表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

15話 - ロヴィ誘拐事件?

「不思議ね……!」


 街をリアムと駆けながら、アイリーンは目を丸くしていた。


「何だか、リアムと話していたら、少し落ち着いたような気がするわ……!」


 なぜかしら……?? と目を瞬いている横で、リアムが、はは、と笑う。


「王女様、何というか……ええと…………ちょっと引くぐらい暴走してましたからね」

「溜めた割りには、まるで言葉を濁せていないわ、リアム」

「あー……すみません、王女様」

「いいのいいの! アイリーン姫でいいのよリアム! みんなアイリーン姫と呼ぶわ!」


 そう言って、品のある笑みを浮かべる。

 おお……、とリアムの口から感嘆の声が漏れた。


「暴走していないとちゃんとお姫様ですねぇ」

「暴走していないと、は余計よ?」


 アイリーンは笑いながらも、やや鋭い目線を向ける。

 びくっ! とわずかに肩をびくつかせるリアムであった。




 

 ――一方。


 とある、街の喧騒が遠のく路地裏の一角。



 ロヴィが、頭を垂れたまま、丸くなってうずくまっていた。



 


 はあ……! とロヴィは苦しそうに息を吐いた。


「……っ…………吐いたらすっきりしたー!!!」


 やべー死ぬかと思った……! と冷や汗を拭う。


「もう姫に誓って飲みすぎない……! 多分……!」


 そこまで呟いて、はっ! 姫! と我に返る。


「ちょっと待て!? 何かアイリーン姫、今日妙にかわいくなかった……!? 何かすげーきらきらしてたような……? 気持ち悪くて記憶がおぼろげ……」


 わなわなと震えるロヴィ。


「何で今日に限って……! 昨日に戻りたい! 何で飲みすぎた俺ぇぇえ!!」

「――ちょっと!?」


 背後から、こつん! と頭をつつかれる。


「いきなり吐くとか何なの!?」


 現実に引き戻されたロヴィが、嫌そうにゆっくり振り返る。

 そこには、赤と青が混じる長髪をなびかせた女が、むすっと頬を膨らませて立っていた。


「いや……二日酔いに馬車はダメだろ……お前知らないの?」

「だから噴水の中にいたの?」

「お前あほなの?」

 

 呆れたように白い目を向けると、女は再びロヴィの頭を手で突いた。


「……もー……! ロヴィがいきなり吐くから、馬車降ろされちゃったじゃない」

「知らないって」


 あー頭いて、と呟きながら、ロヴィはゆっくりと立ち上がった。


「じゃ、そーいうことで」


 片手を掲げて、立ち去ろうと踵を返す。


「待ってよロヴィ!!!」


 女に飛び掛かられた勢いで、ぐっ……!!! と再び首を痛めたロヴィであった。




 ロヴィがゆっくりと歩く少し後ろを、女はじっと視線を送りながらついてくる。


「……お城に戻るんじゃないの」

「何しに来たんだよ」

「ロヴィに会いに」

「嘘つけ」

「…………嘘じゃないもん」

「嘘泣きすんな」

「ロヴィ冷たい」

「すげー冷たいよ、服」

「手、繋いであげよっか?」

「いい」


 うる……と悲しそうな顔になる女。


「手、繋ぎたい」

「やだ」

「何でー!」

「俺が繋ぎたいのはお前じゃないの」

「…………」


 すると、だだだだ! と走ってきた女が全力でロヴィの頭を手で突いた。


「腹立つ!!! その言い方まじ腹立つ!!! うざ!!! 振られろ!!!」

「相変わらず情緒不安定だなドナお前!?」


 ぐっ……! と胸を押さえるロヴィ。

 ふと、わずかに表情を曇らせる。


「……振られそうだけどな」

「…………」


 ロヴィの顔をじっと見つめていたドナは、俯く。


「……ごめん」

「また何かあったの?」


 そう言いながら、ぱっとドナの手を引くロヴィ。

 ドナは目を見開くと、ほわ、と嬉しそうに頬を染めた。


「うん。またトラブル」

「お前も早く家出れば?」


 あ、貰い手ないか、としれっと言うロヴィの頭をドナが再び強く突いた。




 

「ところで……」


 街をリアムと駆けながら、アイリーンは小首をかしげた。


「私たちは、一体どこへ向かっているのでしょうか?」

「はは、まずそこからでしたね」


 足を止める2人。


「ロヴィさんを連れ去った女性、とても特徴的な容姿でしたので、まずは聞き込み――」

「――待ってリアム!」


 ぴーん! と背筋を伸ばすと耳を澄ます。

 じー……、とアイリーンが見つめる先を、リアムは振り返った。



 

 ギルバートは、馬車に揺られながら、昨日の出来事を回顧していた。


(婚約者候補としてアイリーン王女様と視察……ここまでは良かったよな……。で、なぜウィルフレッド公爵がついて来たんだ? しかもあの鳥乗せたハイエナ騎士……気づいたら王女様と消えているし、結局職人たちは公爵が纏めていたし……どうなっている? 何か最近ろくなことが……――)


