17話 - 続々集合
「え? 赤と青の髪の女性? 向かいの武器商人ギルドに出入りしてるのを、よく見かけますよ」
「え? 向かい?」
さらっと口にする職人。
え、近……、と、ギルバートとリアムは揃って面食らった。
そうして造形職人ギルドを出て、2人は駆けていた。
「なぜこの一瞬の間にいなくなるのです、王女様は!」
「わかりませんが……先にその女性を見つけた可能性も」
武器商人ギルドへ着くと、ギルバートは扉に手を掛ける。
「とにかく入ってみましょう」
勢いよく扉を押し開けた。
「ここに――」
――その瞬間。
がっ!!!
と、ギルバートは瞬く間に背後から蹴り飛ばされた。
その勢いのまま前へ倒れ込む。
どかっ! とその背に体重がかかった。
「よし……いいところに来たくそヘビ……! とりあえず死んで詫びろ。話はそれからだ」
「くっ……この理不尽極まりない暴言は、ウィルフレッド公――」
背に座る、目の座ったウィルフレッドが、がっ! と脇腹を思いきり蹴る。
「黙れ」
「なぜいつもこうなる――」
ギルバートが言い終わる前に、ウィルフレッドはもう一度脇腹を蹴った。
「あれ?」
遅れてロヴィは不思議そうな声を上げる。
「なぜギルバート侯爵までここに?」
「くっ……ハイエナ騎士……! 何を暢気な……! 元はと言えば、貴様が誘拐なぞされるから巻き込まれ――」
どす!! と顔のすぐ横で地面に突き刺さる、ウィルフレッドの剣。
鋭い眼光をギルバートへ向けた。
「元はと言えば、てめぇが窃盗団なんかに踊らされたのが原因だろうが……! このめんどくせー事態に巻き込まれた責任どう取るんだてめぇ……!」
何とか顔を上へ向けるギルバート。
「何の話ですか!? 私は、あのハイエナ騎士を誘拐したという女性を探して――」
「てめぇが使った毒薬と爆弾が今、問題になってんだよ!!」
「ええ!? 俺、誘拐されたの!?」
「私は愛するロヴィを連れ戻しただけよ、失礼ね」
「愛するって何ですか、ロヴィ!!!」
「…………え――……っと……?」
ぎゃあぎゃあと一斉に叫び出した皆を見ながら、どうしたものですかね、とゆっくりと目を瞬かせるリアム。
そのリアムが、あれ、と目を見開いた。
「え――っと、僕たちにも理解できるように、順を追って話してもらっても?」
突然割って入る声に、え? と皆扉の方へ顔を向けた。
そこには、どういう状況? と腕を組み扉に肩をついてにっこり笑っているユージーン。
その後ろで、やあリアムお疲れ、とリアムに片手を上げているレイの姿が。
ね? と笑顔で無言の圧を送るユージーンに、はいわかりました、と皆揃って頷いたのだった。
「えーっと、つまり……」
皆を一瞥するユージーン。
「ロヴィを連れ去ったのは双子の姉のドナさんで、途中でウィルフレッド公爵と合流して着いたのが、ロヴィのご両親の武器屋を中心とするこの武器商人ギルドで、そのロヴィを追っていたアイリーン姫とリアムもギルバート侯爵と合流して、向かいの造形職人ギルドで情報を入手してここまでたどり着いた、ってことね」
おおー! とぱちぱちと拍手をする皆。
「よし!」
ユージーンは手をポンと合わせる。
「帰ろっか」
「いや、まだ武器商の方ケリついてないから……一応俺ら関係者だしね……」
ややめんどくさそうに一応ユージーンを引き留めるレイ。
すると、ずい、とウィルフレッドが前に出た。
「そっちは、俺がこいつの首差し出して(物理的に)ケリつけてくるわ」
「おお、こういう時は頼りになりますね」
「こういう時はって何だ、ロヴィ」
「何普通に会話しているんですか!!!」
ウィルフレッドに後襟を掴まれて引きずられているギルバートが、抗議の声を上げる。
「このギルド含め、全てを総括しているのがフロランス家だということを忘れて――」
「てめぇの親父だろ、取り仕切ってるのは」
「…………」
そうですが、と小声で呟くギルバート。
すると、遮るようにリアムがのんびりと手を上げた。
「あのー、私が一応ついていきますので」
「あ?」
「おお……アルマジロ君――」
「公爵が侯爵を職人に投げつけた時のために。受け止めますので」
両手で支える素振りをしながら、さらっと告げるリアム。
