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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶を推しています。~限界オタク女子、推し活ついでに魔界改革はじめました~  作者: アオ
第3章:選定の儀

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ep48:刃を向けたのは、


「たくさん遊んでいただき、ありがとうございます」


そういうのは、女性と思わしき兎魔族(ラビット)である。無尽蔵とも思える体力を持つ幼い兎魔族(ラビット)たちとエンドレス鬼ごっこにギブアップし、汗だくで芝の上に腰を下ろしていたボクにそう話しかけてきた。


「いえ、ボクが遊んでもらっているようなものなので」


これは本当。遊び方を教えてもらい、初めて楽しくて笑ったのだ。謙遜でもなく事実を述べると、兎魔族(ラビット)は少し複雑そうに笑う。

謙遜しているとでも思ったのだろうか。本心なのだけれど。


「……そろそろ夕飯ができますよ。代り映えのない野菜のスープとパンだけですけれど、食べていかれますか?」

「いいんですか?」

「もちろん。あの子たちも喜びます」

「じゃあ、ありがたく……」


ボクがそう答えると、兎魔族(ラビット)は「準備しますね」と炊事場へと戻っていった。




***




「────実りに感謝を」

「感謝を!」


あの後、老齢な兎魔族(ラビット)にも挨拶をしたところで、夕飯の時間となり全員で火を取り囲む。ボクの両隣は誰が座るかと小さな喧嘩が生まれるほどで、それが嬉しかった。いつだって、ボクの両隣は空いていたから。


「美味しいね、ノエル!」

「うん、じゃがいもがホクホクだね」

「ぼくはニンジンが好きー!」


感想を言い合いながら食べるごはんはいつもより美味しく感じる。両隣に座る兎魔族(ラビット)と、「次は捕まえるから」「次も逃げきって見せるよ」なんて鬼ごっこのリベンジを果たしながら食事をしていた時だった。


「────おいおい。良いモン食ってるじゃねえか」


そう言って門をくぐって現れたのは人間だった。


「!」


その場にいた兎魔族(ラビット)たちは恐怖で表情を強張らせる。


「食料と金目のモノを差し出してくれりゃあ、痛い目見ないですむぜ?」


汚らしい見た目から、盗賊や山賊の類であることはすぐにわかった。兎魔族(ラビット)たちも瞬時に状況を理解したのだろう。老齢な兎魔族(ラビット)と女性の兎魔族(ラビット)、幼い兎魔族(ラビット)たちはすぐに立ち上がって村の奥へと駆けていく。ボクの両隣に座っていた兎魔族(ラビット)が、ボクの腕を引っ張り「ノエルも来て」と言うので一緒に村の奥のテントの中へ避難した。

その場に残ったのは、比較的若い男性の兎魔族(ラビット)たちである。ボクはテントの隙間から、様子を伺った。


「食料なら渡す。だが、金目のモノはない」


一人の兎魔族(ラビット)がそう言うが、山賊たちは品のない笑い声を上げた。


「嘘言っちゃあいけねェな? イイから全部寄越せよ。こっちは傷つけてやっても構わないんだぜ?」

「っ、……とりあえず、出せるものは全部出そう」


そう言い、数名の兎魔族(ラビット)が奥のテントへと消えていく。やがてこの村の数か月分にもなるであろう食料が山賊の前に積み上げられた。中には金貨や銅貨も混じっており、“金目”のモノも出していることが分かる。


「これで全部だ。もう何もない」

「あァ?あるだろう、まだ差し出せるモノがよォ」


山賊はそう言うと、鉈を取り出した。その刃に炎が反射して鈍く光る。


「!」


意味を理解したのか、男性の兎魔族(ラビット)たちの顔が曇った。


「ガキを出せ。ガキの肉は高く売れるんだよ」


ゾワッと悪寒が肌を滑っていく。ボクの隣にいた兎魔族(ラビット)が恐怖に震えた。教会では肉を食べる機会が殆どなかったから、遠い世界の話だと思っていた。けれど村の猟師から聞いたことがある。────子どもの兎魔族(ラビット)の肉は極上だ、と。


