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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。~片思いを拗らせた俺が、婚約者だと明かせない理由~  作者: 雨屋飴時


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15-1 ずっと言えなかったこと




 崩れた石の欠片が、足元で小さく音を立てた。

 焦げた匂いと、まだ燻る熱が、大広間の空気に残っている。

 

 ダリアからおずおずと明かされた作戦に、そういうことか、と思わず呻く。

 

 戦闘前。

 ダリアの様子に、違和感はあったのだ。

 

 うん。

 まあ、分かるぞ。

 確かに、俺のあの態度はひどかったと思う。


 とはいえ――

 

「それにしたってやりすぎだろ!

 どんだけ心配したと思ってんだ!」

「ごめんなさい」

 

 しゅん、とダリアが頭を下げる。

 腕の中に収まった金色の頭が、申し訳なさそうに縮こまっていた。

 

「ダリア様を責めるのはお門違いです。

 これはわたしが考えたことなのですから」 

 

 布の擦れる音。

 見れば、メルティが破れた臙脂の外套を脱ぎ捨てている。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をハンカチでぬぐい、現れたのは、いつものすんとした偉そうな表情。

 

「魔王のフリして俺と戦うことをかよ?

 わざわざ城内霜だらけにしてまでするか、普通」

「ダリア様が危険な場面で、あなたがどうするか見たかったのです。

 後、ダリア様を泣かせたことも許せなくて」

 

 絶対後者が本音だろ。


 じとりとメルティを睨む。

 

「ちょっと待て。ダリアの声が出なかったのは演技に見えなかったぞ。

 あれは?」

 

 腕の中を覗き込むと、ダリアはぶんぶんと首を横に振った。

 ということは……

 

「あれはわたしですよ。魔法でちょっと奪ったのです」

 

 しれっとメルティが言う。

 

「奪ったって……」

「あなたの力量も見たかったですからね。

 なのにダリア様がネタバレしようとするので、ちょっと強硬手段に出てしまいました。

 ちょっとやりすぎましたけど。てへ」

 

 無表情に舌を出すメルティ。


「てへ、じゃねえよ!

 もう少しでダリア死ぬとこだぞ!」

「こちらとて、ダリア様が間に入ることは想定外でしたよ。

 何をしているのです、貴女は。死ぬ気ですか」

 

 急に矛先が自分向いて驚いたのだろう。

 ダリアがぱくぱく口を開ける。

 

「だって、やめてって言ってるのに声が出ないんだもの。

 それに、メルティ、ほんとにルークを殺しちゃうかもしれないって思ったから……」

「そうだよなー。あれ本気だったよな。

 俺も死ぬかと思ったわ」

 

「何を二人して」


 呆れたようにメルティが息をつく。

 

「戦っていたら少し楽しくなってしまって。

 ちょっと我を忘れただけですよ」

「我忘れてんじゃねーか」

「……………。

 ですが、ルーク様には傷一つないでしょう?」

「まあ…………それは確かに。

 いやいやすでにそういう問題じゃねえし!」


 大広間の惨状を指さす。

 砕けた床。焦げた壁。散乱した灰。

 

 これが全部茶番かと思うと、どっと疲れが押し寄せた。

 

 ダリアの大きな目が、俺を伺ってくる。

 

「わたしが帰れって言ったから、ルークはもういなくなっちゃかもしれないと思ったの。

 でも、帰らないでとは言えなくて。

 ルークの本当の気持ちが知りたくて……。

 試すようなことして、ごめんなさい」

 

 ダリアが、さらに身を縮める。

 消え入りそうな声だった。

 なんだかやりきれなくなって、後ろ頭を掻く。

 

「たとえ命じられても、俺はダリアと一緒じゃなきゃ帰らないよ。

 さっきも言ったけど、俺は恩返しのためだけに来たわけじゃないから。

 俺の気持ちは、もう分かってるだろ」

 

 俯いていたダリアの頬が、夕焼けのように赤く染まっていくのが見える。

 もう少しその表情を見ていたかったが、俺はもう一度メルティへ視線を投げた。

 

「お前も。俺の力量を見れてもう満足かよ。

 満足なんだよな?」

 

「そうですね。この国の、高位王宮魔導士様と戦えて光栄でしたよ」

 

 睨む俺を、メルティはさらりと笑って流す。


「…高位……。

 ルークが?」

 

 と、 目を丸くしたのはダリアだった。

 まだ伝えてなかったんですか、とメルティがじと目で俺を見てくる。

 

 そうだよ。

 まだ伝えてない。

 

 でも、今までみたいに逃げていたわけじゃない。

 一番大切なことは、これが終わった後だって思っていたのだ。


「実は、ダリアに会いたくてさ。

 頑張って、最近やっと高位王宮魔導士になれたんだ。

 就任式はまだだけどな」


 真っ直ぐ、ダリアを見つめる。 


「え、すごい……!

 …………ん? 最近……?」

 

 ダリアの瞳が、戸惑いに揺れた。

 最近なった高位王宮魔導士、という単語に思うところがあるんだろう。


「ま、待って。ルークって、まだ若いわよね」

「そうだな。20歳だよ」

「その歳で、もう高位王宮魔導士?

 え、最近なったの?」

 

 目を白黒させ、ついに頭を抱えだしたダリアに、俺は苦笑する。

 今、彼女の頭の中で大混乱が起きているんだろう。


 でも、待つ気はなかった。 


「話、続きがあるって言っただろ」

 

 ダリアが、俺をおずおずと見上げる。

 

 二度も、俺を守ろうとしてくれた華奢な背中。

 その無鉄砲さに、気高さに、強さに、弱さに、俺が適う日は来るんだろうか。

 

「最初はさ、本当に恩返しをする為だけに頑張ってたんだ。

 だけど――平民上がりだからかな。

 いざ地位を手に入れたら、今度はダリアと並んで生きたくなった」


「わ、たしと……?」

  

「うん。

 守りたいだけじゃ、どうにも収まらなかった」


 ダリアの顔が、赤く染まる。


 可愛い。

 誰にも渡したくない。

 誰にも見せたくない。

 

 

「高慢で不愛想で守銭奴なじじいの高位王宮魔導士に婚約を申し込まれてるって、ダリア言ってただろ」

  

 碧の瞳が、ゆらり、と揺れる。


「……あれさ、」

 

 まさか、とダリアの唇が呟き、俺は頷く。 

 

「ずっと言えなかったんだけど――そう。

 ダリアに婚約を申し込んだのは、俺だよ」


 ダリアが、小さく息を詰めた。






次回投稿予定日:明日4/30(木)


第15-1話、お読みいただきありがとうございました。

ついに正体を明かしたルークを「応援したい!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ブックマークや下の【★】で応援いただけると励みになります。


次回も覗いて頂けたら嬉しいです。

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