表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

10話 - 視察

「ご機嫌麗しゅう、アイリーン王女様」


「帰れ」


 そう声を揃えながら、飛び出してきたギルバートの頭をすぱーん! と全力で叩くロヴィとウィルフレッド。


「何でお前がここにいる」

「あなたもですけど? ウィルフレッド公爵」




 いつもの城の庭。

 ギルバートはアイリーンの前でひざまずくと、花束をすっと差し出した。


「麗しの王女様、どうぞ」

「まあ、キレイ……!」


 嬉しそうに微笑むアイリーン。

 すると、ピッ、と花束から鳥が(偶然)顔を出した。

 

 わあああ……! とアイリーンの口から感嘆の声が漏れる。


 ははは、王女様の魅力に鳥も虜ですねぇ、と笑うギルバート。

 かわいい……! ときらきら瞳を輝かせるアイリーンを、何それかわいいぃぃ……! とロヴィとウィルフレッドはわなわなと見つめていた。


「何であの人牢に入ってないんですか……!」

「俺が今ここで叩き斬ってやろうか」

「お願いします」

「意外と容赦ないな、ハイエナ君」

「何すっかり仲良しになってんの?」

「どこが?」


 声を揃えるロヴィとウィルフレッドに、ミックがけらけら笑う。


 その横から、ユージーンが口を挟んだ。


「あーそうそう。王家で、フロレンス侯爵家をどうするって話になったらしくて――」



 


 ――それは少し前。


 国王執務室。

 国王、カーティス、クライヴ、王妃が顔をそろえる。


「即刻侯爵の地位を剥奪しましょう」


 クライヴがしれっと言い放つ。


「クライヴ、君容赦ないね……」


 国王が引き気味で呟く。


「で、でも……先のアイリーンの件も、新興貴族たちから買い取った噂からギルバート侯爵を泳がせて赤い眼を手にしようとしていたのは、どうやら裏で動いていた窃盗団の方だったようだし」

「窃盗団に踊らされるような男なんて、不要です」


 じと……とクライヴは鋭い目線を国王へ向けた。


「いやしかし」


 むう、と考え込むカーティス。


「ギルバート自体は小物だが、フロレンス侯爵家は新興貴族の中でも中心の家門だ。街の職人たちとも繋がりがある。剥奪となると、今以上に新興貴族たちとの溝が浮き彫りになるだけではなく、反発は避けられない――」

「なら」


 王妃が、ぱん! と両手を合わせる。


「アイリーンの婚約者候補にしてはどうかしら?」


 ぴた、と固まる皆。

 恐る恐る王妃へ顔を向ける国王。


「……いや……シャーロット……それは」

「あらどうして? 新興貴族の1人が婚約者候補ともなれば、他の新興貴族たちも目の色を変えるんじゃあないかしら? 新興貴族と王家とのつながりがアピールできれば、職人たちも活気づきましょう」


 ね! と王妃は満面の笑みを浮かべたのだった。


 



「――って」


 だってさ! とにっこりするユージーンに、ロヴィが掴みかかる。


「俺は認めませんけどぉぉお!?」

「僕に言わないでよ……」

「頭おかしいのか、王家は」

「あなたを婚約者候補筆頭に推してくるあたり、頭おかしいですけどね!?」

「何でだ」


 ははっと笑うミック。


「あんたらが、させなきゃいいだけじゃね?」


 そう言うと、ですよね、と同時に頷くロヴィとウィルフレッド。

 ミックはシンクロする2人を、おもしれーなー、と可笑しそうに眺めていた。


 

 

「……というか……」


 ぱたぱたと花束の上で羽ばたく鳥に、ああ飛び立たないで……! とはらはらしているアイリーン。

 その様子を楽しそうに見つめているギルバートへ、ユージーンは顔を向けた。


「逆にいいの? って感じなんですけど……」

「あー……確かに?」


 レイも同意する。


「そのやんちゃなウサギ姫の婚約者候補で」


 するとギルバートが、ふふふ……! と笑みを漏らした。


「光栄です……! その神秘的な瞳に見つめられた瞬間……恋に落ちましたから」


 え? と固まる皆。


「……瞳に?」とレイ。

「見つめられた? そんなのあったっけ?」とユージーン。


 すると、ロヴィとウィルフレッドが、あー……、と同時に声を上げた。


 廃屋の最上階で、ギルバートに首を掴まれながらも、きっ! と鋭い目線を向けていたアイリーンを思い出す。


「あれかな……?」

「睨まれてたやつな」


 ふふ……! と頬を染めるギルバート。


 次の瞬間、ざわざわとざわつく皆(ミック、ユージーン、レイ)。


「……やべーのまた来ましたね……?」

「え? 何? 姫ってヤバイ人落とす血でも宿してるの?」

「恋に落ちるきっかけがねぇ……――」


 レイがそう言うと、3人の視線が自然とロヴィたちに向いた。


 ロヴィ→なんか知らんけど出会った瞬間勝手に落ちてた

 ウィルフレッド→思いきり爪先を踏みつけられて落ちた

 ギルバート→思いきり睨みつけられて落ちた


 うわぁ……、やべーな……、ないわ……とドン引きの目を向ける皆。

 あのー、とロヴィが困惑気味の視線を返した。


「あの……なんかわかんないですけど、ひと括りにしないでもらっても?」




「視察?」

「ああ……おい、大丈夫かロヴィ」


 アイリーンたちのところへやって来たブラッドリーとイライザは、不思議そうな顔をロヴィへ向けていた。

 

