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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。~片思いを拗らせた俺が、婚約者だと明かせない理由~  作者: 雨屋飴時


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14-1 俺のこと、覚えてたのか?



 

 何やってんだ、俺は――!

 

 魔王城を駆け上がりながら、俺は自分を叱咤した。

 ダリアとメルティの名を叫ぶ。

 

 魔王城はやけに冷えて、血肉が凍るようだった。

 吐く息が白い。

 

 留守中に、何があったかなんて分からない。

 ただ、異常事態が起こっていることは確かだった。

 城内の邪気も濃くなっている。

 

 ここは魔王城。危険だって、俺自身が言っていたのに。

 

 ダリアの部屋には結界がかかっている。

 どうか、どうか二人とも無事でいてくれとダリアの部屋の扉を叩いた。


「ダリア!」


 応答はない。無我夢中で扉をぶち破る。

 部屋を見回す。部屋の奥から、ベッド、テーブル、ソファへと視線が巡る。

 ダリアの姿は、どこにもない。


「ルーク……っ」


 ふいに、声がして振り返ると、ダリアがベッドの下から這い上がっていた。


「ダリア!」

 

 駆け寄って手を貸す。

 その手は凍るように冷たく、体はがちがち震えていた。

 顔面は蒼白だ。

 ダリアの縮こまった背に腕を回した。

 

「大丈夫か。怪我は?」


 ううん、とダリアは首を横に振る。

 碧の瞳が、そっと俺を覗く。


「……帰って来てくれたの?」

「当たり前だろ。何があった?」 

「あの……魔王が、魔王がきたの!」

 

 かぶりをふって、ダリアが言う。


「大広間にメルティといたら、急に空間に穴があいて……

 メルティがわたしを庇って逃げろって!」

「大広間は――この上の階か」

 

 ダリアがこくこくと頷く。


「メルティが……メルティを助けて!」

 

 それは悲痛な叫びだった。

 メルティは、まだ魔王と対峙しているだろうか。

 できることなら、ダリアを隠して俺一人で向かいたい。

 しかし、ダリアの下に魔王が姿を現したのはこれで二度目。

 ダリアを攫ったのは、きっとたまたまじゃないだろう。

 

 真意は分からないが、魔王は確実にダリアを狙ってる。


 そうなると、空間移動を使う魔王から隠れるという小細工は通用しなさそうだった。

 メルティはダリアを逃がしたようだが、むしろ目の届くところにいた方が守りやすいかもしれない。


 思わず舌打ちする。

 ダリアの生命の柱に絡んだ、臙脂の糸。

 魔王が仕掛けたものだとしても、殺気のような嫌な感じはしなかったのに。


 魔王の強さなんて分からない。

 でも、俺にも王宮魔導士というプライドがある。

 倒す。でなくても、必ず追い払わなければ。

 

「分かった。ダリアにはもう少し強い結界を張る。

 一緒に、ついて来れるか?」

「うん……!」


 躊躇なく、ダリアは頷いた。

 拒否したり、腰が引けて当然なのに。

 俺だって、本当は怖いのに。

 

「ダリアはやっぱり強いな」

「……そんなこと、ないよ」

 少し居心地悪そうな顔をして、ダリアが俯く。

 なぜか気まずそうな様子が少し引っかかったが、今は一刻も早くメルティの下へ行かなくてはいけない。

 

 急いで、ダリアへ結界を張る。


「【雷光多層結界(サンダーレイヤー)】」


 黄金の魔法陣が、ダリアの足下で輝いた。

 ダリアの頬にも、赤みが戻る。


「この結界は、部屋にかけたみたいに長くはもたない。 

 でも、攻撃魔法と魔物からダリアを守ってくれる。

 俺も、ダリアを守る。だから心配しないで。

 立てるか?」

 

 膝立ちのダリアに手を貸す。

 膝が笑うこともなく、しゃんと立ったその姿にまたもや感心した。


「じゃあ、行こう」

 

 ダリアは、力強く頷いた。

 

◆◆◆

 

 城内の冷え込みはひどくなっていた。

 大広間へ繋がる階段から、禍々しい空気が廊下へなだれ込んでいる。

 

 魔王は、まだ大広間にいる。


 一歩踏み出すごとに、廊下の石床に霜が這い上がってきた。

 ここからでも、強大な力を感じる。

 ただ、この邪気は魔族のものとは少し性質が違う気がした。

 

「【熱風解氷(ヒートウェイブ)】!」

 

 呪文を唱え、解き放つ。

 しゅわわ、と小さな音を立てて蒸気があがる。

 廊下中に張っていた霜が消え、城内の冷気が少しましになった。


 心臓が、早鐘を打つ。

 今から対峙するのは、魔王。

 ここに来た時から、魔王と戦う覚悟はできている。

 だが、それでもやはり、怖かった。

 

 もし、俺が死んだら……?

 結界がとけた時点で、ダリアは魔王の手に下る。

 彼女だけでも、どうにか助けなければ………

  

 背後に連れた、ダリアを見る。

 碧の瞳と目が合うと、こんな時でもときめいた。


「ダリア」

 

 俺は立ち止まらず、前方を見据えたまま話しかける。


「ん?」

「昨日のこと……ごめんな」

 

 ダリアの息を飲む音が聞こえた。

 

「あれは……違うわ。

 わたしが勘違いしてたの。ごめ――」

 

「恩返しって言ってたよな」

 

 わざと言葉を被せて、ちらりとダリアを見る。

 謝罪なんてさせる気はなかった。

 ダリアの肩が、ぴくりと震える。


「あ、あれは……」

「俺がそれを言ったのは、あの時だけだ。

 覚えてたのか、俺のこと」




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