今、あの猟師が、ボクの記憶の中で鮮明に笑う。


「っ、子どもは差し出しません。これで勘弁してください!」


男性の兎魔族(ラビット)たちはそう言って頭を下げた。しかし山賊はそれを嘲るように兎魔族(ラビット)を蹴り倒す。


「!!」


飛び出しそうになるボクを、隣にいた子どもの兎魔族(ラビット)が引っ張って留まらせる。


「なんで止めるんだ……っ」

「ダメだよ、ノエルは人間だし……、殺されちゃうかもしれないでしょ……っ」


怖い筈なのに、自分自身が狙われているのに。ボクの心配をしてくれている。


「ノエルが死んじゃったら、ぼく嫌だよ。ぼくたちもう、友達でしょ?」


涙で幕を張ったつぶらな瞳はボクを捉えて揺らめく。友達、それがどれほど大切な存在なのか、ボクはわかっている。そしてその存在を失うことの痛みも知っている。


「っ、……うん。もちろん友達だよ」


だからこそ、こんなの見過ごせる筈がない。テントの向こうでは、優しくしてくれた兎魔族(ラビット)が甚振られるように暴行を受けていた。


「オスの兎魔族(ラビット)の肉は硬くてマズイんだよ。だからお前らは────死んで良いぜ」


鉈が兎魔族(ラビット)めがけて振り下ろされる。


(っ、ダメだ……!!)


ボクを、こんなボクを誘ってくれた。深紅の都(クリムゾン)で出会って、ボクのことを覚えてくれていて。


────ボクを、受け入れてくれた。


ボクはたまらずテントから飛び出して、兎魔族(ラビット)を庇うように立ちふさがった。


「あァ!? 人間がなんでこんなところにいるんだよ」

(カシラ)、こいつ珍しい毛色してますぜ」

「売ったら高値がつくんじゃないっすか?」

「……っ」


久々に向けられる差別的な視線。魔王城に住み始めてしばらく好奇の目からは遠ざかっていたのに。嫌でも過去の記憶が引きずり出されていく。


「この人たちに、手を出さないでください」


ああ、格好悪い。足が、手が、声が、震えて仕方ない。炎の明かりに鈍色が光って恐怖を掻き立てていく。


「じゃあ、てめえが代わりに捕まるか?」

「っ、……」


どうすることが最善だろう、どうしたらこの場を切り抜けられる?果たしてボクが捕まったところで、こいつらが素直に引き下がるとも思えない。今日切り抜けたとして、明日は?明後日は?根本的な解決をしなければ、兎魔族(ラビット)たちは安心して夜も眠れない────


考えが、纏まらない。


「おら、お前らこいつ縄で縛れ」

「はいっ」


リーダーらしき男が言うと、一人が麻縄を手に持ちボクとの距離を詰める。ああ、もうダメなのかもしれない。


(結局、魔界にまで来て……怖いのは人間だったなんて)


