12-3 言えぬ懺悔と、最悪の手紙
うーん、と呻く。
「命令……」
突然言われると、正直何も思いつかなかった。
聞きたいことを聞いてみるとか?
例えば、俺のことどう思ってる、とか。
いや。それはストレートすぎるだろう。
いっそ命令なんてどうでもいいから、五年前のことを話して、ダリアの婚約をめちゃくちゃにしたことを謝りたい。
でも、それをしたら『許せ』と命令されているように聞こえるだろうか。
そもそも、気になっていることはある。
「エドガー様のことは、婚約してる時好きだったのか?」
気づけば、するりと口から零れていた。
え、と驚いた声はどちらのものだったか。
ダリアも目を見開いているが、俺も同じ顔をしていると思う。
「あっ、いや……ほんとにごめん!
違う! 今のなし!」
慌てて両手を振り謝ると、ぱちくりしていたダリアがくす、と笑った。
「それは命令じゃないわね。
けど、そうね……」
緩慢な動作で、カードを集めながら話し出す。
「エドガー様との婚約は、小さい頃から決まっていたの。
礼儀作法も勉強もピアノも、彼にふさわしい妻になるためにあった。
でも、婚約自体が白紙になっちゃって。
ぜーんぶ無駄になった、とは思ったかな」
笑うダリアの目の端に、少しの悲哀が映る。
肩をすくめて見せるダリアを、直視できなかった。
胸の中に広がる、黒い靄。
罪悪感。
謝罪しなければ。今、五年前のことを。
俺なんかを庇ったせいで申し訳なかったと。
「ダリア」
と、俺が口を開いたのと、ダリアが「でも」と言葉を続けたのは同時だった。
言葉に詰まったのは、顔を上げた彼女は清々しい顔をしていたからだ。
彼女は続ける。
「エドガー様って、わたしには優しかったけど、身分主義だったからずっとそれが気になってたの。
母様が言ってた。
自分だけじゃなくて、他の人にも真摯な態度の人と結婚しなさいって。
だから、婚約破棄になって、実は結構ほっとしたのよ」
作り笑いでも、強がりでもない笑顔でダリアが言う。
そう笑えるようになるまで、きっとたくさんの悩みや想いを乗り越えたんだろう。
すっきりした顔で笑っているダリアは、やっぱり強い。
でも、とダリアが不思議そうに首を傾げる。
「そんなことが聞きたかったの?
あ。メルティが何か言ってたとか」
「いや、それは……」
今だ、と手に汗が滲む。
五年前、ダリアに助けてもらったこと。
その恩返しをするために、ここへ来たこと。
メルティから、婚約破棄の原因が俺にあると聞いたこと。
今が、それを伝える為のチャンス。
婚約破棄となった過去を後悔していないと知って、やっと今五年前のことを伝えるなんて、卑怯に映るかもしれない。
それでも――
決死の覚悟で口を開く。
「実は、俺――」
「もしかして、エドガー様からまた手紙届いてるのメルティにバレてた?」
あああああああ……!
またもダリアと被った言葉に、思わず項垂れた。
どうしてこうもタイミングが悪いんだ。
そして、はたと気づく。
今、重大発表を聞いたような。
「え。ごめん。今、なんて?」
「あら……。違ってた?」
「そうだな。それは、聞いてない」
ダリアは虚を突かれた顔をして、バレてなかったのか、と目を泳がせる。
「メルティには言わないからさ。何?」
ダリアはたじろいでいたが、ようやく観念したらしい。
本当にメルティには内緒にしてね、と前置き、こそっと囁く。
「あのね、実はちょっと前に、エドガー様から手紙が届いたの」
「は?」
喉の奥でひっかかったような、変な声が出た。




