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16話 - 厄日かな、今日……

 高く登った太陽からきらきらとした陽が差し、のんびりとした空気の漂う城の庭。


「――あーもー!」


 昼を過ぎても姿を見せないロヴィとアイリーンに、ユージーンが庭を駆けながら叫んでいた。


「ちょっと誰ぇ!? 聞かなかったことにしよとか言った人!!」

「ホークアイさんです」

「ユージーンかな」

「君たちも同意したからね!! ……むしろ、人のせいにする人が一番罪深いから……!」


 ギン……! と射殺すような鋭い目線をミックとレイへ向けるユージーンに、すみません、と声を揃える。


「……でも、どうする? 隊長に報告――」


 レイがそう言いかけて、はた、と立ち止まる。

 ユージーンも、はっ……! と目を見開いた。


「……刺し殺されるかな……」

「……イライザさんに沈められる……」


 最悪だ……何してんのロヴィほんと……! と頭を抱えるユージーンとレイの横で、ミックが小さくため息をつく。


「赤と青の髪ねぇ……」


 そう呟くと、めんどくさそうに頭を掻いた。


「んじゃー……行ってみます?」


 2人は、え? と目を見開いた。




 一方、街の一角。

 ドナがわざとらしく、きゃー! と甲高い声を上げながら、ロヴィの背中にくっついていた。


「そそそその人やばい人じゃん!!!」

「そうだよ」

「そうだよって何だ」


 ウィルフレッドは路地へ男2人を蹴り飛ばすと、ロヴィに向き直る。


「どうしたロヴィ。お前ずぶ濡れじゃないか」

「はは、アイリーン姫がやんちゃで」

「羨ましいな、おい」

「やばいわね、会話が」


 どこに羨ましいところがあったのよ、とドナは小声でこっそり突っ込む。


「公爵こそ……どうせまた新興貴族を返り討ちにしていたのだと思いますが、何してるんですか……」

「どうせって言うな、お前見てたのか」


 呆れたように尋ねるロヴィに、ウィルフレッドが鼻で笑う。


 その親しげな様子の2人にドナは、思わず目を丸くした。

 ぐいぐい! とロヴィの服を引っ張る。


「ちょ、ちょっと!」

「何? ドナ」

「な、何でロヴィ……黒い鬼神とそんなに仲良しなの?」

「仲良し?」

「どこがだ」


 きょとん、とドナを見る2人。


「え……何か、旧知の仲感……」


 すると、ロヴィとウィルフレッドはすっとお互いを指差す。


「『この人が』『こいつが』毎回絡んでくるから」

「仲良しね」


 何でだよ、と声を揃えた。


「……ってあれ? 黒……ウィルフレッド公爵様も、アイリーン姫と関わりが?」

「婚約者候補」


 さらっとそう言うロヴィへ、ドナは驚いた目を向ける。


「え!? 友だち同士で姫取り合ってるの!? やばいねそれ!」

「友だちって言うな。それに俺は認めてない」

「ロヴィ、お前こそ何だその女。恋人か」

「はい♡」

「はいじゃない」


 そう突っ込むと、ぎゅううう……! と腕にしがみついているドナの頭を、ロヴィはぐぐぐぐ……! と押し返す。


 ちっとも離れず、ロヴィは諦めてウィルフレッドへ向き直った。勝ち! とそのままくっつくドナ。


「……姉ですよ。双子の」ロヴィがため息交じりに告げた。

「姉?」


 ぴた♡ とくっついて目を伏せているドナを、2人は同時に見る。


「……少々、依存度高めの」

「なるほど」


 ウィルフレッドは察したように頷いたのだった。



「で? 結局公爵はどこへ?」


 ひとまず歩き出したロヴィたち。

 当然のように隣を歩くウィルフレッドを、ロヴィは何気なく見た。

 

「こっちに用事です?」

「港の武器商ギルド」


 ガッ!!!


 と、その瞬間、ロヴィは街灯の柱に顔を強打した。

 何してるんだお前大丈夫か、とウィルフレッドは呆れながらも歩みを止めない。

 どうしたのロヴィ? と言いながら、一緒にうずくまるドナ。


「……っ……~~!」


 頭を抱えながら、ロヴィはぼそっと呟いた。


「……一体……何しに武器商へ……?」

「アイリーン王女様へのプレゼント」

「……? はい……?」


 困惑した顔を向ける。


「すげーでかい鉄格子の鳥かごないかと思って。ほら昨日鳥いただろ、鳥。お前の頭に」


 真顔のウィルフレッドと、きょとんと見合う。

 ロヴィは目をぱちぱちと瞬いた。


「公爵って……たまに素で頭おかしいですよね」

「何でだよ」


 喧嘩売ってるのかお前、と言いながら、ウィルフレッドはまた進みだす。

 あー……、とロヴィの口から声にならない声が漏れた。


「……厄日かな、今日……」




 港町。前日アイリーンが視察へ訪れた、造形職人ギルド前。

 そこに、一台の馬車が止まる。


 その馬車から順に姿を現す、ギルバートとリアム。

 馬車の扉が閉まった瞬間、ばっ! と顔を突き合せた。


「……何だ? 突然どうしたんですアイリーン王女様は。黙り込んでしまわれて」

「よくはわかりませんが……ロヴィさんのことでしょうねぇ」

「あのハイエナ騎士か……彼と仲の良いウィルフレッド公爵が王女様の婚約者候補ですし……何かと複雑な事情があるのかもしれませんね」

「……仲が良い?」


 意外そうな声を漏らすリアム。

 ギルドへ向かおうと踵を返したギルバートが、長髪を揺らしながら振り返った。


「アルマジロ君は知らないのですか? 彼ら、気持ち悪いほどいつも一緒にいますよ。あの無骨者が王国騎士と仲良くしているとは………ふふ、世の中には不思議なこともあるものですねぇ」


