14-4 魔王と、盾になったダリア
「魔王が来た、とルーク様に言えばいいのです」
そう、メルティはわたしに耳打ちした。
「わたしが魔王に扮して、あなた方を襲います。
自分の身が危険になった時、ルーク様が逃げ出せばそれまで。
もしあなたを守ろうとしたなら、少なくともあなたを大切に想っていらっしゃることがわかるでしょう。
死ぬかもしれない心境なら、存外本心だって聞けるかもしれません」
メルティの変装は完璧だった。
まさに、わたしを攫ったあの魔王の姿。
黒い髪に、臙脂の外套。身長どころか性別さえ変わっていそうな立ち姿に、どうやってるの、と聞いたくらいだ。
あの時は、ルークにも少しむかついていたから、ちょっといたずらしてやる、くらいのつもりだった。
それが、どうしてこうなったんだろう。
大広間に着く前に、ルークは話してくれた。
恩返しに来たこと。
わたしを大切にしようとして、だから避けてしまったこと。
大広間に踏み込んだ瞬間、わたしはメルティに声をかけようとした。
作戦はもう必要ないって。
でも、声が出なかった。
メルティに、奪われたから。
今。
目の前に繰り広げられる攻防を、わたしはただ見ているしかなかった。
容赦ない攻撃魔法が、ルークに、メルティに向かっていく。
「メルティ! もういいいから! やめてよ!
どうして……っ?」
何度叫ぼうと、声は出ない。
激しさ増す攻撃の中、間にも入っていけない。
ルークの放つ黄金の魔法陣が、大広間を照らす。
その光は怒りに呼応するように白熱していて、見ているだけで胸が痛かった。
ルークがわたしを守ろうとしていること、メルティにも見えているはずだ。
なのに、どうして戦闘が続いているの。
ルークを挑発するの。
メルティの気持ちが、もう分からなかった。
傷つけないと言ったのに。
激しい攻撃魔法が、ルークを襲う。
そんな中でも、わたしを気にかけてくれるルークの視線。
焦りと、怒りと、悲しさと、何かの決意と。
いろんなものが混ざってる覚悟の目だった。
こんな作戦、するなんて言わなければ良かった。
「メルティ、やめて!」
無意味と分かっていても、出ない声で何度も叫ぶ。
そこにいるのは、本当にメルティなの。
まさか本物の……?
いや、そんなわけない。
「【光柱制裁】」
ルークの手元に、幾重にも重なる幾何学模様の魔法陣が展開する。
金色の光を放つそれは、ルークの怒りを表しているみたいだ。
耳がおかしくなりそうなほどの爆発音。
灰の匂い。
呪文を放つ、憎悪が籠ったルークの声。
メルティの歪んだ楽しそうな笑い声。
メルティが放った赤黒い電撃が、ルークの結界をぎぎ、と削っていく。
ルークは手を翳し、結界を編む。
けれど、電撃の圧力にじりじり後退していた。
「【雷槍乱舞】!」
ルークの放った黄金の槍の雨が、メルティへ向かう。
魔王が張った結界が砕けた。
槍がその肩をかすめ、仮面の端を砕く。
後少し足りなかったか、とルークが舌打ちする。
メルティの頬から、血が垂れていた。
「ハハハハハハハハハハ!」
愉快そうに、メルティが笑った。
無邪気な、けれどどこか歪んだ笑い声。
――これが、演技……?
違う。
作戦だったはずなのに、メルティは本当に戦いを楽しんでいる。
ぞわ、と内臓が震えた。
メルティの中の何かが、多分、暴走している。
「ああああああ。
いいなあ。
その娘といい、お前といい、しばらくは退屈しなさそうだ」
魔王の指先が、ルークを指す。
臙脂の槍が、ルークの心臓へ向いた。
「え……?」
がくがくと膝が笑う。
何を。
何をルークにしようというの。
そこにいるのはメルティなのに、本当に魔王みたいだ。
ルークが結界を幾重も張る。
臙脂の巨大な槍が、ルークめがけて振り落ち始めた。
結界が、どんどん削れていく。薄れていく。
ルークの焦燥を、肌で感じた。
ルークの足が、半歩下がる。
ルークが、死んじゃう。
そう思ったら駆けだしていた。
走る。
ルークの前に立つ。
両手を広げる。
魔王が――メルティが、仮面の下で濃紫の瞳を見開くのが見えた。
ルークが、わたしの名前を叫んでいる。
「やめて――っ!!」
喉の奥にあった重石が、ふっと消えたような感覚。
叫びは、やっと声になっていた。
――メルティが、術を解いた?
メルティを見る。
焦った顔。
わたしに「何してるんですか」と叫ばんばかりの、非難の目。
何してるんですか、はわたしのセリフだ。
でも、いつものメルティの顔に少しほっとする。
「どけ、ダリア!」
ルークの余裕のない叫び。
耳をつんざく爆発音が、私の世界を真っ白に塗り潰した。
次回投稿予定:4/25(土)
読んでくださり、ありがとうございます!
軽いいたずらのつもりが、取り返しのつかない事態に。
メルティの真意とは――?
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では。次回も覗きに来て頂けたら幸いです。