頷くウィルフレッド。
「頼んだ」
「では行きましょうか」
お前アルマジロ? いえセンザンコウです。と暢気に挨拶を交わす2人。
え? 投げられるの? と固まるギルバートを引きずるウィルフレッドとリアムが、ギルドの奥へと向かっていった。
公爵お願いしまーす、とにこやかに手を振っているロヴィを見ながら、アイリーンは目を瞬かせていた。
(双子の姉……? お姉様だったの……? やだ私取り乱して……恥ずかしい)
慌ててぱぱっ! とドレスを整えると、すっと軽く裾を持ち上げ、気品溢れる笑みを浮かべた。
「取り乱して申し訳ありませんでした、お姉様。アイリーン・ハートフォード。一応王女をしております」
「知ってますけど!?」
いきなりお姉様って呼ばないでもらえます!? とドナが叫ぶ。
「お姉様は、何の動物の血を引いていらっしゃるのですか?」
「いきなり何なのこの姫! オオハナインコですけど!?」
「まあ! それでロヴィは鳥に好かれやすいのかしら!」
「……鳥に好かれやすいの? ……ロヴィ?」
2人が振り返ると、ロヴィが、ぐっ……、と胸を掴んで項垂れていた。
「……何今のアイリーン姫……かわいすぎない……?」
「鳥好きなの? ねえねえ」
「ふふ、ちょっと意味合いが変わっていますよ、お姉様」
「……ねえねえ、聞いてるのロヴィ」
そう言いながら顔を覗き込んだドナは、さりげなくこめかみにちゅ、と口を当てた。
ロヴィは呆れたように顔上げる。
「……何してんの、お前……」
「えーちょっとー?」
そう言いながら、わざとらしくちらちらとアイリーンへ視線を送るドナ。
次の瞬間、きゃ――――!!! とアイリーンは再び顔を真っ赤にして頬に手を当てた。
「おっ……お姉様お姉様ですよね!? ロヴィに何するんですか!!!」
「きょうだいだからいいでしょ?」
「き、きょうだいだからって、何やっても許されると――」
わあわあと再び言い合いを始めるアイリーンとドナ。
その様子を尻目に、ユージーンとレイは、ふー! と窓の外を眺めていた。
「姫、初対面の人に動物の血聞くの、あれ何?」とユージーン。
「例の淑女教育じゃない?」とレイ。
「ああ、社交辞令的な?」
「そうそう。で、どうするユージーン。あれ」
「心の底からどーでもいいんだけど。……あれ、そういえばどこ行ったの? こーいうの上手くまとめてくれそうな――」
そうユージーンが言った、その時――ギルドに入ってきた人物に、あ、と2人は揃って声を上げた。
え……何でアイリーン姫とドナが喋ってるの? 仲良し? と不思議そうな顔をしているロヴィ。
すると、急に首に腕が回され、身体がぐいっと引っ張り上げられる。
背後で、1つに束ねたオレンジ色の髪が揺れた。
「……あ」
ロヴィは目を瞬く。
と同時に、ひいっ……! とドナが思いきり顔を歪めた。
「みーっけ」
ロヴィの顔を覗き込みながら、相変わらずモテるねぇお前、とミックが可笑しそうな声を上げる。
その瞬間――
「ミック!!!」
いやー!!! と嫌そうにドナが叫んだ。
「え? 何でミックまで? 全員集合?」
「お前誘拐されたらしいじゃん?」
きょとんと目を丸くするロヴィに、ミックはけらけら笑う。
そんな2人のやりとりを見ながら、ドナはわなわなと震えていた。
「……出たわね……憎きミック……!!!」
あー? とめんどくさそうな顔を向けるミック。
「まだそれ言ってんの?」
いつ「みっくきニック」って言い間違えるかハラハラわくわくしてんだけど俺、と鼻で笑うミック。
ロヴィも言いそう言いそう、とつられて笑う。
ユージーンがミックを見た。
「あーやっぱりって言うか、ミックも知り合い?」
「いやー? まさか――」
「――……知り合い……?」
その時。
ドナから、静かなどす黒い声が漏れる。
「知り合いなんかじゃないわよ……そう……王女様」
え? 私ですか? とアイリーンが目を瞬いた。
「私たちの一番のライバルは……そう。あいつよ……ミック!!! あいつはロヴィを奪ったんだから!!!」
「お前言い方」
思わず声を揃えるロヴィとミック。
その横でアイリーンは、ぴし、と固まったのだった。