 可笑しそうに目を細めると、ギルバートは建物へと入っていった。

 ばたんと閉じた扉を見ながら、え――……っと――……、とリアムは呟いた。


「…………センザンコウですが」




 一方。

 アイリーンは馬車の中で1人、ギルバートのプレゼントである鳥かごを抱えながら、俯いていた。


 空っぽの鳥かごを見つめながら、涙が込み上げる。


『俺は、家門から縁を切られた身ですから』

『騎士は、だめだ』

『王族と貴族が縁を結び、有力な貴族を増やしたいと考える父上母上のお考えもわかるだろう? お前も……王女なのだから』


(どうして……忘れていたの……! 昨日の夜の出来事に浮かれすぎて……ロヴィと私は……どうしたって――)


『もし……アイリーン姫が、一緒に、なりたいと思う人が現れたときのための』


 ロヴィの優しい笑顔が自然と脳裏に浮かぶ。

 ぽろ、と涙が零れた。


「どんな淑女教育も……何の意味もないわ、ロヴィ……!」




 その時。


 アイリーンは、はっと顔を上げた。


 ぴーん! と背筋を伸ばすと、耳を澄ます。

 勢いよく馬車の窓にくっついた。


「今、ロヴィの声が聞こえたような……!?」


 このどこかにロヴィがいる……私の王女の血がそう言っているわ……! と一生懸命目を凝らす。

 するとその視界に、見覚えのある薄茶色の髪が飛び込んだ。

 

 次の瞬間、わあああ……! と感嘆の息が漏れる。

 アイリーンの瞳が輝いた。


「…………ロヴィ……!」


 アイリーンは、迷わず馬車から跳び出した。

 渦巻いていた不安も絶望感も、まるでなかったみたいにきれいさっぱり吹き飛んでいたのだった。




 そのアイリーンの視線の先。

 とある建物の前。


「お前、その(ずぶ濡れの)格好で行くのか?」


 というか、お前らも武器商に用事なのか? とウィルフレッドは扉に手をかけながら不思議そうな顔をロヴィへ向ける。


「はは、まあ……」


 そう苦笑いを浮かべたロヴィは、そこでふと気づく。

 ドナを見た。


「……そういえばドナ。トラブルって?」

「え? えーっとね……」


 言い淀むドナ。

 その横でウィルフレッドが扉を開いた、次の瞬間――



 わあああ! と怒号や泣き声の入り混じる叫び声があちらこちらで上がっており、ロヴィとウィルフレッドは目を丸くする。

 職人たちがてんやわんや走り回るその横では別の職人が頭を抱えており、その惨状に2人はぽかんと立ち尽くした。


「…………ドナ。トラブルって――」

「何か、売った毒薬と爆薬を使って窃盗団がやばい事件起こしたんだって。お父様たちがその責任を問われてる」

「……え」


 思わず固まるロヴィとウィルフレッド。

 そんなことより、うち(ギルド)着いたから着替えるでしょ? 脱がせてあげるね♡ とロヴィの服のボタンに手をかけるドナ。


 さー……、と青ざめるロヴィとウィルフレッドが、自然と顔を見合わせた。


「…………それって……あれですよね」

「……あのくそヘビ呼んで来い」



 すると、ばん!!! とギルドの扉が勢いよく開いた。

 えっ!? と2人揃って顔を向けた瞬間――


「ロヴィ!!!」


 目を大きく見開いたアイリーンが、突如姿を現したのだった。


「アイリーン姫!?」



「――――!?」


 涙目でギルドへ駆け込んだアイリーンの視界に飛び込んできたのは、服を脱がされかけている(ように見える)ロヴィの姿であった。


「きゃ――――!!!」


 次の瞬間、無意識のうちに全力で鳥かごを投げつけた。


「だっ!!!」


 顔に直撃したロヴィが叫ぶ。


「なっ……なっ……」


 耳まで真っ赤な顔で、ぷるぷる震えるアイリーン。

 その視線の先で、だ、大丈夫ロヴィ……? とドナがそっと優しく顔を撫でた。


 アイリーンは、ぴしっと固まった。


「……ど、どれだけ心配したと……せ、せっかく助けに……私は……ずっとロヴィを想って……なのに…………――! 何です破廉恥な!!! その女性は誰ですかロヴィ!!! あんなに私に甘く囁いてくれていたのに!!!」

「何何何の話!!?」



 ギルド内の惨状に、ロヴィたちのよくわからない掛け合い。

 その様子を、ウィルフレッドは、ふむ……と腕を組んで眺めていた。


 よし、と一度小さく頷く。


「じゃ、俺は今日は帰るわロヴィ」王女様、鳥かご持ってたし、と踵を返すウィルフレッド。

「待って待って。待ってください。1人にしないでください。俺と公爵の仲じゃないですか」

「どんな仲だ」

「友だち」

「仲良しか」


 ウィルフレッドは思わず突っ込んだのだった。

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