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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶を推しています。~限界オタク女子、推し活ついでに魔界改革はじめました~  作者: アオ
第2章:推しとの出会い編

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ep28:青空の元、揺れたのは


────晴天が、気持ち良い。

魔界は魔素の影響でほぼ曇り空。

それも真っ黒な雷雲のせいで陽の光は完全に遮断されているのだ。


久しぶりの日の光で、自分の中の何かが浄化されていくような気がする。


木漏れ日を全身に浴びながら、ノエルの姿を探す。

すると報告通り、教会の裏手にある大きな木の下で読書をする彼の姿を見つけた。


「────ノエル……」


スカイブルーの髪は、その名の通り透き通った空をそのまま映したような鮮やかさだった。


陽の光に透け、柔らかな風に毛先がふわりと揺れる。


(推しが……っ

う、動いて……っ、動いてりゅ……っ)


瞬きとやや表情を変えるだけの、画面越しの推し。

それが今、髪の毛の一本一本までもが繊細に動いている。

そしてようやく実感した。


推しが、生きているのだ、と。


「う、うぅ……っ、ぐす……っ」


なんてこった、涙で推しの姿が見えないぜ。

静かにページをめくる推し。大きな動きもなければ声を発したわけでもない。

それでも数メートル先の推しは確かに生きている。

それだけで涙が溢れてくるのだ。


(ごめん、ルシファー。

貴方もこんな気持ちだったのね……)


毎回大袈裟とか思ってごめん。


爆発してしまいそうな感情が、涙で溢れてどうにか正気を保っているような感じ。

ルシファーにとって私が「推し」ならば、あの大袈裟なリアクションにも納得できますわ。


と、ノエルを観察すること数分。

いや、数時間かもしれない。ノエルを見ているだけで時間は勝手に溶けていく。

実際、どのくらい経ったかはわからないけれど、しばらくするとノエルの前に複数の子どもがやってきた。


(友達、かな……?)


読書をしているノエルに影がかかる。

ノエルの前に立つのは、三人の男の子だった。

一人は本当に教会で育っているのか……?と、疑いたくなるほど恰幅が良い。

いや本当、偏見で悪いんだけど、教会のご飯って質素じゃん?

なんかこう、太れるほど量も食べれるイメージがないのよ。

本当にごめんだけど。


(一緒に遊ぼう、とか誘われるのかな。

鬼ごっことかする推しが見られたり……?)


推しを目の前にして脳内花畑状態の私は、呑気にそんなことを考えていたけれど、ふと思い出す。

ノエルが差別を受けていた事実を。

教会でもほかの子と違う扱いを受けていた。そんなノエルの前に立ちはだかる人影。

それが、ノエルにとって“良い存在”だと、どうして思えただろうか。




「────おい、“バケモノ”」




────……そう、呼ばれるのは初めてではなかった。

本を読むという、まだ短い人生の中でも数少ない楽しみに没入していたノエルの目の前に、三人の男児が立ちはだかる。

本に影が落ちたとき、ノエルはそれを不思議に思って顔を上げることもしなかった。


そう、()()()()()()だから。


むしろ顔を上げても下げていても、この先の未来は変わらないのだから、だったらほんの一文字だけでも、文字を追っていたかった。


「────無視かよ、バケモノ」


一番太った男児が、足元にあった小石を蹴ってノエルへとぶつける。

ノエルはわずかな痛みを覚えたが、それに反応することはなかった。

男児も思った反応が得られず、つまらなさそうにノエルを睨む。


「お前、またそんな絵本なんか読んでんのかよ」


ノエルの手には古びた絵本があった。

ノエルはこの絵本が好きで、何度も繰り返し読んでいる。

内容は至って王道の物語で、魔王を勇者が倒す話だ。


いつか、いつか自分のことを助けに来てくれる人がいるかもしれない。


そう、希望を持たずにはいられなかった。

特に、ノエルのまだ幼い心に、空想だとしてもその支えは必要だったのだ。


「お前なんか、勇者になれるわけねぇだろ!」

「そうだそうだ、青髪の勇者なんていねェ!」

「お前の気持ち悪い目は、倒される魔物だろ!」


三人の男児が、次々と言葉を投げつける。

鋭く尖った言葉は、ノエルを深く傷つけていく。

けれど、そこに血は流れない。


血の出ない怪我は、気づけない。

傷つけられている本人でさえ、自分の心の傷がどれだけの数があるのか、わからないのだから。


(……勇者さま……)


