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魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。~片思いを拗らせた俺が、婚約者だと明かせない理由~  作者: 雨屋飴時


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13-3 覚悟



 朝日が、窓から差しこんでいた。

 体が重い。


「朝……か……」


 ダリアの泣いた顔が離れなくて、昨日は眠れなかった。

 空が白み始めてようやく、うとうとした程度だ。

 

 あれから、すぐにダリアを追ってノックしたが、扉は開けてもらえなかった。

 途中で「何事ですか?」と目くじら立ててやってきたメルティに強引に帰された。

 その後、メルティが帰った様子はない。

 

 暗鬱な気持ちで廊下を覗くと、メルティが壁にすがってダリアの部屋の前に立っていた。


「ダ――」


 ダリアは、と聞くより早く、メルティがくい、と顎を動かす。

 付いてこい、ということらしい。 


 

 中庭まで来ると、メルティは俺へと踵を返した。

 目が完全に据わっている。


「まずは、上手にお部屋でステイできたことはほめて差し上げます。

 ですが――あなた本当に、何をしているんですか?」

「な、何が」

「何が? 

 ふざけないでください。

 ダリア様に恩を返すと言っていたのは嘘ですか?

 調子に乗って、何けんか等しているのですか、羨ましい」

「最後、願望が出てるぞ」

 

 ぶちぶち文句を言っているメルティに、思わずつっこむ。

 羨ましい状況か、これが。

 ダリアを泣かせて、謝罪どころか言い訳も弁解もできていない。

 帰って、と叫んだダリアの顔を思い出す度、傷が抉られる。

 あんな顔、させたくなかった。

 

「……ダリア、なんか言ってた?」

「いいえ」

 

 と、メルティは首を横に振る。


「なだめて甘やかして貴女の味方はわたしだけと洗脳して探ろうとしたんですが、詳しくは教えてくれませんでした。」

「せ、洗脳って……

 怖い怖い怖い! お前やっぱやばいぞ大丈夫か」

「は?」 

 

 震える俺に、メルティが冷めた目線を浴びせて来る。


「いえいえ。やばいのはあなたの方ですよね。

 ダリア様を泣かせて、一体何がしたいのですか。

 ご自分の立場をよくお考えになっては?」

「っ考えてるから、こうなったんだろ!

 大体、夜に二人になるなってお前も言ってたじゃねえか」


「はあ?」

 

 何を言ってるんだこの男は、とでも言いたげに、メルティがすい、と目を細める。


「詳しくは知りませんが、今回の件、ダリア様を部屋に入れなかったのが原因だったのですか?

 違いますよね。貴方がダリア様を避けたのが原因でしょう?

 責任転嫁しないでください。

 そもそも、貴方が自分のことしか考えていないからこうなったんですよ。

 拒絶されたらどうしよう。

 嫌われたらどうしよう。

 許してもらえなかったらどうしよう。

 変に罪悪感を掲げていらっしゃいますが、結局のところ拒絶されるのが怖いだけですよね。

 そうやってずっと、安全圏をぐるぐると。

 結果ダリア様を避けるなんて何様ですか?

 自分の気持ちをダリア様にお伝えしたことなんて一度もないのでしょう、この純情チキン野郎が」


 「!」

 

 ぐわ、と体が熱くなる。

 メルティの言う通りだった。

 俺はダリアに何一つ伝えられていない。

 婚約者だということも、好きだということも。

 恩返しがしたいとか、呪いを解くとか、そんなことは大義名分だ。

 ダリアの傍にいたい。

 それを言えないのは、拒絶されるのが怖いだけだ。

 そのくせ、欲と焦りに負けて、あの日彼女を抱きしめてしまったのだから救いようがない。

 

「ダリア様を避ける前に、何か言わなければならないことがあるのでは?」

「う……」 

 

 あまりに的確な言葉に、本当に何も聞いてないのかと疑いたくなる。


「……チキン野郎で悪かったな」

「ええ。罪悪感はいつまでも背負っていてほしいですが、女々しさがすぎるといっそ面倒くさいです」


 容赦ない言葉に苦笑する。 

 けれど、どこか背中を押してもらったような、そんな気がした。

 俺の勝手な勘違いかもしれないけど。


 わたしをもう嫌いになったのか、とあの時ダリアは言っていた。

 そんなわけない。

 嫌いになれるなら、血を吐くような思いまでして王宮魔導士になんてなっていないのだ。

  

 ふう、と息をつく。

 

「覚悟が決まったのですね」

「ああ。まあな」

「もうダリア様を泣かせないでくださいね。

 あれはわたしのものなので」


 ぎらり、と光った濃紫の瞳にぞくりとする。


「ダリアの泣き顔はお前のものってこと?

 どんな独占欲だよ」

「あれは特別なのですよ。

 貴方には分からないでしょうけどね」

 

 そう言ってほほ笑むメルティの顔は、どこか昏く歪んでいた。

 メルティのダリアへの想いは、愛情というよりは執着に近い気がする。

 たじろぎそうになるのを抑えて、ふと気づく。

 

「お前さ……俺がダリアに気持ちを伝えるのは、別に言いわけ?」

「ええ、どうぞ。

 貴方とダリア様がどうなろうと、わたしのダリア様への想いは変わりませんし、わたしへ注がれるダリア様の信頼も揺らがないでしょう。

 ただ、勘違いしないでくださいね。

 わたしはダリアの笑顔を永遠に守りたいだけで、貴方はわたしの敵ですから」


 そう言い切るメルティの表情からは、しかし以前のような殺気はない。

 少し前とはずいぶん変わった態度に、やはり応援されているような気がしてついお礼を言いたくなる。

 でも、そんなことをしたら怒られるのは目に見えているから、


「わかってるよ」

  

 とだけ答えることにした。


「さあ、もう話は終わりです。

 今ダリア様は輝かしい未来のためお勉強中なので、ダリア様に話に行くなら後にしてください。

 とりあえず今日は買い出しをお願いしますね」

「お前、そういうところは融通とか……」

「何を甘えたことを言っているのですか、気持ち悪い」

 

 ばし、と買い物リストを手渡され、苦笑する。

 

「あ、そうだ」

 

 通り過ぎるメルティの背中に慌てて声をかけると、振り返ったメルティはいつも通り不愉快そうに眉を寄せていた。


「なんですか?」 

「あ、あのさ…恩返しのこと、お前、ダリアに話したことある?」

「は? なんでわたしがそんなことしなくちゃいけないのです」

「…………そっか。だよな」

 

 城へ戻っていく背中を見ながら、俺は昨夜のことを逡巡していた。


 ――恩返しなんていいから、もう帰って!


 あの時、確かにダリアはそう言っていた。

 メルティも言っていないなら、五年前の約束をダリアは忘れていなかったことになる。

 そんなそぶりはなかったが、ダリアは俺のことを覚えていたんだろうか。

 あの日、エドガーに虐げられていたのは俺だって、気づいていたんだろうか。

 

 

 

 そんなことをぐるぐる考えながら買い出しへ行き――帰り道。もうすぐ城に着く、と顔を上げた俺は愕然とする。

 

 魔王城が、闇の霧に覆われ始めていた。


 



次回投稿予定日:4/11

ついに佳境突入です。

もう少しの間、お付き合いいただけたら幸いです。


もしよろしければ、お星様の評価やブクマで応援していただけたら嬉しいです。

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