「これは何ですか?」

「ふふ……それはもちろん、貴方へのプレゼントですよ、アイリー……――!?」


 その瞬間、ぎょっ!? と目を見開くギルバート。


「まあ! 何て素敵な鳥かご……! ロヴィ(鳥)にピッタリ!」

「え? ロヴィさんに……?」


 目の前で、鳥かごを片手に目を輝かせているアイリーン。

 その隣には、見知らぬ小柄な男までおり、ギルバートは開いた口が塞がらない。


「アイリーン王女様!?」

「ありがとうございます!」

「ちょっと待って。ちょっと待って。ちょっと待ってください?」

「はい。どうしました?」


 ギルバートは思わず、がし! とアイリーンの両肩に手を置いた。


「なぜここに?」

「僭越ながら、跳び乗らせていただきました」


 きゃ! と恥じらうように両頬に手を当てるアイリーンに、かわいい、いやかわいいんですが、と上手く言葉が出ない。


「ギル様に、お力を貸していただきたいのです」

「ギル、様……!?」

 

 手を取られ、きゅるん……! と乞うように見上げられたギルバートは、ふるふる震えた。


「――私でよければ」


 おお……! 王女力……! とぱちぱちと拍手をするリアム。

 その横でアイリーンは、ギル様とウィル様って(語感が)似てますね! と能天気な声を上げた。



 

「嫌です」


 ふい、とギルバートは馬車の窓の外に視線を向けた。

 視界の端で、アイリーンとリアムが揃って、むっ! と顔をしかめる。


「なぜこの私が……あのアイリーン王女様と消えた鳥の騎士を助ける手伝いをしなければ? 昨日の私の受けた屈辱を、あの騎士はわかって――」

「ギル様嫌い!!!」


 ぴし、と固まるギルバート。


 目の前で、うう……ロヴィ……と、リアムに泣きついて丸くなるアイリーン。

 じと……とリアムからの冷たい目が刺さる。


 ギルバートはふっと笑うと、さらっと長髪を掻き上げた。




「港のギルドは、町一番の情報の集まる場でもありますから」


 すごいわギル様! と瞳を輝かせているアイリーンに、なぜこうなる、と出かかった言葉をぐっと堪えるギルバート。


 馬車は、真っ直ぐ港町へ向かっていた。



「……それにしても……」


 ギルバートが、ふむ、と腕を組む。

 アイリーンはその続きを待つように、じっとギルバートの顔を見つめていた。


「赤と青の髪……随分目立つ姿のようなので、知っている職人がいればすぐにでも見つかりそうですが――」


 そう言うと、アイリーンへ向いた目が、わずかに細まる。


「女性が騎士を連れ攫っていくとは……よっぽどの恋情があるのではないでしょうか。……お互い」

「え」


 アイリーンは息を呑む。


「アイリーン王女様を抱えていた女騎士ほどの力でもない限り、無理やり騎士を連れ去ることは不可能でしょう。彼が、自らついて行ったと考える方が自然では?」

「ああ、それは確かに」


 リアムも頷く。


「そういえば……抱えられて、というよりは、手を引かれて、といった感じでしたね」

「知人、もしくは恋人――」


 だん!!! とギルバートのつま先を踏むアイリーン。


「知人、ということになるのでは?」


 痛みを堪えながら微笑むギルバート。

 ああ、なるほど、とリアムはぽんと手を合わせた。


「ロヴィさんの身辺を探るべきかもしれませんね。アイリーン姫。ロヴィさんの家門、ご存じですか?」



 そこで――アイリーンは、昨日のロヴィの言葉を思い出した。



『俺は、家門から縁を切られた身ですから』



 どく、と胸が大きく跳ねる。


 と同時に、目の前がすーっと影を落としたように暗くなっていった。





「ちょ……ぉぉおお!? 爪! 爪食い込んでるからぁぁ!!」

「ロヴィが離そうとするからじゃん!?」

「お前が離そうとしたんだろうが!」

「違うの! 私は逆の手がいいの!」

「どーでもいいな!?」


 道の真ん中で手を引っ張り合っているロヴィとドナ。


「何で右手だめなの?」

「剣持つから。知っとけ」

「しらなーい。私の知ってるロヴィは騎士じゃなかったもーん」

「アイリーン姫はちゃんと左手にしがみついてくれまーす」

「……なによ。姫姫うるさいんだから」


 そう口を尖らせながら、ドナはひょいとロヴィの左側へ移動した。

 ぎゅ! とロヴィの左手を握る。


「冷たいだろ」

「全身ずぶ濡れで歩いてる騎士とか、やばいね」

「もーいーよ。どうせ鳥を頭に乗せたやばい騎士と思われてんだから」

「何それ。乗っていいの?」


 はっ! とロヴィは鼻で笑った。


「かわいい鳥限定――」


 そうロヴィが言いかけた、その時――



 キン……! と金属の合わさる高い音が突如響いた。



「……――!」


 ロヴィは反射的に剣に手をかける。

 音のした路地を睨んだ、次の瞬間。


 2人の男が路地から吹き飛んできた。

 咄嗟にロヴィはその男たちを蹴り落とす。


 ぐぁ……!! 何する……!!! と叫ぶ男たち。

 その男たちの上へ平然と立った男に、ロヴィはぎょっ!? と目を見開いた。


「――ウィルフレッド公爵!?」

「あ? 何だお前か」

「何してるんですか!?」

「お前こそ何してる?」


 顔をロヴィへ向けながら男たちを踏みつけるウィルフレッドに、ほんと何してんの!? と思わず突っ込む。

 その横でドナが、きゃ! とどさくさに紛れて抱きついた。

 

「やだ怖い!」

「お前も何してんのぉ!?」


 一帯に、ロヴィの叫ぶ声が響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