を上げながら、ロヴィは呆れたような視線をクライヴへ向ける。


「……いつからいたんですか、第2王子殿下……」

「お前が扉の前でため息をついているあたり」


 え? と見合う2人。

 こわ……と小さく呟くロヴィ。

 

「毎度毎度、どこから出てくるんです? 暇なんですか?」

「何だ、ロヴィ」


 ぎろ、と睨まれ、ロヴィは申し訳ありません、と口をつぐむ。


「アイリーン。エスコートしてもいいか?」

「はい、お兄様、喜んで……!」


 アイリーンは嬉しそうにクライヴの腕にくっついた。


「私が婚約者を見つけたら、これが最後かもしれませんものね!」

 

 そう言ってアイリーンは無邪気な笑みを向ける。

 ぴし、と固まるクライヴに、ロヴィは思わず吹き出した。




 パーティー会場へ着くと、クライヴとアイリーンの入場と共に、ロヴィは会場へと足を踏み入れる。

 主催の国王と王妃はすでに玉座に着席しており、さすがの異彩を放っていた。

 

 会場で主賓たちと会話を弾ませるカーティスには、遠目から貴族令嬢からの羨望の眼差しが注がれていた。

 王太子であるカーティス、第2王子であるクライヴともに、未だ婚約者はいない。


 先にあなたたちの婚約者見つけてくださいよ……と呆れたような目を向けるロヴィ。

 

 アイリーンをエスコートするクライヴにも、招待客が次々と話しかけに訪れていた。

 主役であるクライヴに祝いの言葉を述べているように見えて、ちらちらと目線はアイリーンへ向いており、ロヴィは小さく舌打ちする。

 アイリーンが婚約者を探しているという噂は、すでに貴族中の噂になっているようだった。


 俺の耳に入るの遅すぎでは!? とあえて噂を伝えていなかったであろう先輩たちを恨めしそうに見ると、相当情けない顔をしていたのだろうか、ぷっ! と吹き出す皆に、ひどい! と思わず顔を覆う。


 すると、アイリーンに話しかける貴族たちが、そそくさと立ち去る姿に、おや、とロヴィは目を丸くする。

 

 よく見ると、アイリーンの隣に立つクライヴが無言の圧で蹴散らしていた。

 逃げるように立ち去る貴族たちを不思議そうな顔で見つめるアイリーンの後ろで、さすがですクロヒョウ殿下……! とロヴィは、ぐっ! と親指を立てたのだった。





 そしてパーティー中盤。

 護衛の交代をしていると、あれ? とレイが小さく声を上げた。

 え? と皆もレイの視線の先を何気なく見る。

 

 そこで、アイリーンが会場から姿を消していることに気がついたのだった。





 「何してんの、アイリーン姫担当!!」

 

 城内を全力で駆けながら、ユージーンがロヴィに叫ぶ。


「アイリーン姫、ほんとちょこまかと逃げ回りますからねぇ」と頬を染めるロヴィ。

「ほっこりしてる場合じゃねえからな、ロヴィ」とミック。

「多分自分の足で出て行ったんだろうけど、万が一もあるから」とレイ。


 はっ! と視界の端に動くものを捉えたユージーンが、ざざー! と立ち止まった。


「あ、いた」

「えっ、どこ!?」

「庭の、花のドームの裏」

「遠っ!!!」


 走り出すロヴィとミックの前に、ばっ! と出るレイ。


「わかった……!」


 あっという間に走り去るレイに、ぽかん、と口を開けて固まりながら、その背を目で追うロヴィとミックであった。




 少しして。

 むすっとした顔のアイリーンを小脇に抱えたレイが、涼しい顔で現れた。


「捕まえてきた」


 息を切らしているミックとユージーンの横でロヴィが、おお……! と感嘆の息を漏らす。


「……さすがチーターの血……!」


 おろしてよレイー! とアイリーンが足をパタパタさせている。



 すると、そのアイリーンをばっ! と横から瞬く間に引き寄せる腕に、騎士団全員が一瞬にして殺気立った。

 騎士団を前に平然と王女の手を引くその人物の涼しい笑みに、ロヴィの背がすっと凍る。


 腰を引き寄せられ、目を丸くするアイリーン。


「誰だ!?」


 ロヴィはその人物を睨むように見ながら、反射的に剣の柄に手を当てた。

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