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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶を推しています。~限界オタク女子、推し活ついでに魔界改革はじめました~  作者: アオ
第3章:選定の儀

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ep46:はじめてのおつかい


ボクが魔王城に住み始めて、一か月が経った。目を覚まして最初に目に入る天井に一瞬驚くこともなくなって、白花の侍女衆(ブランシュ)の人たちが「本日のお召し物ですわ」なんて言って入ってきてボクの身支度を手伝ってくれることにも慣れて、朝食にふわふわの白いパンが出てくることが当たり前になってきた。


(白いパンなんて、教会でも食べたことないのに)


教会では黒くて固いパンを、薄いスープに浸して柔らかくして食べていた。それなのに魔王城に来てからは夕食に大きなステーキ肉が出たり、牛鹿の燻製肉が入っている、風味豊かで美味しいスープも出る。

何でもダリオンが相当の美食家らしく、食事の水準がかなり高いらしい。


雷雲が空を覆い、陽光も差さないこの魔界で一体どうやって野菜などを調達しているのか聞いてみたところ、


「え、街あるよ?」


と、とんでもない発言をされたのだ。街、と言っても王都ほど賑やかで華美な場所ではないらしいが、農業を得意とする種族も多く魔界には棲息しているため、そういった魔物たちが市場を開いているらしい。


「元々怠惰の谷(スロース・ヴァレー)だった領地は人間界に近いこともあって、ここみたいに年中曇ってないからね。適度に晴れるし適度に雨も降る。農業に適した土地もあるんだよ」


そもそも、魔王は勇者が来た時のためにいかに戦力を高めておくかに重きを置いている者が殆どであった。

数十年前に討たれたという怠惰の王(ロデル・スロース)はその名の通り怠け切った性格ではあったが、それゆえに自分が楽できるよう配下の育成に力を入れていたという。


そして新たに現れた憤怒の魔王────ダリオン。

モルガントさんやルシファーさんから聞いた話に留まるが、ダリオンは破竹の勢いで魔界の改革を進めたらしい。

その一つが食文化であり、そもそも食事からエネルギーを吸収せずとも魔素だけで生きていける体ではあるのだが、ダリオンは食事を好むのだそう。

その他にも高濃度の魔素により、住む場所を無くした魔物たちを移住させたり、魔素溜まりの要因を取り除く、農業を得意とする種族には声をかけ城下町で市を開かせるなど、とにかく領民に尽くす名君だそうだ。


まあモルガントさんもルシファーさんも、ダリオンを崇拝しているため少し話を盛っているのだろうが、出会ってきた魔物たちを見ても、誰もがダリオンを素晴らしい王であると崇めている。

今のところ、ダリオンが民から慕われていることは本当なのだろう。


(……そもそも、ダリオンって……魔王って何なんだ……?)


少なくとも、ダリオンを見ている限りでは人間界に害を及ぼそうとはしていない。


「ダリオンは人間界を襲わないの?」


ちょっとした出来心でそう聞いたことがあったが、返ってきたのは


「なんで?物資も領地も余るほどなのに、あとは何を奪えっていうの?」


と、ただ不思議そうに小首を傾げ、きょとんとした顔で返された。

そう、ダリオンには人間界を襲う理由も口実も何もないのだ。先々に討たれた魔王たちも、人間を害してきたのだろうか。

疑問を抱き、せっかく魔王城にいるのだから、と魔物側で書かれた書物を読み漁ってみた。


「なんだ、これ……」


勿論、人間の書物は人間に都合よく改変されているものが殆どであり、魔物の書物も同様に魔物にとって都合良く書かれているのだろう。しかし、それにしても……


「あまりに……人間側の書物と内容が違いすぎる……」


ボクの好きだった絵本もそうだが、人間側の書物は魔物という計り知れない強さを誇る未知なる脅威を、排除しようとしていた。

しかし魔物側の書物は違った。人間界と接する魔物の村を、人間が襲ったため撃退したと書かれていたのだ。魔物の領土には豊富な資源がある。あたかも人間にとって害悪なる魔物を退治するという尤もらしい英雄譚を添えて、人間はその資源を狙って戦を仕掛けてきたのだ、と。具体的な日付も場所も詳細に記載され、曖昧な寝物語程度に語り継がれている人間界の書物よりもずっと、信憑性が高かった。


