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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶に恋しています。  作者: アオ
第1章:終わりと始まり

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ep21:新たなる配下誕生☆


炊事場らしき場所に辿り着くと、中からきゃあきゃあと可愛らしい声が溢れてきていた。

ひょっこり、中を覗いてみると想像通り羊のような顔立ちにくるりと巻いた角を持つ女性魔物が複数人いた。

顔は羊顔であるが、胴体は人型に近い。

メイド服と思わしき、黒をベースとした丈長のワンピースに、白いエプロンを着用している。


彼女たちは楽しそうに会話はしているものの、仕事の手は休めていない。

これぞアットホーム、と言う感じの雰囲気ににっこりです。


「────楽しそうだね」


そう言って炊事場に入ると、先ほどまでの楽しそうな声はピタッと止まり、私を見上げて顔色を悪くする。

え、ちょっと待って。その反応は予想してなか────……


いや、待てよ。

職場の上司、しかも社長レベルが突然OLばかりの給湯室に入ってきて「楽しそうだね」とか声掛けたら、さぼりを指摘しているようじゃないか……?


これは言葉選びを間違えましたわ……。

まあ、後悔しても遅いんだけどね。

とりあえずこれ以上傷が広がらないように慌てて言葉を継ぎ足していく。


「あ、ごめんね。嫌味とかじゃなくて。

楽しそうに仕事している姿が微笑ましかっただけだよ」

「ま、魔王様……このような場所にいらっしゃるとは思っておらず……っ」

「あ、いいのいいの、本当に気にしないで。

実はちょっと用があって」


思い出したように慌てて膝をつく羊魔族(シープ)たちを制止して、私は早々と本題を切り出す。


「あのね、三日後に各種族を招いて会議を行うの」

「は、はい。存じております……!」

「あ、知ってた?なら話が早い。

会議室にぴったりの部屋を教えてほしいのと、数人手が空きそうなら手伝ってほしい」


そう用件を伝えると、一人の羊魔族(シープ)が立ち上がる。


「わたくし、女中(メイド)長を務めております。

何人かこちらで見繕ってもよろしいでしょうか」

「あ、貴方が女中(メイド)長さんなんだね!」

「はい。実務内容を教えていただけますでしょうか」


まだ少し不安そうに眉尻を下げる女中(メイド)長に、私はにこやかに頷いて見せる。


「もちろん、人選は任せるよ。

主に私の身の周り雑事をお願いすることかな。

それ以外にも臨機応変に色々お願いすることになるから、対応力がある人が良いかも」


必要最低限の条件を告げると、女中(メイド)長さんは少し思案するとゆっくりと頷く。


「わかりました。本日中に選出し、魔王様の元へ向かわせます」

「ありがとう、助かる!

それじゃあ、お邪魔しました」


短く答え、私はさっと炊事場から出ていく。

背後で「きゃーっ」と黄色い声が聞こえたけれど、わかるよ、わかる。

この姿()ってイケメンだよね……。

仮にも魔王。目の前ではしゃぐ姿を抑え込んだのだろう。


(とにもかくにも、人材確保はできそうかな)


ようやく悩みが解決し、私は執務室へと向かう。


「────ダリオン様」

「ひゃあああっ!!!」


くるり、踵を返したところで地を這うような低く、冷たい声が鼓膜を殴りつける。

本日二度目のズガァンヴォイスだが、そんなことも言っていられない。

この声の主を、私は誰だか知っていたから……。


「る、るしふぁー……」

「どうかなさいましたか?

そのような、まるで幽霊(ゴースト)でも見たかのようなお顔をして」

「い、いえ……なんでもありましぇん……」

「それでは早速執務室へ戻りましょう。

書類が貴方様をお待ちですよ」


あーん、やだぁー!


と、叫ばないだけ褒めてほしい。

私はルシファーからの無言で冷たい圧により、為す術もなく執務室へと強制送還された。




***




────……コンコン、


ノックの音が執務室に転がる。

日中散策していたこともあり、月が高く上った今でもまだ机に噛り付いている私は、こんな夜更けに?という疑問を抱いたまま、ノックに応える。


「どうぞ~」

「失礼します」


そう言って入ってきたのは、先ほど忙しそうにしていた中級吸血族(ドレイン)だった。

おいおい、こんな時間まで働いていたのかい、君は……。


「先ほどの中級吸血族(ドレイン)です。

日中、魔王様がいらっしゃった用件をお伺いに来ました」


ほんのりイントネーションが違う敬語を聞きながら、私は日中の出来事を思い返す。

同時に、「人を送るから」とか言っていたことを思い出してゾッとした。

今の今まで忘れていたのだから。


でも、中級吸血族(ドレイン)の子もそこは気にしていないようで、なぜ私が来たのか、その理由が知りたい様子だった。


そもそも城の修繕と会議室について聞きたかっただけではあるが、各種族を集めての会議となると監視や巡回も通常とは変わってくるだろうし、ちょうど良いからその辺りも相談することにしよう。