笑えるよな、そう誰に言うでもなく心の中で唱えて、自分のどこまでも不遇な人生を呪った。


────その時だった。


「諦めないでくださいませ」


こんな不穏な夜に似つかわしくない、凛とした声がすぐ傍で聞こえた。

気付くと男の持っていた縄はバラバラに切り刻まれており、ボクの前で揺れたのは月明かりをそのまま束ねたような綺麗な銀糸の髪だった。


「せ、……セレナさん……っ」

「ノエル殿は、この様な輩になど指一本触れさせません」


見たことない、黒い扇形の武器と思われるものを手に、セレナさんはボクと山賊たちの間に立つ。


「おいおい、随分綺麗なお姉ちゃんじゃねえか」

「こいつも高値で売れそうっすねぇ」


にやにやと意地汚い笑みに、鳥肌が立つ。ああ、ボクが弱いせいでセレナさんまでも侮蔑されてしまう。いつだってボクは、護りたいものの護り方が分からないままで────


────強くなりたい理由はなんですか────


アスタロトさんの、声が聞こえた気がした。


「ボクは……、ボクだって、護りたいんだ」

「……ええ、そう仰るかと思いまして……」


そう言ってセレナさんはボクの影に手を差し入れ、中からロングソードを一振り取り出した。本当、こんな時に抱く感想ではないとは思うんだけど、ボクの影って……。


……ううん、今はいい。集中しろ。


ボクはセレナさんからロングソードを受け取る。稽古でいつも使っているもので、手に馴染む。


「そちらの一人、お任せいたしますね」


セレナさんはそう言うと地を蹴り、あっという間にリーダー格の男との距離を詰めると、そのこめかみに重い蹴りを一発喰らわせた。

セレナさんの流れるような綺麗な体術に一瞬見惚れたけれど、ボクはボクの役割を全うしようと目の前の山賊に視線を向ける。山賊は幸い、一瞬で地面に伏せられたリーダー格に気を取られている。


「────……ふぅ」


ボクは短く息を吐き、ロングソードを振り上げた。


「なっ、……く!」


刃がその体を切り付ける直前で、男はボクの動きに気が付き鉈で攻撃を弾く。けれど、弾かれただけだ。アスタロトさんやベリアルさんは弾かれたと思った瞬間には次の攻撃が来ていた。

目の前の山賊は弾くだけで精一杯とでも言わんばかりで、動きも大振りで隙が多い。


(────ああ、遅いな)


動きが、良く見える。

ボクはすぐさま鉈を刃で弾き、手から落とさせる。師匠相手には一度もうまく決まったことのない攻撃でも簡単に入る。


でも、油断はしない。ボクは弾いた鉈を足で蹴って山賊から遠ざけ、脳天目掛けて鋭く突くように剣を振る。


「……っ」

「ひぃぃいいぁあっ」


山賊の情けない声を上げるのと同時に、その場に崩れ落ちる。

一瞬、ほんの────一瞬だけ。ボクは山賊を斬ることを躊躇った。故に頬を掠るギリギリのところに狙いを変え、山賊の頬にわずかな切り傷ができて、うっすらと血が滲む。


「────……二度と、この村に近づくな」

「ひ、ひぃい……っ、お前は何なんだ……?人間じゃねぇ……バケモノだ……っ」


月明かりと炎の明かりに照らされた、ボクの髪色は鈍色に光る。ボクのこの左右で違う瞳も、暗がりで見るとまた違った色味に見えたのだろう。山賊はボクを見て震えあがった。


けれど、不思議なことに、山賊のその言葉は胸に刺さらなかった。ボクがバケモノであろうと勇者であろうと、ボクがボク(ノエル)であることを認めてくれる人が、今はたくさんいるのだ。


「貴様は生かしておく価値はなさそうだな」


セレナさんが冷徹に言い放ち、その首を掻き切る。正直、止めを刺すのがボクじゃなかったことにホッとしている自分もいて、ボクは誰に向けて刃を振るえば良いのか分からなくなった。


(……でも、このままじゃあいつか、ダリオンを……)


傷つけなければならないというのだろうか。まるでそれが運命であるかのように。

ボクは大切な人を護りたいんだ。今夜、そのために刃を向けたのは紛れもなく人間で。

まだ迷いの残る刃で、誰かを傷つけなくて済んだことに安堵した。


「ノエル……、大丈夫!?」


山賊が退治され、隠れていた兎魔族(ラビット)が駆け寄ってくる。暴行を受け倒れていた兎魔族(ラビット)たちも軽傷で済んだようで、みんながお礼の言葉を口にする。


ボクは、誰も傷つけられなかった。けれど、大切なものは護れたらしい。

まだ迷いのある刃ではあるけれど、今夜ボクは、大切なものを護れたことだけが事実だった。


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