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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶を推しています。~限界オタク女子、推し活ついでに魔界改革はじめました~  作者: アオ
第2章:推しとの出会い編

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ep29:まおうとゆうしゃ


────太陽が、揺れた。


ううん、違う。

ボクを照らす光が────




ガツン、と痛みと衝撃を受け、私は一瞬体がふらついた。

額から血が流れ出るのを感じ、痛みと同時に言い表しようのない怒りを覚えた。


(こんなものを、ノエルに向けて投げたのか、こいつ!!)


ぎろり、太った男児を睨みつけると、男児は怯むような様子を見せる。

おそらく自分が投げた石で本当に人を傷つけてしまったという、罪悪感にも似た恐怖を抱いたのだろう。


出血にも物怖じせず、ただ両手を広げて立つ私を、震える指先で指さした。


「お、お前は誰だよ!」


おお、これはごもっとも。

というのも私は、最初こそこっそりと森の中からノエルを見守っていた。


けれどノエルの前に太っちょ男児を中心とした三人の男児が立ちはだかってからは、そうも言っていられなくなった。

太っちょはノエルに何か暴言を吐く。人間の鼓膜では何を言っているかまでは聞き取れないけれど、ノエルの表情からするにろくでもないことを言っていることだけは分かる。


(あんにゃろう……っ

急所どついてやろうか……!)


怒りのまま飛び出していきそうになりながらも、脳内でルシファーが「ダメです!」と私の理性を引っ張る。


もう少し、もう少しだけ見守ろう。

そう思いなんとか理性で駆け出しそうな衝動を押さえつける。



しかし、あれはダメだ。

太っちょが少し大きめの石を手にした。


手加減の知らない子どものパンチほど、痛いものはない。

親戚の集まりなんかでパンチやキックを繰り出してくる小学生男児は、本当に容赦というものを知らなかった。


そのことを思い出し、あのサイズの石を思い切り投げつけられたらノエルは────……


そう考えると同時に、私は駆け出していた。

ノエルの目の前に飛び出し、恐怖で小さく体を丸めるノエルを庇うように両手を広げる。



────ガツンッ、



鈍い音と痛み、衝撃。

生暖かい何かが流れる感触に、「あ、血が出た」と思った。

中身は女子高生とはいえ、本当は泣き出しそうなくらい痛い。

痛いけれど、表情に出したら負けだと思った。


そして今、太っちょは流血する私を見て青褪める。


「お、お前は誰だよ!」

「そんなの、どうだっていいだろ」


太っちょの震える声に、怒鳴り返す。


「弱い者虐めなんかして、楽しいのか?」


低く、諭すように問いかける。

今更こんな正論が、あの太っちょに届くとは思っていない。

けれど、今敢えてゆっくりと呼吸しながら話さなければ、怒りのまま殴りかかってしまいそうだった。


「っ、そいつがバケモノなのが悪いっ」

「理由になってねぇ!この子がバケモノ?

こっちから見たらなぁ、人間に石投げてるお前らの方がよっぽどバケモノだよ!!」


噛みつくように言うと、私の勢いに圧されたのか、太っちょは言葉に詰まる。

それでも震える指先はおろさず、真っすぐに私を指す。


「お、お前もその赤髪……!

魔王と一緒じゃねぇか!」


────……ん?魔王?


いや、確かに私は魔王だが、今現状私は人間になっているはず。

どういう意味かわからない私は、何言ってるんだこいつ。と困惑して見せた。


「ば、バケモノはバケモノ同士、一緒にいろよっ」

「か、勝手にしろ!」

「バケモノー!」


太っちょを中心とした三馬鹿は勝手に捨て台詞を吐いて去っていく。

影すらも見えなくなったところでようやく、私はドサッとその場に崩れるように座り込んだ。


「いってぇ~~~~~」

「あ、ダメだよ。そんなに擦っちゃ……」


額から流れる血を手で雑に拭うと、ノエルが私の手をつかんだ。

そこで初めて、ノエルと目が合う。


透き通った琥珀色と、アメジストのオッドアイに私が映る。


「ぇ、……」


声ちっさ。

いやでもしょうがなくない?


私、今推しに認知されてるんだが……!?


アドレナリンどばどばで気づいていなかったけれど、ちょっと待って?

私今、推しと話してる?え、というか触れ合ってる……!?


「だ、大丈夫?ボクなんか庇ってケガして……」


ノエルはポケットからハンカチを取り出し、私の額にそっと当てる。


「いっ、」

「わ、ご、ごめん……」


触れた瞬間痛みが走り、思わず顔を顰めてしまうとノエルも慌てて手を離す。

ああ、せっかくの触れ合いが、と思いつつ今のは反射なのだから仕方がない。


「……ま、まだ……伝えていなかったね」


不意にノエルが俯き加減にそう呟く。

なんだ、何が伝えるべきことはあった?

