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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。~片思いを拗らせた俺が、婚約者だと明かせない理由~  作者: 雨屋飴時


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14-2 ほしくなっちゃうからだよ





「……覚えてたのか、俺のこと」

 

「え……?」 

 

 ダリアが、大きな目を更に丸くして俺を仰ぎ見た。

 

「ルークこそ、覚えてたの?」

「あたりまえだろ。

 あんな風に助けてもらって、忘れるわけない」

 

 ダリアが虚を突かれたような顔をする。

 そして、そっと目を伏せた。

 

「……最初はね、分からなかったの。

 だってルーク、雰囲気も声も全然違うんだもの」

 

 それは、花を愛でるような優しい声だった。

 並んで廊下を走りながら、ああ、そういえばあの頃は声変わり前だったっけ、と思い出す。

 少しずつ筋肉がついて、細身というコンプレックスから解放されたのもその後だ。


「五年前ね、あなたが結界を張るのを、わたし見てたの。

 だから、ここでルークが扉に結界をかけてくれた時、やっと気づいた。

 おんなじ、きれいな黄金の魔法陣だったから」


「!」

 

 人と違うことを気にしていた魔法陣に、こんなところで助けられるとは。


「俺の目立つ魔法陣も、役に立つんだな」


 照れで歪んでしまった不格好な笑みに、ダリアは屈託なくほほ笑んでくれる。

 淀んだ空気も、この後対峙するだろう魔王への緊張も、一瞬にしてほどくような柔らかい笑顔だった。

 ダリアが続ける。

 

「あの時、恩返しに来るってルークが言ってくれたこと、嬉しかった。

 だからルークがあの子だって気づいた時、約束を守りに来てくれたんだって思った。

 名乗ってくれるの、ずっと待ってたのよ。

 でも、全然言ってくれないから」

 

 忘れてるのかと思ってた、とダリアが呟くように言った。。 

 

 なんだ……


 と、出そうになっため息を飲みこむ。


 ダリアは、俺との約束を待ってくれていた。そう思うと、心の中の(わだかま)りが和らいでいく。

 俺がちゃんと打ち明けていれば、逃げてさえいなければ、もっと早くダリアはこんな風に笑ってくれたのだ。

 あんな風に泣かせることも、もしかしたらなかったかもしれない。

 

 ぐ、と拳に力が入る。

 

「情けないけど……言い出せなかったんだ。

 エドガーとの婚約破棄のこと、あれが原因だったってメルティに聞いたから。

 俺なんかを庇ったせいで……ごめん」

 

「やだ。そんなこと気にしてたの?

 ルークが謝ることなんてないじゃない。

 あれはどう考えてもエドガー様が悪いでしょ。

 それに――」

 

 笑っていたダリアの顔が、一瞬曇る。

 

「エドガー様があんなことをしたのは、実はわたしのせいだから」

「え?」

「エドガー様って、わたしが誰かを褒めるとすぐ不機嫌になったの。

 分かってたのに、あの日ついルークの魔法陣を褒めちゃって……。

 わたしの配慮が足りなかった。

 あんな目に合わせちゃったこと、私の方こそ改めてごめんなさい」


 俯いたダリアは、本気で自分が悪いと思っているようだった。

 その様子にいやいや、と手を振る。

 

「それこそダリアは悪くないだろ。

 悪いのはやっぱ全部あいつだって」

「………そう?」

「そうだよ」

 

 ダリアは悪くない。

 それは確定だが、少しひっかかることはある。

 

「なあ。ほめたら怒るのってさ、もしかして男の時だけじゃなかった?」

「そんなことは…………いえ、やっぱりそうかしら。

 どうしてわかったの?」


 やっぱり。

 あれ、ただの嫉妬なのかよ。

  

「いや、なんとなく」

 

 答えながら、器ちっさ、とつい苦笑してしまう。


 でも、それくらいあいつはダリアを好きだったのだ。

 ただ、プライドと屈辱心に負けて、ダリアを手放した。


 馬鹿だな。

 

