12-2 命令して
「――メルティとお風呂に入ったって本当?」
「はあ!?」
それは思っていなかった角度での切り込みだった。
メルティから聞いたに違いないが、言葉だけ聞くとなんてひどいパワーワード。
一つの嘘も逃さんと、ダリアは尋問官のように俺を見ている。
まじでどんな説明したんだ、あいつは。
「いや、その、そうだけど別にそうしようと思ってそうなったわけじゃなくて!
メルティが!」
「魔力量の探査の為、でしょ?」
早鳴る鼓動と連動して慌てる俺に、ダリアの返答はなんとも軽かった。
え、と気が抜ける。
「そうだよ」
なんだ。分かってるんじゃないか。
ほっとため息をつく。
しかし、ダリアはまだ探るような目をしていた。
固唾を飲む。
「ルークの魔力のこと、聞いたわ。
魔力量も魔法の操作技術も申し分ないって。
メルティがそんな風に言う人初めてよ。
試しに、高位王宮魔導士の試験受けてみたら?」
「ああ……うん、まあ……」
もう受かってる、とも言えず、あいまいに答える。
というか、申し分ないって何目線だよ、あいつ。
格下を品定めするような言い草に、高慢はどっちだ、とおかしくなる。
「……ねえ」
ふいに、ダリアの声色が少し変わった。
その口元が、少しだけ尖っている。
「な、何?」
不穏な空気。
俺を見ていたダリアの目が、横にそれる。
「メルティって、きれいよね」
「え。ああ、まあ……うん」
性格はどうかと思うが、確かに桁外れの美人ではある。
「お風呂で、ちょっとドキドキした?」
ダリアの質問の意味が、一瞬分からなかった。
誰が、誰にドキドキしたって?
俺は何を聞かれてるんだ。
えーと、と考えて……
「っするわけないだろ!」
気づけばまたも叫んでいた。
「いきなり来られてむしろビビったぞ、こっちは」
何か変な誤解をされてるんじゃないかと思うと、つい声が荒ぶる。
確かにメルティはスタイルも良い。
裸で来られて、動揺はした。
けれど、ドキドキとかそんな甘酸っぱさは皆無だった。
そんな誤解されて振られたら死んでも死にきれない。
「でも、ちょっとはしたでしょ?」
「しない!」
「えー?」
尚もいぶかしがるダリアを、むしろ睨んで見せる。
なのに、ダリアはくすくす笑った。
「やだ。ごめんなさい。怒らないで」
さっきまでの不穏な空気はなんだったのか。
和らいだ空気に今度こそ息をつく。
なんだよ。
急にメルティのこと美人だとかなんとか……と考えて、期待が胸をかすめる。
もしかして、妬いてくれたとか?
鼓動が一つ、跳ねた。
え。いやまさか。
そんなわけ。
でも、もしかして。
ダリアを見る。
少なくとも、親しみのあるあたたかな視線。
カモミールの湯気の向こう。
桜色の彼女の唇が、ゆっくりと動いた。
目が離せない。
自分の息を呑んだ音が、耳の奥でやけに大きく響く。
鼓動が、彼女にまで聞こえてしまいそうだった。
臙脂の糸に弾かれた時とは違う、もっと熱くて、逃げ場のない高揚が、俺の体の中心から指先まで広がっていく。
サイドテーブルにカップを置き、ダリアは並んだカードに目を向けた。
「じゃあ、わたしからね」
細い指がカードをめくる。
「次、ルークよ」
呼ばれて、はっとする。
浮かされている場合じゃない。
彼女の生命の柱に絡みつく臙脂色の糸。
それを解く方法を考えなければ。
めくるカードを選びながら、俺は必死に言い聞かせる。
でも、もしそれが解けたら。
解けたら、その時は――
◆◆◆
「今日は俺の勝ちだな」
最後の一枚を場に出すと、ダリアが小さく息を吐いた。
「あーあ。負けちゃった」
ぱたん、とベッドに横たわり、悔しそうに眉を寄せる。
大きな瞳が、くるんと俺を見上げた。
「じゃあ、命令して」
「え。俺が?」
「そうよ」
「な、なんでも?」
「なん……」
ダリアは頷きかけて、ふいに気づいたように肩を寄せて起き上がる。
「……変なのはダメよ」
照れたように外された視線。
それがより色っぽさを醸しだすことを、この人は知らないだろう。
変なのって例えば?、とからかいたい気持ちを抑えて、「じゃあ、えーと」と考える。
抱きしめさせて、と囁いてくる煩悩は、とりあえず振り払った。
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