困惑している私を他所に、ノエルは視線を持ち上げる。


「────ありがとう」


刹那。


「う゛……っ」


あまりにも神々しすぎる幼児笑顔を直接(モロ)に喰らった私は額の怪我よりも余程の致命傷を受けた。


「ボク、こんなだから……。

あれが普通なんだ」


そう言ってノエルは自身の前髪を一束持ち上げる。

ファンタジーの世界とはいえ、この世界でノエルほど鮮やかなブルーの髪色は見かけない。

けれど、私は知っている。

ノエルが、()()()()()()()()()未来を。


「────いいじゃん」


私は笑って見せる。


「君の髪は、空を切り取ったみたいに綺麗だよ」


心からの、言葉。

人間の欲に塗れた薄汚れた世界では、ノエルの髪色は少し明るすぎただけなのだ。


決して手の届かない場所にある()が、触れられる距離にあることに。

きっと周りがまだ戸惑っているだけ。




***




大きな石が、飛んできた。

怪我を覚悟した自分に、その痛みも衝撃もなくて。

代わりに太陽の様な眩しい髪がボクの目の前で揺れていた。


あろうことかこのボクを庇ってくれた。

額から血を流しながら、身を挺してボクを庇ってくれたのだ。


いつも虐めてくる三人を、言葉だけで追い返してくれた。



(────勇者さまは、金髪のはずなのに……)



目の前に揺れるのは、赤い髪。

夕日を切り取って窓辺に飾ったような色。


その子は、ボクの髪色を空みたいだと言って笑う。

ああ、そんなこと……言われたことも────思ったことも、なかった。


疎まれ、忌み嫌われるだけだった。

左右で違う目も、鮮やかすぎる髪色も、呪いのようにボクに付きまとうだけのモノだと。


けれど、君が────綺麗だと言ってくれた。

足枷の様に絡みついていた呪いが、音を立てて崩れていくような気がした。


同時に思った。

雷に打たれたような衝撃と痺れに。


この出会いは、もしかしたら────……




***




「ねえ、それ……何読んでるの?」

「え、ああこれ?」


ノエルの手元にある絵本を指さすと、どこか嬉しそうに顔を綻ばせるノエル。


「これはね、勇者さまが魔王を倒すために旅に出るお話だよ」


おっと、内容がえぐいな?