 顎をつんと上げたような、憎たらしいエドガーの顔を思い出す。

 

 お前が手放したものは、もう戻ってこないぞ。

 

 頭に浮かんだ、偉そうな顔のエドガーを睨みつける。

 だが、俺も人のことを言える立場ではない。


 ふと、メルティの言葉が脳裏に蘇る。

 

 ――自分の気持ちをダリア様にお伝えしたことなんて一度もないのでしょう、この純情チキン野郎が。


 うるせえな。

 悪かったって言ってんだろ。

 

 だから――

 

 今、恐らく魔王と対峙しているだろメルティへ、もうしばらく頑張ってくれよとエールを送る。


 じわり、と背中に汗が滲む。

 

「俺さ、ダリアにもう一度会いたくて、ここまで色々頑張ってきたんだ」


 出た声は、情けなくも震えていた。


「そうなの?」

 

 と、ダリアが俺を見る。

 

「ああ。

 だから、ダリアが魔王に攫われたって聞いた時、絶対助けなきゃって思った。

 俺が、連れて帰ろうって」


「あら。じゃあ、帰らないなんて言われて困ったわね」


 と、ダリアが笑う。

 俺は笑い返して、言葉を続ける。

 

「最初はさ、ダリアに恩返しがしたいだけだったんだ。

 ダリアの力になれたら、本当にそれでよかった。

 でも――俺は勇者でも聖人君主でもなかった。

 強欲なんだ。だから、それだけじゃ足りなくなった」



 ダリアの、視線を感じる。

 俺は前を向き、言葉を続ける。

 ダリアを振り返れなかった。顔を見たら、きっともう言えなくなってしまう。


「ここに来てからは特にそうだった。

 ダリアがあんまり近くにいると、色々我慢がきかなくて……。 

 ダリアを部屋に入れられなかったのは、ダリアを欲しくなっちゃうからだよ」

 

「え……」

 

 ダリアが、足を止めた。

 

 踊り場の手前。

 濃い邪気が、魔王が近いと警告する。

 それでも、今だけはダリアを振り返る。


 真っ赤に染まった、ダリアの顔。

 

 可愛いな、と素直に思う。

 

 今は、それが見れただけで充分だった。

 

「傷つけたこと、ごめん。

 でも、実はまだ言ってないことがあるんだ。

 だから、これが終わったら話の続きをさせて」

 

 公爵から承諾をもらっている、あの件。

 でも、ダリアは名前を知ることさえ拒否しているあの件。

 

 それだけは、返事を聞かなきゃ死にきれない。

 だから、今は絶対に聞かない。

 

「じゃあ、行くよ――!」


 ダリアが何か言う前に、俺は大広間の方へと向き直る。

 

 大広間の扉の前。

 両手を掲げて、俺は詠唱する。

 

 足元に、黄金の魔法陣が燦然と輝いた。


 ◆◆◆


「【雷楔執行(ジャッジ・ボルト)】!」

 

 大広間の扉が、轟音とともに吹き飛んだ。

 

 煙が晴れた先――灰が舞う大広間の中央に、臙脂の外套を纏った長身痩躯が立っている。

 

 なびく長い黒髪。

 紋様の張った赤い仮面に覆われた、顔。

 近づくことさえ躊躇う、重い空気感。

 

「魔王……」

 

 ダリアが、小さく呟くのが聞こえた。


「ダリアを攫ったのは、あいつ?」

「……うん」

 

 ダリアがこくん、と頷く。

 少し迷う様子がひっかかったが、気にしている余裕はない。

 

 前に立つ魔王は、何かを左手に掴み上げていた。


 黒地に白のフリル。どこか、見慣れたメイド服。

 残っているのはすでに胸倉だけで、腕も、足も、顔もない。

 今も、端からはらはらと灰へ代わっている。

 

 ごく、と固唾を飲む。

 

「……あれ、メルティの……?」


 ダリアの細い声に、ぞわり、と総毛立った。




次回更新予定:4/18(土)


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