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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶に恋しています。  作者: アオ
第2章:領地統合編

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ep24:新たな旗のもとに


────バタン、と音を立てて分厚い扉が開かれる。

一斉に視線がこちらに向けられ、貧弱メンタルの女子高生部分が悲鳴を上げるけれど、こちとら魔王に生まれ変わって数か月。

それなりに表情や態度をそれっぽく取り繕うことができるようになった。

堂々とした姿を見せなければ初見で舐められてしまう。それは避けたかった。



「────それでは、会議を始めます」


凛とした声が響く。

段々になっているタイプの講堂には様々な魔物たちがひしめき合っており、ざわざわとした雑音を生み出していたが、ルシファーの声に雑音は鳴りを潜めた。


どうやら声に魔力を込めたらしい。

私のスキルである《魔王覇気》とは違うみたいだけれど、それでも隠し切れない強者の声色に、講堂は静けさに包まれた。


「まずは我らが魔王、ダリオン・ラス様よりお言葉を賜ります」


ルシファーからパスを受け取った私は立ち上がる。

……けれど、こういう土壇場に弱い私。

大勢の前で自分の意見を言うことなんて、皆無だった私が言えることなんて────


「本日は急な────……いや、それどころか隣の領地からの呼びかけだったにも関わらず、集まってくれたことに感謝する。

……とまあ、前置きは短く。長話は苦手なんだ。早速本題に移ろう。

話し合いは長くなる。お茶や菓子も用意したから、遠慮なく手を付けてくれ。

堅苦しい場は私も苦手なんだ。今日は身構えず、思ったことを率直に話してほしい」


結局、脳内にある“語彙”や“エピソード”の引き出しを開けて、かき回すように言葉を探したけれど、気の利いた言葉など出てくるはずもなく。

こういうときの台本(カンペ)を次からは絶対に用意しようと心に決める。


とりあえずいつもの“(JK)”が出ないよう喋れただけで花丸なんじゃないだろうか。

身内の反応を伺うように視線を幹部たちに送ると、モルガントが頷いてくれた。

及第点、というところなのだろう。


あと、私の言葉に感極まったのか、一人涙ぐむルシファーはやっぱり異常だと再認識した。

だってこの場に幹部全員揃っているけれど、ルシファーしか感激してないもん。


とりあえずさっさと本題に入り、この注目の的から少しでもズレたい。

私はルシファーに目配せをして、議題へと移るよう合図を送る。


「ぐずっ、……それでは議題に移ります」


嗚咽混じってんじゃん。本当やめて。

あんな中身のない挨拶にいちいち感激していたら、私に威厳のいの字もなくなるわ。


「まず初めに、お気づきの種族も多いかと思いますが、怠惰の谷(スロース・ヴァレー)全域で魔素濃度が非常に高濃度になっています」


ルシファーがまだ若干鼻声のまま、資料を手に持ち話を進める。

ルシファーの言葉に覚えがあるのか、複数種族がざわつく様子が見られた。


「お手元の資料をご覧ください。

2週間に渡り、周辺の魔素濃度を調査いたしました」


ルシファーに言われるがまま、資料に目をやる。

ふと周りを見て気が付いたが、体躯の大きな大鬼族(オーガ)豚人族(オーク)には大きいサイズの資料を、鼠魔族(ラッテル)兎魔族(ラビット)など小型の魔物には小さい資料を、と種族によってサイズの違う資料を用意してあることに気が付く。


こうした細やかな気遣いができるのはモルガントか白花の侍女衆(ブランシュ)の子たちだろう。あとで褒めてあげよう。

そう心に決めて再度資料に目を落とす。

怠惰の王(ロデル・スロース)の魔王城付近から、うちの領の端っこの魔素濃度まで細かに記載されていた。




***




順調に会議は進んでいき、狂暴化した魔物の話になると、やはり幾つかの反応が見られた。「信じられない」とつぶやいていたのは、大鬼族(オーガ)などそれなりに強く、魔素の濃度にも耐えられる魔物であった。


逆に鼠魔族(ラッテル)小鬼人(ゴブリン)たちの表情はひどく険しい。


「────これに関しては見せたほうが早いね」


私がそう呟き、予めインベントリに収納しておいた観察対象の熊を結界で包んだままその場に顕現させる。


「!!」


いきなりの熊登場にシンプルに驚いたあと、その巨大な体躯や可視化できるほどの高濃度の魔素に体表が覆われていることに気が付いた者たちがその脅威に震えた。


「この熊は熊魔族(ベアード)のような魔物ではなく、怠惰の王(ロデル・スロース)の魔王城付近に生息する、一般的な獣の熊でした。それが高濃度の魔素に晒され続けることで魔素を帯び、結果的に“魔物化”を引き起こしています」