私がその魔王です、なんて口が裂けても言えない。


けれど、話題を振った以上ここで急に黙るのも不自然だよね……。


「ねえ、読んでよ」

「えっ、今?」

「うん、今。だってそれ、好きなんでしょ?」


絵本に向けられる視線は優しい。

好きなものを見る目だと、すぐに気が付いた私は、絵本を読んでくれるよう頼んでみた。


「うん。すごく好きなんだ。

読むのは良いけど……、人に読んだことはないから上手に読めるか……」

「上手じゃなくても良いよ。わた────僕が聞きたいだけなんだから」

「……うん、じゃあ読むね」


ノエルはどこか嬉しそうに、その表紙を開いた。


「────むかしむかし、まかいには まかいをすべる王、まおう がいました────」



まおうは まものたちの王さまでした。

血のように まっかな 長いかみに、するどいつめ。

口には ほねすら かみくだくほど つよいキバをもっていました。

まおうは にんげんの 

ふあんなきもちや きょうふ

しっと や いかり

いじわるな心を食べることで生きてきました。


まおうは にんげんの心を食べることで つよくなり

やがて、にんげんの国をおそうようになりました。


空はくらくなり、かみなりがとどろき

せかいはあっという間にまっくらに なりました。


そんなとき、ある村に 黄金のようにかがやく

金色のかみをもって生まれた子どもがいました。

その子どもはあっという間に大きくなり

つよくて やさしい りっぱな男の子になりました。


ある日、子どもはお父さんとお母さんに言いました。


「ぼくは まおうを たおすために 生まれてきたんだ」


子どもは ゆうしゃ だったのです。

にんげんたちが まおうにおびえ こわがることで 

まおうはどんどん つよくなっていきます。

そのことを 子どもはしっていました。


「みんながこわい思いをしているから、ぼくが まおうを たおします」

「しかし、まおうは とてもつよい。一人ではきっとかてないだろう」


お父さんはそういい、うーんとうなりました。


「では、いっしょにたたかってくれる なかまをさがします」


ゆうしゃはそう言い どんと むねをたたきました。


「おまえがそう言うならば しんじよう」

「気をつけて いってくるんだよ」


お父さんとお母さんは、なくなく ゆうしゃを見おくりました。



「────こうして勇者は仲間とともに魔王を倒すことができました。

人間の世界に平和が戻り、勇者とその仲間は家族の元へと帰り幸せに暮らしました」


絵本の内容は、どこにでもある英雄譚だった。

────はずだった。

けれど、この絵本はどこかこの世界の核心をついているような内容で、私は考え込む。


「ボクはね、勇者さまに憧れていたんだ。

相手がどんなに強くても、戦うと覚悟する姿がすごいなって」


考えに耽る私を他所に、ノエルは空を見上げ、そう言う。

小さい子が戦隊ヒーローに憧れるようなものなのだろう。

私はそんな小さな夢を宝物のように抱くノエルを、愛おしく思っていた。


「でもね、ボクにとっての勇者さまは違ったんだ。

金色の髪じゃなかった。

ボクにとっての勇者は、────君だったよ」


────……おん?

これは、絵本の勇者に憧れ、勇者と共に旅立ち魔王を倒す勇者パーティ所属の僧侶の話じゃないのかい?


憧れの対象が私になってしまったのか?


……それはまずくないかい?????


「そういえば、自己紹介していなかったね。

ボクはノエル。君は?」


なんだか照れくさそうに自己紹介始めた推しが可愛いんですけど────!!!!!


と、叫びたい気持ちをグッと堪えて自分も自己紹介しようとする。

けれど、おそらく「ダリオン」と本名を名乗ってはダメだろう。

ほんの数秒考えてから、私はノエルに微笑みかけた。


「僕は“ダリル”っていうんだ。

よろしくね、ノエル」


ああ、公式で名前を呼べる日がくるなんてっ

と、勝手に感激している私の内情など知る由もないノエルは、パッと表情を明るくする。


「ダリル!うん、よろしく。

あ、あのね────」


ノエルが何かを言いかけたとき、教会の鐘が鳴った。


「……あ、もう行かなくちゃ。

あ、あのね。ボクこの時間は良くここにいるんだ。

そ、その……ま、また会える?」


ちょっと推しの可愛さが留まるところを知らないんですけどぉ────!!!


運営どうなってんのよ!!

とキレそうになるけれど、これにも耐える。


「うん、きっとまたすぐ会えるよ」


って返せた私偉い……っ

本当なら毎日だって会いに来たいけど、きっとそれは無理だろう。

私にも立場というものがあることを、こうみえてきちんと理解しているのだから。


私の言葉を受け、ノエルは嬉しそうに笑う。


「じゃあ、ま、またねっ」


そう言ってノエルは走り去っていった。

っか~……。なんだあの可愛さは。


それにノエルの生い立ちから考えれば「またね」と約束できるような存在は周りにいなかっただろう。

おそらくノエルのハジメテを意図せずゲットしてしまった私は、もう思い残すことはない。

ここで死んでも本望────



と目を閉じたけれど、瞼の裏に怒り狂うルシファーが見えて慌てて起き上がる。

MPの消費的にもそろそろ《擬態》を解かなければならない。

私は慌てて森の中へと姿を隠した。


森の奥深くまで進んだところで着ていた(リネン)の服を脱ぎ《擬態》を解く。


「ふぃ~、危機一髪……」

「危機一髪、じゃないッスよ!

本当、何してんスか!」


《擬態》を解いた瞬間、ベリアルの声が聞こえて肩が跳ねる。


「えぇ~、だってあればしょうがないじゃん。

目の前で推しが傷つけられてるんだよ?」

「それでダリオン様がケガしてちゃ意味ないんスよ!

怒り狂って飛び出しそうになってるアスタロトを止めてたこっちの身にもなってほしいッス」


ああ、なるほど。

道理でベリアルに疲労が見えるわけだ。

そしてさっきから静かなアスタロトが気になる……。

ちらり、視線を向けると予想に反してにっこり微笑まれる。


……あ、知ってる。その笑顔。ルシファーがいつもやるやつ。


ゾッとしていると、アスタロトが素敵な笑顔のまま告げる。


「顛末はすべて、ルシファー殿に報告させていただきます」

「ひぇっ、そ、それだけはご勘弁を~……っ

き、傷だってほら、《擬態》を解いたら消えたし!

えーん、お願いお願い~!もうノエルに会えなくなる~!!」


アスタロトに必死に懇願するも、無視され、帰還の準備へと移る。

あ────んっ、やだぁ~~~~~~~~~っ






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