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20話 - ヴァロン王国

 ピ! ピ! とさえずる鳥の鳴き声で目を覚ますアイリーン。


 起き上がると、朝……? とぽー……っとまどろむ。


 ふと視界に入った机の上の鳥かごを見て微笑むと、するっとベッドから降りた。

 鳥かごの扉を開けた途端、嬉しそうにアイリーンの指に飛び乗ってくる鳥に目を細める。


「おはようございます、ロヴィ。愛しています(※練習)」


 きゃ! と恥じらうと、ちゅ、と鳥にキスを落とした。




「ロヴィ!!!」

「はい、アイリーン姫。おはようございます」


 ロヴィにぴょん! と跳び乗るアイリーン。

 いつものように受け止めたロヴィが、そのまま抱き上げた。


「おはようございます、ロヴィ。あ……朝ごはんは何を食べましたか?(※失敗)」

「コーヒーだけです」


 はは、少し寝坊しまして、と笑うロヴィに、まあ……ロヴィ、コーヒーが好きなのね……? メモメモ、とインプットする。


 はっ! これは(失敗したけれども)よい話題では!? とアイリーンは目を輝かせた。


「ロヴィは、好きなコーヒーのお店はありますか?」

「え?」


 一瞬考えるロヴィ。


「そういえば、ないですかね?」


 ぱぁ……! とアイリーンの顔が煌めいた。

 

「それは困りましたね!! では、今日からお昼をカフェ――」

「はい、ダメ――!」


 ぶぶ――! と目の前で腕を交差させているユージーンを、すん……とアイリーンは冷たい目で見下ろした。




「アイリーン姫の本日のご予定は、午前ヴァロン王国についての知識教育、午後ヴァロン王国についての知識教育、だそうです」


 じと……とユージーンの指を噛んでいるアイリーンに、ホークアイさんうらやましいです、とやるせない表情を浮かべているロヴィ。

 淡々と話を進めるリアムへ顔を向けた。


「聞いていません、だそうです」

「あ……そうなんですね。よくわかりますねロヴィさん」


 リアムが、ははっと笑う。


「私も先ほど隊長から聞いたところですので」

「何か、色々急遽だよね」


 さらっとそう告げるレイ。

 ロヴィは、え? とわずかに目を見開いた。


「何がですか? レイさん」

「ほら、昨日急にヴァロン王国の名前が出てきたじゃない? 別にナヴランドとヴァロンって友好国でもないし。しかもカーティス王太子殿下の婚約者って」

「確かに急な話だねぇ」


 ユージーンも痛みを堪えながら頷く。

 ふむ、とリアムは腕を組んだ。


「ヴァロン王国は……第1王女様とその弟君の王子殿下のごきょうだいでしたよね? もしや、王位継承の問題でも」

「第1王女様が王座に就きたがってるってこと?」とユージーン。

「え……だとすると、カーティス王太子殿下を王配にってこと? それは現実的じゃない気が……」とレイ。

「第1王子も婚約者を探してたりして」


 にや、とロヴィを見ながらそう言うユージーンに、ロヴィはぴし、と固まった。



 一方、ユージーンに嚙みつきながら皆の会話を聞いていたアイリーンは、え? と顔を上げた。


(王配……? 王女が結婚した家門に入るのではなく、婿を王族へ迎え入れるということ? ということは、貴族の一員になるわけではないので、相手の方の身分もそこまで重要ではないのでは? ロヴィが家門から縁を切られていたとしても、そこは問題ないのでは……――)


 カーティスお兄様がヴァロン王国第1王女と結婚

 →我が国の次期国王不在

 →私が次期国王に!

 →王配にロヴィを指名――


 はわわわ……! と瞳を輝かせるアイリーン。


(よいのでは……!!?)