熊を出すと同時に立ち上がったのがモルガントである。

私より長い時間熊の観察、研究を進めていてくれたモルガントが資料を基に説明を続ける。


「“魔物化”だと?」

「そんな、いやでも……」


反応は様々だが、やはり険しい表情を見せるのは弱小種族たちである。


「一般的な熊は大きくとも二、三メートルに対しこの熊は捕獲時で五メートルを超える巨体でした。熊魔族(ベアード)並みのサイズを持っていたのです。更に狂暴性も高く────……」


モルガントの説明に頷きながら聞き入る。


体表の魔素を体内に取り込み、心臓が核へと変わる。

最初に立てた仮説は「体表の魔素が減った分、体内へと蓄積される量が増える」など、どうやら研究で得たデータで裏付けがとれたようだった。


魔物化による脅威についての説明が終わる。

講堂には重苦しい沈黙が落ちた。

そして、いよいよ今日の本題へと話は移る。


「────以上を踏まえ、我が領地においても他人事ではなくなりました。

領地を統合し、我が魔王ダリオン様の元で統治します」









────……ん?

統治“します”って言った?


ちらり、視線をルシファーに向けるととても美しい笑みで返された。

ちょいちょい、違うでしょうよ。


統合したいんだけど、どう思う?


でしょう!

何を勝手なこと言ってくれてんだ、この悪魔!


「おいおいおい、決定事項なのかよ?」

「こっちの意見は聞かねえのかよ!」



あ────あ、ほら。もう。

怒ってる人いるじゃああん。


どうしてくれんだ、と睨むようにルシファーへ視線を送るとサッとそっぽ向かれた。

こいつ……!


「────もちろん、意見を述べてくれて構わない。

そのために今日、諸君らをここへ参集したのだ」


魔王らしく言葉を取り繕い、若干《魔王覇気》を滲ませる。

おかげでざわつきは静まり、声の大きな者だけが残った。


「……じゃあ遠慮なく言わせてもらいますけどね」


そう切り出したのは大鬼族(オーガ)である。

大鬼族(オーガ)はゲームでも中盤以降に出てくる魔物だった。

それなりのレベルに育てていないと、硬くて全然ダメージが入らなかったことを思い出す。

そして大鬼族(オーガ)の岩の様に堅そうな肌を見て納得する。

そりゃ天然の鎧着ているようなもんだわ。


ということで、ある程度の強さを誇る大鬼族(オーガ)

確かにある程度濃度の高い魔素にも対応できるため、今回の統合に対するメリットも少ないのだろう。


「我らが魔王、ロデル様は統治なんかしなかった。

自由だったんだ。それを今更、新参の魔王がしゃしゃり出てきて統治するだぁ?

そんなもん、納得できるわけがねぇだろ」


なるほど、そりゃごもっとも。

そういう意見もあるよね、程度に受け取っていたのだが、うちの幹部たちはどうやら違う受け取り方をしたらしく、ブチギレ寸前。


ねえちょっと待って、ルシファーのこめかみに今にもはちきれそうな血管が浮き出てるんだが……。それ、切れたらまじ出血しない?こわ……っ



……ていうか怠惰の王(ロデル・スロース)はその名の通り「怠惰」の魔王。

統治しなかったのも魔物の自由を尊重したんじゃなくて、ただ「面倒」だっただけ。

前作プレイしたからこそ、私は知っている。


けれど、魔物たちからしてみれば「自由」だったことが事実なのだろう。

その意見を否定するつもりは毛頭ない。


「────お、俺たちは賛成だ」


そう声を上げたのは、講堂(会議室)の前列に座っていた小鬼人(ゴブリン)の代表である。


「わ、我々も賛成です!」

「実際に仲間が狂暴化したんだ」

「他人事じゃない……っ」


小鬼人(ゴブリン)の言葉を皮切りに、兎魔族(ラビット)鼠魔族(ラッテル)などの弱小種族たちが声を上げる。


次々と上がる声の一つ一つは小さいものでも、それがいくつも重なり、大きくなって空気を揺らす。


「────チッ、だから弱ェ奴は嫌なんだ」


小さくも重なり合った声を一蹴したのは、先ほどの大鬼族(オーガ)の代表である。

いかにも桃太郎が退治しそうな“鬼”の姿をした大鬼族(オーガ)は自分たちの強さを過信している。

……否、本当に強いからこそ、自信があるのかもしれない。


(推し量るか)


