ep23:いざ、会議へ!
『────ダリオン様、会議に向け複数種族が到着し始めた模様です』
そう報告してきたのは蝙蝠を使役しているジークである。
警備巡回部隊隊長であるジークは、今回の会議でも警備にあたってくれており、魔王城にやってきた種族の確認、通過許可を出している。
蝙蝠を使役し報告するというスタイルは私が提案した。
元は各種族がやってくる都度、隊長であるジークが報告に訪れるとなっていたのだ。
そんな非効率的なことを、私が許せるはずもない。
前の世界で言うトランシーバーのようなものがあれば連絡がスムーズなのに、と思っていたところ、レイヴンが蝙蝠を使役し、《共有》で蝙蝠から情報を得ている姿を見て、この方法を思いついたのだ。
ルシファーは蝙蝠越しに連絡だなんて、とちょっと難しい顔をしていたけれど、「直接報告しないと失礼」という意味ではなく、「報告でもなんでも良いからダリオン様に会いたい」という意味であることに気づき、無視した。
ということで、それぞれ幹部一人に対し一匹の蝙蝠を随伴させている。
報告や連絡があれば自分に付いている蝙蝠と声を《共有》することでトランシーバー変わりにしているのだ。
(我ながら天才かな~?)
うまく機能している様子を見て笑いが止まらない。
発想の自由!頭を柔らかく使うことが大事なのである。
「ルシファー、来賓用の待機部屋はまだ余裕ある?」
隣で他の幹部やその下の配下たちと忙しそうに連絡を交わしていたルシファーに、隙を見て確認する。
「そうですね、あと数組は入れますが種族によってその体躯に違いがありますから……。もしかしたら少し窮屈になるかもしれません」
ルシファーにも一匹蝙蝠を付けようとしたら「私はダリオン様の傍を片時も離れません!」と凄い断り方をされた。
けれど他の幹部はそうもいかないため、私自身の傍にいることは許可したが円滑に連絡を取り合うことができるように、強制的に一匹の蝙蝠を付けさせている。
みんな便利!と喜んでいた。ルシファーだけが異常なのだ。
「少し窮屈になっちゃうくらいなら、もう一部屋解放しようよ」
「ですが、多少狭くでもダリオン様のご尊顔を見られるならば我慢すべきでは?」
「ちょっと何言ってるかわかんないですね」
ルシファーとのやり取りでは埒が明かない。
「メリノ」
「は、ここに」
「来賓用の第二待機場所を解放して、そっちにも誘導してくれる?
ジークには伝えておくから」
「承知いたしました」
メリノは頷くと、すぐに執務室から出ていった。
有能なメリノの後ろ姿を見送り、私は蝙蝠を通じてジークに報告を入れる。
ジークもすぐに状況を飲み込み、正門を通過した後の誘導先を変えた。
全く、臨機応変って言葉を知らないのかね、ルシファーは。
融通が利かないし、意味の分からない信念……というよりももはや執念を抱いているときはあるけど、ルシファーだって十分すぎるほどに有能なのに。
勿体ないやつめ。
「ダリオン様」
「サフォーク。どうかした?」
「いえ、準備は滞りなく。
種族ごとに出すお茶、お菓子の選別は完了しており女中長を通して全メイドに周知させております。
また、会議室の準備もほぼ終わり、資料の最終チェックをお願いしにまいりました」
そう言って受け取った資料に目を通す。
まず、怠惰の谷の現状……
レイヴンに調査させ、魔素濃度は怠惰の王の魔王城を中心として、平均値よりも濃いこと。
これは濃度数値も併せて伝えることでその危険性は分かってもらえるだろう。
また、高濃度魔素のせいで小鬼人のような弱小種族も狂暴化している現状……。
獣の狂暴化、これは生け捕りにした熊のおかげでかなり研究は進み、研究報告と熊の現状を実際に見てもらおうと思っている。
そして、それらを踏まえ隣地でありいつ被害が及ぶかもわからないこちらとしては、領地を統合し、高濃度魔素をどうにかしたいと考えていることを伝える、と……。
まあ、纏めるとこんな感じだね。
「被害に遭っていない種族からしたら、何の話?って感じだろうけど」
「そのことですが、我らの領地にいる小鬼人にすら影響があったのです。怠惰の谷を治める者がいないのですから、もしかしたら同じように狂暴化しつつもどこにも相談できていない可能性があります」
ルシファーに指摘され、ガツンと頭を打ったような衝撃が走る。
確かにそうだ。きっかけはうちの領地の小鬼人たちだったかもしれない。
けれどそれはきっかけに過ぎない。“最初”の被害ではなかった可能性が高いのだから。
勝手にあの時の小鬼人たちにしか被害が出ていないと決めつけていた。
そのことに気づきもせず、発想の自由がどうのこうの言って笑っていた自分が恥ずかしい。
(ちょっと考えればわかるはずなのに)
だからと言って、私に何ができただろうか。
そもそも女子高生が死んで転生した先がゲームの世界で。
意味の分からないまま生きていくことを強制される。
そんな中で、隣の領地にまで気に掛ける余裕はあっただろうか。
仮に魔素濃度が濃いことにすぐ気づけたとして、助けることはできただろうか。
たらればを思えばきりがない。
「────もう二度と、同じ轍は踏まない。
そのための会議よ」
「……ええ、心しております」
私の言葉を額面通りに受け取ったかどうかは分からないけれど、ルシファーが柔らかく微笑んだような気がした。
『────ダリオン様』
蝙蝠からバアルの声が聞こえる。
『全種族、最終通過点を通りました』
「了解。ありがとう、バアル。
後は配下に任せて戻ってきて良いよ」
『はっ』
バアルとの通信を切ると、次々と声が聞こえてくる。
『────白花の侍女衆、すべての準備を終えました』
『警備巡回部隊、全種族の通過を確認』
『こちらも資料の確認を終えました』
全てに「了解」と短く返し、私も立ち上がった。
「さて、行こうか。
ルシファー」
「はい」
こうして、怠惰の谷の全種族を招いた会議が開かれる────