 え……もしかしてアイリーン姫がヴァロン王国に嫁ぐ可能性も……? と木にめり込んでいるロヴィをきらきらと見つめるアイリーン。

 姫多分また脳内暴走してるな……、とレイは、呆れたようにその様子を眺めていた。


 その横で、ミックに視線を向けるユージーン。


「で? ミックは何ロヴィに熱い視線を向けてるの?」

「今日もロヴィは最高にロヴィだなと思いまして」

「好きだねぇほんと」

「はい。見てて飽きないという意味で」

「なるほど」


 ミックは、ロヴィを見ながら、昨日の会話を思い出す。




『……っだあ――!!! 何でみんな飲ませてくるんだ……!』


 アイリーン姫も公爵も……いや姫はいいんだけど姫は、とミックの隣の席になだれ込み机に突っ伏すロヴィ。

 グラスを傾けると、ミックはけらけら笑った。


「ほんとモテるねぇお前」

「これがモテるというなら俺は吐くまで飲むぜ」

「今日も?」


 ぐっ! とロヴィがグラスを掲げる。


「あっ、空いていますね! 注ぎますね!」


 その瞬間、間髪入れずロヴィのグラスへワインを注ぐアイリーン。

 すっとワインボトルを上げると、グラスの約3分の1ほどの量が注がれていた。

 アイリーンは瞳を輝かせながら、わあ……! と振り返り、イライザを見た。


「イライザ! とてもよい感じに注げました!!!」

「あらぁ、さすが姫! いいお嫁さんになりますねぇ」


 え、ほんと? いいお嫁さんになる? と目を瞬かせながらワインボトルを抱き抱えるアイリーンに、かわいすぎかぁぁぁあ!! と注がれたワインを飲むロヴィ。


「くそ……イライザさん、アイリーン姫に何教えてくれてんだ……!!」

「いーじゃん? お嫁さんになったら注いでもらえるんじゃね?」

「…………」


 返答のないロヴィに、ミックは視線を向ける。


「……無理、とか思ってない?」

「………………いや」

「じゃー、何でお前、ドナの家門戻ってきてって打診受けなかったの」

「そういう風に婚約者になりたいわけじゃない」

「でも相手は王女様だけど」

「…………」


 じっ、とアイリーンを見つめるロヴィに、ミックはため息をついた。


「ぜってー諦めんなよ」

「!」


 はっ! とロヴィは振り向いた。

 にや、と口端を上げるミックと視線が絡む。

 ロヴィは目を細めると、残りのワインを飲み干して机に突っ伏した。


「…………わかってるよ」

「ならいーけど」


 まあ! グラスが空いていますね! とアイリーンはすかさずロヴィのグラスにボトルを傾ける。

 ミックは軽く制止すると、姫、世の中にはチェイサーという万能の水がありましてね、と目を丸くするアイリーンに説明した。




 (王配や国王について学ぶため)勉強頑張ります!!! と胸の前で拳を握りしめ、気合いに満ち溢れているアイリーン。

 ロヴィは、はっ!? 今度は王子落とす教育じゃ……!? とわなわな震えながらアイリーンに悲しげな顔を向ける。

 

 その様子をミックは若干呆れたような目で見つめていた。


「……最高にすれ違ってんなー」


 ほんと大丈夫かロヴィ、と呟く。


(まー、もうちょっとすれ違っといてくれてもいいけど)


 くっそ面白ぇから、と楽しそうに笑うミックであった。




 ◇

 

 


 その頃。


 ナヴランドから遥か遠くの王国――ヴァロン。


「――では、ナヴランドのハートフォード家は承諾したと」

「ええ」


 その大都市の中心、要塞のようにそびえ立つ城の廊下を歩く王女とその護衛騎士。


「ナヴランド――草食の国王に対して貴族が反乱を起こし、内紛を収めたばかりの小国……新興貴族ばかりで世界的地位も低いナヴランドからすれば、我が国との交易を結ぶ、またとない絶好の機会ですものね」


 ふふ、と王女は小さく笑みを漏らす。


「どんな殿方がいらっしゃるのかしら。我が国にふさわしいお方が……その器を持つお方がいるかしら。とても楽しみですわ」


 光が差す高窓の縁に手を添えると、遥か遠くの小国を見据えるように街並みの先を見つめる王女。

 扇を口に当てると、目を細め妖艶に微笑んだのだった。

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