「あー、そのことなんだけど……」


話を切り出そうとしたとき、再び扉がノックされる。

「どうぞ」と声をかけると、炊事場にいた女中(メイド)長が現れた。


「魔王様、人選の件で参りました」


その言葉に続くように、女中(メイド)長の後ろから複数の羊魔族(シープ)が執務室へと入ってくる。

この時間に上司を訪ねるなんて、日本だったら「非常識!」って怒られちゃうね。


「ん-と、中級吸血族(ドレイン)の子はちょっと待っててね。

先に羊魔族(シープ)の用件を聞いちゃうから」


いろんな雑事を任せられる者として人選してもらったのだ。

中級吸血族(ドレイン)の案件にも絡められるかも、と思い、私は先に羊魔族(シープ)を呼んだ。


「それで、人選はどうなった?」

「はい、魔王様。こちらの三名は女中(メイド)の中でも特に優秀な者たちです。加えて、魔王様のお役に立ちたいと強く願っている者たちでもございます」


そう言って女中(メイド)長の後ろに控えていた三名が、前に出てきた。

向かって左から一人目は、シミ一つない美しい白毛の羊魔族(シープ)で、羊顔ではあるものの可愛らしさの滲む顔立ちをしている。

真ん中の子は、顔は黒、体は真っ白でもこもこの羊毛を持つ羊魔族(シープ)

三人目も真ん中の子と同じく顔は艶のある綺麗な黒、体は白い羊毛であったが、どことなく三人の中で一番端麗な顔立ちをしていた。


「わたくし達三名、身命を賭して魔王様にお仕えいたす所存でございます」


三人が息を合わせたかのように跪く。

重い重い重い重い!

身命を簡単に賭けないでくれたまえ……。


「三人とも、得意なこととかあるの?」


女中(メイド)長に伺うように問いかけると、女中(メイド)長はどこか呆れたように短く息を吐く。


「この三名は、逆に何ができないのかわからないほどに優秀でございます」


えぇ、そんな優秀な人材貰っちゃって良いの!?

逆に女中(メイド)の仕事が滞らない?

不安になって女中(メイド)長を見遣るも、女中(メイド)長はどこか優しく微笑んだ。


「ご心配なく。この三名がずば抜けて能力が高いだけで、他の女中(メイド)たちも優秀でございます。

また、ルシファー様の采配によりメイドの数は豊富です。

三名が抜けただけで、仕事が回らなくなることはございませんので」


おお、こちらの心情はお見通しですね。

私はそういうことなら、と三人を預かることにし、女中(メイド)長を下がらせた。


「君たちには早速で悪いんだけれど、一人は紅茶を淹れてきてくれる?

残りの二人はこの場で待機」

「は、承知いたしました」


簡単な指示だけ出して、今度は中級吸血族(ドレイン)に向き直る。


「────さて、待たせたね、中級吸血族(ドレイン)くん」

「いえ」


私は机の上に乱雑……に見えて実はルシファーがしっかり分類してくれている書類の中から、会議関係の書類を引っ張り出す。


「あったあった。各種族を招いて行う会議だけれど、通常の見張りと変わってくるよね?」

「はい、そうですね……。特に正面玄関付近と城の周辺は厳しくしよ思うてます」


魔王城の周辺地図を指さしながら説明する中級吸血族(ドレイン)


「ふむ……。そういえば、中級吸血族(ドレイン)を見張り役のリーダーにしたのって誰?」

「見張りやとバアル殿ですけど、情報収集の方はレイヴン殿です」

「ん?ということは君、見張りと情報収集どっちもやってるってこと!?」

「はい。レイヴン殿から直轄の蝙蝠(バット)下級吸血族(サースト)をお預かりして情報収集の部隊を編成し、バアル殿から下級悪魔(ホーン)をお預かりして、見張りの部隊を編成してます」


────……これは、バアルとレイヴンから諸々聞かなきゃだな……?