 ロヴィはというと、突然跳び乗ってきたアイリーンの脚を抱えて支えており、前が見えていない。

 そのアイリーンは、ああ鳥さん待って……! と木の上に飛んで行ってしまった鳥に、一生懸命手を伸ばしていた。


「はは、大丈夫です」

「そうか」

「おい替われ、お前」とウィルフレッド。

「嫌です」


 ブラッドリーは気にせず、話を進める。


「元々王太子殿下が視察へ訪れる予定だったのだが、ギルバート侯爵が婚約者候補となっただろう?」

「――えっ?」

 

 再び手に乗った鳥をロヴィの頭へそっと乗せていたアイリーンは、動きを止め、目を瞬く。

 目を丸くしてギルバートを見下ろした。

 するとギルバートが、にこ、と微笑む。


「ギルバート侯爵とともに、アイリーン様が港の職人たちの視察へ赴くこととなった。それに同行しろ、ロヴィ」



 


「フロレンス家は、元々職人ギルドを纏めていた家門でした」


 街を歩くアイリーン、ロヴィ、ウィルフレッド、ギルバート。

 ギルバートが涼しい顔で説明をしている横で、ロヴィが呆れたようにウィルフレッドを見る。


「……何であなたまでついて来てるんですか」

「こいつが信用ならないから」


 ぴっと親指を立てギルバートへ向けるウィルフレッド。

 苦笑いを浮かべながらも、ギルバートは続ける。


「そもそも、フロレンス家が新興貴族となったのも――」


 めんどくさそうな顔のウィルフレッドが、ちらっとロヴィの頭へ視線を向けた。


「ていうか、いつまでその鳥頭に乗せてるんだお前」

「知らないですよ……離れないんですから……」

「ロヴィの髪はふわふわしているものね!」


 楽しそうな声を上げるアイリーンを横目で見ながら、ギルバートは、ははは! と笑った。


「聞いてませんね?」



 

 

 港町は活気に溢れていた。

 職人や商人が多く行き交い、資材や交易品が多く並ぶ。

 あまり港まで足を延ばさないアイリーンは、きらきらと瞳を輝かせた。

 

 その港町入り口の石段を下りた先。様々なギルドや工房が並ぶの中の、ひときわ大きな建物。

 ロヴィたちは、そこのとあるギルドの前で足を止めた。


「お前の好きな武器商人ギルドか?」


 ウィルフレッドは、にやぁと悪い笑みをギルバートへ向ける。


「好きって何ですか」

「あの毒と爆薬どこで仕入れた」

「あなたには言われたくありません」

「何でだ。俺はそういう卑劣なことはしない」

「心外ですね」

「アイリーン姫落とそうとした人、誰ですか……」


 ぎろ、と鋭い目を向けるギルバートに、ロヴィと鳥が、びくっ! と同時に肩を震わせる。


 男衆がぎゃあぎゃあと揉めている間にも、アイリーンは1人、建物に足を踏み入れていた。

 あら! 職人さんがたくさんいますねぇ! と、瞳を輝かせている。


「…………」


 思わず3人、顔を見合わせた。




 足を踏み入れた瞬間、視界に飛び込んできた大木に、アイリーンは目を丸くした。

 思わず駆け寄る。

 

「す、すごいです……! 何ですかこれは……!」


 興奮のあまり、アイリーンは大木の周りをぴょんぴょんと跳び回る。

 それに気づいた職人たちが何気なく目を向け、はたと固まる。


「…………!?」


 あちらこちらで職人が息を呑む。


「ア……アイリーン王女様!?」

「え!? 王太子殿下じゃなくて!?」


 はい? と小首をかしげるアイリーン。


 その時、後から建物に足を踏み入れてきた3人に、職人たちはさらに大きく目を見開いた。


「ギルバート様!?」

「って、あのお方、黒い鬼神では!?!?」

「何だあの鳥頭に乗せた騎士!?!?」


 やべー!!! と、盛り上がる職人たち。


「…………」あまりのテンションに固まるギルバート。

「……やべーのはお前らのテンションだろう」引き気味のウィルフレッド。

「……おい鳥、ちょっとどいて――」


 ピ、とロヴィの髪をくちばしで引っ張る鳥であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