本当の強さを。

そう思い《魔王覇気》の対象を大鬼族(オーガ)に設定するが……、私よりも先にバアルが動いた。


「随分と強さに自信があるようだ」


低い声は唸り声にも聞こえる。

バアルも身長は高い方ではあるが、人型を取っているバアルは大鬼族(オーガ)の体長の半分くらいしかない。


まあ、おそらく……というかほぼ確実にバアルの方が格は上だが、どうやって大鬼族(オーガ)を黙らせるのか、少しは魔王らしくどっしり構えて見守ることにした。


「なんだ、お前は。たかが“一対翼(モノ)”のくせに。

俺とやろうってのか?」


大鬼族(オーガ)は目の前の存在を脅威に思っていないらしい。

それもそのはず。大鬼族(オーガ)の言う“一対翼(モノ)”というのは翼の数。


悪魔族(デモリアン)は翼の数でそのレベルを推し量ることができる。

翼の数でその個体の強さが可視化できるのが、プレイヤーとしてはありがたかった。

パッと見て翼が二対以上の中級悪魔(ウィング)は避けて通ることがベストだったから、中級悪魔(ウィング)を見つけたらまず翼の確認をしていた。


しかし、上級悪魔(クラウン)レベルになると翼や角を隠したりして外見を多少いじれるのだ。

ルシファーなんかは角にコンプレックスがあるらしく、普段から角は隠しているし翼も一対しか出していない。故に、中級悪魔(ウィング)の中でも下級と見なされてしまうのはまあ、わかる。


────外見だけで判断すれば、の話だけれど。

《鑑定》系のスキルを持っていればバアルやルシファーがどのレベルの魔物かなんてすぐにわかるのに。


「ほう、オレが一対翼(モノ)に見えるのか」

「見えるのか、じゃねェよ。

実際一対翼(モノ)だろうが。翼の数、数えたことねェのか?」


不敵に笑うバアルに、大鬼族(オーガ)は自信満々に笑って見せる。

おお、そのメンタルは買うぞ。値段によっては。


「そうだな、翼は嵩張るから仕舞ってんだよ。

────()()()な」


そういうとバアルがやや背中を丸め、口角を持ち上げた。

なんとも悪魔らしい笑顔である。


……あ、褒めてるよ?


次の瞬間、バアルの背中からバサッと音を立てて翼が生えた。

その数は────合わせて、四対。


八翼の蝙蝠に似た翼が、空気を押し出し風を巻き起こす。


「オレは四対翼(クアトル)だ。

残念だったな、一対翼(雑魚)じゃなくて」


にやり、笑うバアルを前に大鬼族(オーガ)は完全に沈黙している。


「く、四対翼(クアトル)だと……?」

四対翼(クアトル)なんか寝物語でしか聞かないぞ……っ」


ざわめく空気に、愉快愉快。

身内が褒められるのは気分が良い。


「────それで?

喧嘩なら改めて売ってくれないか。

即決購入してやるからよ」


へっ、と笑うバアルが格好いい。

やだぁ、私の乙女の部分がきゅんってした。


大鬼族(オーガ)は圧倒的な格の差を見せつけられ、開いた口が塞がらない。

この場にいる種族も、大鬼族(オーガ)より下か、同格レベルの魔物しかいない。

大鬼族(オーガ)が無理ならば、自分たちにも出る幕はないと考えているのか、誰一人として動かなかった。


「────っ、無礼な物言いをしたこと、ここに陳謝いたす」


大鬼族(オーガ)はバッと跪き首を垂れた。

おお、多少乱闘を覚悟したけれど、格の差を見せつけるだけで屈服させたぞ。

平和的解決で何よりですわ。


……まあ、本当の平和とは、と問われれば黙るしかないのですがね。


とにもかくにも、乱闘騒ぎもなく大鬼族(オーガ)を黙らせることに成功したわけですが、これで反対意見はもうないだろうか。


そう懸念していたら、バアルが汲み取ったように部屋全体に響き渡る声で問いかける。


「他に、反対意見はあるか」


その強者の風格に、声は上がらない。

まあ、四対翼(クアトル)レベルの悪魔族(デモリアン)を従えている私も必然的に株が上がるわけだし?


弱小種族はもとより、他の種族にも不満そうな表情は見られない。

バアルの言葉に呼応するように立ち上がり、全員が跪いた。


『我々一同、ダリオン様の配下へと加わります』


そう声が揃う。

え、練習とかしてないのに凄いね?

そういう口上みたいなのがあるのかな。


というか配下になるの?

まあ領地統合するということはそういうことになるのか。


「────その言葉、確かに受け取った。

今日より諸君らを我が民として認め、迎えよう」


キリッとした表情を作り、腹から声を出す。

《魔王覇気》を使わなくても、こうすることで随分とそれっぽく締まるのだ。


私の返事を受け、ワァ!と講堂全体を揺らす歓声に包まれた。

こうして、領地統合の話は綺麗にまとまったのである。


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