自分の直属の配下を無制限に使役することはできるけれど、他人の配下は使役できない。


他人から配下を預かり、部隊編成するとなると、中級吸血族(ドレイン)自身が預かる配下よりも強いと認めさせなければならない。


「……君は誰かの直轄ではないの?」

「オレはどなたの配下でもあらしまへん。

オレ自身の配下は居てますけど……」


配下持ちの中級吸血族(ドレイン)か。

となると、目の前の子も特殊個体なのかもしれない。


「────……ねえ、君さ。

私の直轄になる気はない?」

「……え……?」


時が止まる、というのはこのことを言うのだろう。

この場にいる誰もが息をすることすら忘れたように、静けさに包まれる。


「あ、嫌なら断っても全然────」

「そ、そんなわけ!

光栄な話や思うてます!」


あー、もうなんでさぁ。

直轄の幹部(うちの子)たちってこうも大げさなんだろうか。

毎回配下に加えるたびに、とんでもない契約してるみたいで気が引けちゃう。


うちはクーリングオフもないんだから。

余計に怪しい契約みたいじゃない。


……とか、ちょっと意識を飛ばしている間に、目の前の中級吸血族(ドレイン)は跪き首を垂れる。


(配下にするなら名前つけなきゃな。

ん-、そうだなぁ……)


正直ネーミングセンスに自信はない。

じっと目の前の中級吸血族(ドレイン)を見つめ、ピンときた名前を言い渡す。


「────ジーク。あなたは今、この瞬間からジークと名乗りなさい」

「はっ、その名に恥じへんよう、精一杯働かせていただきます」


さて、ジークの件はいったん置いておいて、待っていてもらった羊魔族(シープ)たちにも目を向ける。

丁度紅茶の用意に出た者も戻ってきたところだった。


「貴方たちも、名前はないのよね?」

「はい、私たち三人とも名もなき羊魔族(シープ)でございます」


茶と白のまだら模様の子が代表して答える。


「三人には私付の侍女になってもらおうと思うのだけれど、異論はある?」

「っ、い、いいえ!」

「あるはずがございませんっ!」


バッ、と跪く二人。

紅茶を淹れていた者は跪けないにしろ、驚きに目を見開いた後、薄く涙の膜を張っていた。


本当にみんな、大げさなんだから。


「それでは、三人にも名前を付けたいと思います。

名前を持つことで、私の直轄であることを自覚してね」


お、我ながら上司っぽいこと言えたんじゃないかな?


とか思いながら、名前について考える。

羊の名前をそのまま付けるのもいいなあ。


────家族で出かけた牧場で、羊のショーを見たことを思い出す。

中学生、思春期真っただ中で家族で牧場に遊びに行くなんて、何だか恥ずかしくって終始不機嫌だった。

今思えば、なんて子どもだったのだろう、と小さな後悔がちくりと心の端に刺さった気がした。


「……じゃあ、名前をつけていくね」


ほんの少し浸った感傷を振り払うようにそう言い、改めて三人の羊魔族(シープ)を見つめる。


真っ白な羊魔族(シープ)に対して


「あなたは“メリノ”」


紅茶を淹れてくれていた、黒と白のもこもこの羊魔族(シープ)に対して


「あなたは“ヴァレー”」


黒く端麗な顔立ちの羊魔族(シープ)に対して


「あなたは“サフォーク”」


と、三人にそれぞれ名づけをする。

紅茶を淹れ終えたヴァレーも加わり、三人が跪く。

そしてジークも並ぶように跪く。


気付けば、私の前には四人の新たな直轄の配下が並んでいた。


……まあ、この領土に住まう魔物はもれなく私の配下にはなるのだけれど。

こういうのは気持ちよね、気持ち。私直々に言うから意味があるんだと思うの。


「我らここに、改めて魔王様への忠誠を誓います」


その言葉を受け、頷いて見せる。

というか、なんて返せば正解かもわからずにそうなってしまっただけなのだけれど。

それでも、四人とも嬉しそうなのだから結果オーライってやつなのである。


「────さて、じゃあ三日後……

というより、もう二日後に迫った会議についてなんだけれど────……」


と切り出し、メリノには会議室に適した部屋の候補を絞るよう指示を出し、サフォークは候補の部屋、またその部屋に通ずる廊下などで修繕が必要な個所を洗い出してもらうことに。

ヴァレーはジークと一緒に見張りなど警備に関する提案書の作成のサポートをお願いした。


こうして、私は念願だった侍女ポジションも無事見つけ、差し迫った会議の準備にも取り掛かることができた。


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