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18話 - ロヴィとミック

「おーうま」


 騒動の傍観に飽きてきたユージーンとレイは、ミックの買ってきたパニーニをもぐもぐと頬張っていた。


「昼食べ損ねたもんねぇ」

「久々に食べたね、カロリーナさんとこのパニーニ」

「ミック食べないの?」

「食います」

「ちょっと、話終わってないんだけど!?」


 憤慨するドナのを無視して、飄々とユージーンたちの元へ向かうミック。

 ギリ……と奥歯を噛み締めながら、ドナはミックを睨んだ。


「何でこんなやつがロヴィと仲良いのよ……」

「何でお前みてーなやつがロヴィときょうだいなわけ?」


 まじないわ、と鼻で笑うミックに、あんたのがないわよ、と睨み返すドナ。


「おー、何か修羅場感あるねぇ」

「犬猿の仲?」


 レイがさらっと尋ねると、ドナとミックは、ギン……! と鋭い目で互いを睨んだ。

 

「消えてほしい」

「ギリギリ顔思い出すか出さないかくらいの感じです(=心底どーでもいい) 」


 きー!!! とドナが頭を抱える。


「言い回し腹立つぅぅう!!!」

「ああ……何か変なこと聞いてすみません……?」


 レイはとりあえず謝ったのだった。


 

 一方。


(え……ミック? ミックが私のライバルなの? でも確かに2人はいつも一緒にいるような……?)

 

 アイリーンは1人、思考を巡らせていた。


 その視線の先で、ミックに紙袋を手渡しているレイ。

 

「ミック、ロヴィ引き上げるためだけに昼飯(これ)俺に預けていったの?」

「そうっす、ドナ煽りたくて」

「愛だねぇ」

「ホークアイさん、誤解を生むんでそれ」

「いや、絶対わざとやってるでしょ、ミック……」


 その時、ロヴィが目を見開いた。


「あれ!? そういえば俺、今日朝から何も食べてなくない!?」

「あるよ。お前の。二日酔いで何も食ってねーだろ」


 そう言って、ミックがパニーニを袋からすっと出す。

 まじでミック……愛してるぜ……! と目を輝かせながら駆け寄るロヴィ。

 

 その瞬間、はっ! と我に返ったアイリーンは、ミックをわなわなと見た。


「……わかってる感……!」


 悔しい……私もパニーニすって出したい……! とぷるぷる震える。

 するとミックが、もう1つ袋から出した。


「姫は、アップルパイ」

「愛しています、ミック」


 きゃー! とアイリーンはミックの元へと駆け寄った。

 ロヴィが、うらやましいなお前……! とふるふる震える。


 ミックが、パンの入っていた紙袋を、さっとドナの前へ掲げた。


「お前も食う? パンの粉」


 さすがに驚いて目を見開くレイとユージーン。

 いらぁ……! と顔を歪めると、ドナはぱしっ! とその紙袋を奪い取った。




 じと……とロヴィとミックを見ながら、なによ美味しいわね……とパンの粉をつまんでいるドナ。


 ミックがユージーンたちに向き直った。


「まー、ロヴィが家門と縁切るきっかけになったのが俺ってだけっす」

「おお、突然話が戻って1行で説明終わった」


 笑うユージーン。

 すると、ドナが小さくため息をついた。


「そんな簡単な話じゃないでしょ」

「あれ、ドナ落ちついてる」とロヴィ。

「あんたたち見てたら、1人叫んでる私がばかみたいに思えてきたの」

「やっと気づいたのお前? おっそ」


 鼻で笑うミックの後頭部を、ドナは思いきり手で突く。


「ミックがロヴィをそそのかしたんでしょ」

「なわけないだろ」


 まじお前言い方……と呆れた声を漏らすロヴィを見ながら、ミックは頭を掻いた。

 

「あー……まあ、俺がロヴィに……――」





『王国騎士?』


 港脇の木陰で横になっていたロヴィが、きょとんとした声を上げてミックを見た。

 木にもたれかかりながらミックは、一枚の紙をロヴィの前に掲げる。


「そーそー、身分不問、だってさ」

「本当か? それ……」


 大丈夫なのか騎士団……、と呆れるロヴィ。

 まー、俺みたいな庶民は末端の職務だろうけど、とミックはけらけら笑う。


「一緒に就こうぜロヴィ」

「!」

「俺はロヴィとずっと一緒にいたいしお前が行くとこにずっとついてくけど、お前どうする?」



 がっ!!!


 と、頬を殴られるロヴィ。


 ロヴィの実家。

 ミックは少し離れた壁際で、その様子をじっと注視していた。

 ロヴィは手を上げた父親を、ぎろ、と睨む。


「家門はどうする!? 新興貴族となったばかりだというのに……お前が継がなくてどうするんだ!!! ずる汚いキツネにそそのかされるとは!!! そんなにキツネといたいなら出ていけ!!!」

「あ、わかりました。……行こ、ミック」


 あーよかったよかった、と踵を返すと、ロヴィは家を出たのだった。




 