ノエルは絵本を抱きしめる。



物心がついたころには、雨漏りの染みがひどい天井を見上げていた。

誰よりも先に目覚め、井戸の冷水を雨の日も雪の日も、何往復もして教会へと運び込み、冬の寒空の下で冷水を使って体を拭いてた。

食事量は他のみんなより少なかったけれど、文句は言わなかった。


言ったらどうなるか、その結果が自分の()()()()()()()()()


同じ教会に住む子からも疎まれた。

罵詈雑言を浴びせられ、石を投げつけられるのはいつものことだった。


みんなと違う髪色、みんなと違う目の色。

みんなと違う部分を、恨んだりもした。

髪の毛を引き抜いてみたりもしたけど、新しく生えてくる髪の色は変わらなかった。


鏡を見るたびに映る、左右で違う目の色が嫌いだった。

目をつぶしてしまおうかとも思ったけれど、そんな勇気はもてなかった。


逃げ出す勇気もない、やり返す勇気もない。

勇者に憧れるだけ。努力もしないで助けがくる日を夢見るだけ。


そんなボクはきっと、

勇者になんかなれやしない。



***



────ここ、教会は魔界からそんなに離れていない。

しかし、教会には“聖なる結界(ホーリー・フィールド)”が張られており、小鬼人(ゴブリン)やスライムのような低級魔物は入ってこられない。

ごく稀に蛇や鼠といった小動物が森から迷い出てくる程度であった。


もっとも、迷い出てきた小動物はこちらに危害を加えるような存在ではない。

だからなのか、教会に住む誰もが、本当の意味で魔物の怖さというものを、知らなかった。

ノエルにとって、目の前でまだ少ない語彙力を全力で漁って投げつけてくる同じ人間の方が、魔物よりも余程怖かった。


事実、森からやってきたのであろう、いつの間にか教会の裏手に棲みついていた白い蛇はこちらに何も危害を加えない。

ただ見守るように……ノエルからすればそれすらも希望的観測なのかもしれない。

それでもどこか優しい眼差しでこちらを見ていただけの蛇でさえ、「魔物だ」「魔物の使いだ」と叫んで石を投げたり、熱いお湯を浴びせようとしていたのだ。


未知なるものを恐れ、寄ってたかって集団で危害を加える人間たちの方が、余程醜い獣のようだった。


「聞いてんのかよ、バケモノ!!!」


太った男児が、小石を手に取りノエルへと投げつける。

まだ力加減のできない少年は、振りかぶってその石をノエルへと投げつけた。

幸いノエルにはぶつからず、背もたれにしていた木の幹にぶつかる。

小石の勢いと、木の幹にぶつかった音に驚き、ノエルは首をすくめ肩を震わせた。


今まで何も反応してこなかったノエルが、ようやく見せた反応に気を良くした男児は、にやりと意地悪く笑った。


「当たってねェのに、ダッセェ~!」


げらげらと下品に笑う男児に、ノエルは下を向いて唇を噛む。


「おい、泣くのか?泣くのか?」


男児はノエルの涙が見たい。一種の承認欲求のように、ノエルを泣かせたことで自分が強いという承認が欲しいのだ。

しかし、ノエルは負けない。


いつか、いつか。

勇者にはなれなかったとしても。

勇者の仲間として、魔王を倒したい。


そのためには、こんなところで泣いていてはだめだ。

負けちゃだめだ。そう考えて涙をぐっと呑み込んだ。


「な、泣かない……!」


キッ、とノエルは男児を睨む。

反抗的な視線は男児たちの神経を逆撫でした。


「……んだよ……その目……っ

その気持ち悪い目で、こっちを見るな!!」


太った男児はそう叫ぶと、今まで投げていた小石よりも一回り大きな石を手に取ると、思い切り振りかぶった。


ぶつかったら確実に怪我をする。

そんな未来を予測し、ノエルは身を縮こまらせた。


「────……っ」


ぎゅっと、目を瞑った。すぐにくるであろう痛みと衝撃に備えて。



────ガツンッ、



「!!」


音がした。すぐそばで。

けれど、その衝撃も痛みも、ノエルは何も感じない。


薄く目を開けると、そこにはまるで自分を庇うように立つ人影があった。


「……?」


状況が呑み込めず、ノエルは視線を持ち上げる。

するとそこには────



まるで太陽を閉じ込めたような。

綺麗な赤髪が揺れていた。



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