勿論、すべてを鵜呑みにして良いわけではないけれど。

ボクは一つだけ知っていた。────人間という生き物の()()()を。


人間が自分勝手な理由で魔物の村を襲う、という文字に滲む人間の意地汚い部分に、ボク自身覚えがあったのだ。


「────……調べてみる価値はありそうだ」


そう誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように決意した。




***




「街へ行きたいんだけど」


唐突だった。まあ、大抵のことは唐突に起こるものだけれど。

ノエルが執務室に入ってくるや否や、そう告げたのだ。


「え、どうしたの、急に。何か欲しいものでもあるの?」


城下町────ここ、深紅魔城(クリムゾン・パレス)の名にちなんで深紅の都(クリムゾン)と呼ばれている街には定期的に市場が開かれる。しかし、その中にノエルの興味がありそうなものはあったっけ、と記憶を探るがピンとくるものはない。


「ちょっと、魔界について詳しく知りたくなった」

「……いいけど、アスタロトかベリアルを連れて行って」


ノエルの理由に嘘はないようだった。自分が住んでいる街について、色々知りたくなることも当然といえば当然だし。

ただ、魔界には魔素濃度の問題で人間は一人もいない。そう、ノエルを除いて。

故に、いくら治安の良い城下町といえどノエルを一人単体で、気軽に「行ってらっしゃい」はできない。そう判断し、白銀の護衛卿(プラチナ)のどちらかの同行を条件とした。


……しかし、ノエルは苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「何、その顔……」

「いやぁ……、あの二人じゃなきゃダメ?」

「なんでよ。いつも稽古してもらってるんだから、知らない人つけるより良いでしょ?」


これはノエルの複雑な心境(思春期)が関係しているのか?と思いつつ、正解が分からないためノエルの表情をじっと見つめる。

すると観念したようにため息を吐いて俯いた。


「あの二人は、師匠なんだよ……。師匠と一緒に買い物って、なんか……すごい恥ずかしいじゃん」


ほっほーう!!なるほどね!!

保護者と一緒に買い物行くような感覚なのか!そりゃあ思春期サンには気恥ずかしいわけだ。

そう納得しながらも同時に寂しくも思う。ノエルにとって、アスタロトとベリアルが保護者のように近しい存在になってくれているのは嬉しいことだけれど、逆に今までノエルにそれだけ近い存在がいなかったことの証明にもなっているのだ。


「────分かった、じゃあスノウを連れて行って」

「え、いいの?」

「もちろん。ノエルの……、私たちの友達でしょう」


まあ、ノエル見守り隊(ノエル・クラブ)もいるし、本当に危険な目には合わせないつもりだけれど、ノエルも初めての場所で不安を覚えるはず。顔見知りは居るに越したことはない。


「……確か、市場には古本を扱う店があった気がする。雑貨類もあったかな」


本、という単語に分かりやすく反応するノエルが可愛らしい。私は執務机の引き出しを開け、金貨と銀貨を数枚取り出し革袋に入れてノエルに差し出す。


「これで買い物しておいで」

「えっ、でも……」

「まあ、お小遣いだと思ってさ」


遠慮するノエルに無理矢理革袋を持たせる。おそらく教会で育ったノエルにお小遣いという概念はないのだろう。……もしかしたら金貨何て見たのも初めてかもしれない。ノエルの手が僅かに震えていた。


「こんなに……、いいの?」

「もちろん。通貨は人間界でも一緒だから安心して持ってて良いよ」

「う、ん……」


ノエルは手のひらの重みを確かめるように、しばらく革袋を見つめていた。


「ボク、買い物初めてかも」


おっふ、それってもしかして「はじめてのおつかい」なのでは!?

ドーレミッファーソーラシードォ~と脳内で勝手にBGMが駆け巡る。


「じゃあ、楽しんでおいで」

「うん……っ」


私はそう言ってノエルを送り出した。子どもらしく無邪気な表情が愛らしい。


「レイヴン」

「は、既に夜誓部隊(ノクターン)のセレナをつけております」


影から顔だけを覗かせるレイヴンの答えに、流石と頷き、私は椅子の背もたれに体重をかける。

私はセレナから届くであろう、ノエルの「はじめてのおつかい」の報告を待った。


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