「……って感じ?」


 レイとユージーンは、ぽかんと口を開いたまま固まった。


「え、軽……」

「いや、一瞬重めのミックの発言なかった?」

「そこはスルーしてください」


 ははっと笑って濁すミック。

 すると、ドナが怒りを抑えるように小さく震えた。


「……ずるいのよ……」


 ミックは、冷ややかな細い目をドナへ向ける。

 そのミックを、ドナは思いきり睨みつけた。


「ロヴィ手放したくないからって王国騎士の名前まで出して! そんな重い事言ったら優しいロヴィは一緒に行くに決まってるじゃない!!! やり方が汚い――」


 その時、ロヴィが遮るように、ドナの手を掴んだ。


「ドナ、言い方」

「…………なによ。合ってるもん。言い直さない」

「ミックは別にずるくもないしやり方が汚くもない。ミックは賢いしいい奴だし面白いし、すごい俺のこと考えてくれて――」


 ばっ! とミックが慌ててロヴィの口を手で覆う。


「……俺の話はいーから」


 瞬時に、どす!! とミックの喉を手で突くドナ。


「照れるなきもい」

「……喉はやめろ……!!!」

「ミックはキツネだから賢いとかじゃない。賢いミックがたまたまキツネの血だっただけ」


 その瞬間――ミックは、わずかに息を止めた。

 

「ミックは俺が家出たいってこと察して誘ってくれたんだよ。俺もミックといたかったから、じゃあ、って王国騎士になっただけ。王国騎士団に入団しても、同じ隊に配属されるかわからなかったけど――」

「それは俺が言った」

「――……?」


 え? とミックを見る皆。

 ロヴィも、きょとんとした顔をミックへ向けた。


「…………ミックお前……言ったの?」

「あー、言ったな。俺ロヴィの隊にしか行きませんのでって」

「え? お前入団試験受けてないの?」

「お前が庭で姫探してたやつ? 受けるわけねーだろ」


 とけらけら笑う。


 ふるふると怒りで震えているドナ。


「――……やっぱり汚いじゃん!?」

「賢いって言って」

「ああ、それでロヴィ落ちこぼれ部隊来たの?」と笑うユージーン。

「あー……それは流されるかもね」とレイ。

「まあ、それでロヴィは姫の護衛騎士に就けたんだから、ある意味ミックのおかげだよねぇ」


 はっ! とミックを見るロヴィ。


「愛してるぜミック……!」

「俺も」

「腹立つその会話!!!」


 1人アップルパイを頬張っていたアイリーンは、ミックのおかげだったの……? ミックすごすぎない……? きらきらと瞳を輝かせている。

 その横でけらけら笑いながら、ミックは気づかれないよう、わずかに頬を染めたのだった。




 その時。


「あー、いたいた」


 扉が開く音とともに軽快な声が響き、えっ? と皆の振り返る。

 そこに立つブラッドリーとイライザに、騎士団の皆が、ぎょっ!? と目を見開いた。


「ブラッドリー!」


 アイリーンが嬉しそうに駆け寄る。


「なぜここがわかったの? ブラッドリー」

「昨日造形職人ギルドのみを視察されたと聞いたので、今日は別のギルドかと」


 え? 視察? とアイリーンは目を丸くする。


「今日も視察ですか? 予定にはなかったですが」

 

 えっ……とアイリーンは言葉に詰まる。


 するとその後ろで、ミックが、ははっ! と笑い声を上げた。


「そうなんすよ隊長。急に武器商にも視察に行くって言い出して」


 えっ??? とミックを見る皆。

 するとミックは、アイリーンに、パチッ! とウィンクをする。


「あーほら、ウサギの眼の事件で巻き込まれてた武器商をいい感じに収めてましたよ」


 さらさらとそれっぽい説明を並べ立てると、さすがっすねー、と笑った。

 おお……!、とブラッドリーは目を見開きアイリーンを見下ろす。


「気づかぬ間に……立派になられましたね、アイリーン様」

「ブラッドリー……!」


 何か立派なことを成し遂げたような達成感に包まれて、うる……と潤むアイリーン。

 アイリーン姫暴走してただけです。武器商の混乱を収めたのはウィルフレッド公爵ですから。と言いたげな顔でユージーンとレイは微笑んでいる。


「へー……混乱をねぇ……」


 イライザに細い目を向けられたその瞬間、ロヴィはさっと顔を背け、レイは目を泳がせ、ユージーンはにこっと爽やかに微笑んだのだった。




「……あ――……」


 めんどくさそうに頭を掻きながらギルドの奥から出てくるウィルフレッド。


「すげー疲れた……。何であんな話通じないんだ?」


 その後ろを、頭を抱えたギルバートも続く。


「いきなり剣を振り回せば、誰だって言葉が出ないでしょう……!?」

「そうですねぇ」

 

 ギルバートの横で、リアムが頷いた。


「得体の知れない長身の男が叫びながら吹っ飛ばされてきたら、それは驚きますよねぇ」

「言い得て妙だな」

「得体の知れないって何ですか……何度も言いますけど、私はギルドを取り仕切っているフロランス家ですからね」


 きりっ、と2人を見るギルバート。

 ウィルフレッドが鼻で笑う。


「だから親父だろそれ」

「ああすみません。え――……っと……不審な長髪の男が突然吹っ飛ばされ――」

「言い直さなくていいですから」

「つーか、こっちはどう――」


 ウィルフレッドがそう言いながらロヴィたちの方へ視線を向けて、思わず言葉に詰まる。

 リアムとギルバートも、ぴたっと歩みを止めた。


 ①何かさらに人増えてる

 ②何か食ってる奴いる

 ③何か感動してる(姫が)


「…………」


 え――……、と固まる3人。


「……これ、このまま帰っていいやつか? いいやつだよな?」

「公爵がケリつけてくると言ったのですから、責任もって報告してきてください。私は帰ります」

「お前今取り仕切り力発揮するところだろ。行け」

「取り仕切っているのは父ですので」


「……えーっとー……」


 リアムはとりあえず手を掲げた。


「みなさんお揃いで」


 行った……! あいつすげーな……! とギルバートとウィルフレッドは揃ってリアムを見たのだった。

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