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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶に恋しています。  作者: アオ
第1章:終わりと始まり

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ep20:新たな苦労人との出会い


「────……こちらに、我々見張り役を纏める魔物がおります」


案内してくれた下級悪魔(ホーン)が、一つの部屋の前で止まる。

扉の前に立つ下級悪魔(ホーン)はどこか震えて見えたけれど、きっと気のせい。

だって震える理由が分からないもん。


下級悪魔(ホーン)は大きく深く深呼吸をすると、思い切ってノックもなしに扉を開ける。

僅かに開いた扉の隙間から怒号が滑り出てきた。


「────あァ!?」


その怒気を含んだ声色に、思わず肩が跳ねる。

あー、ほら。ノックはした方が良いって言ったじゃん。

……心の中で。


「誰や、このクソ忙しい時に!」

「ほ、……下級悪魔(ホーン)でございます」

下級悪魔(ホーン)言うたか。お前今頃城内見張りの時間やろが」


扉が開き切るとそこには、大きな窓を背中に背負い、私の執務室よりもずっと大量の書類で埋もれた机でその部屋の主は私を迎えた。


「ま、魔王様をお連れ致しました……っ」


震える声を絞り出す下級悪魔(ホーン)がなんとも気の毒だ……。

なんか本当にごめんね、案内なんか頼んじゃって。


私は下級悪魔(ホーン)の影からひょっこり顔だけ覗かせる。

すると座っていた部屋の主は慌てた様子で立ち上がり、書類の山が雪崩を起こす。

あらあら、せっかくの山脈が……。


「お、お邪魔しま~す」


音量設定【小】に調整してそう声をかけると、逆光の中で人影が動いた。


「さ、先に言えや、あほ!」


バタバタと慌ただしく駆け寄ってきたのは小柄……と言っても2メートル級()から見てだから、本当のところは分からないけれど……。

まあ、()()()()()小柄な男の子が駆け寄ってきた。


シルクのような綺麗な金色の髪は肩まで伸びていて、後ろで無造作に結われている。


前髪の隙間から覗く瞳は鮮血を溶かしたような深紅色。

どこか喧嘩慣れしていそうな鋭い目付きだ。

吸血鬼らしく尖った耳にはいくつもの金色のピアスが並び、その一つは細い鎖によって下唇のピアスへと繋がっている。


黒いハイネックに金色と赤の刺繍……。

どこかで見たことある気がしたけど、あれだ。

チャイナ服によく似ている。


その姿は街角で不良グループを率いていそうな雰囲気で、初対面の印象だけで言えば「近付きたくない人ランキング上位」である。

ていうか怖い。普通に怖い。コンビニの前でたむろされていたら、私は買い物を諦める。

すれ違おうものなら全身全霊で電柱になり切ってただろうね。


「あ、ま、魔王様!申し訳ありません。

適切な対応ができず────」


そう言って腰を90度に折るから、私がなんか凄い怖い人みたいじゃない。

やめてよやめて、私は恐怖政治なんか敷いてないんだから。


……これ毎回言ってない?


「いや、いいのいいの。本当、気にしないで。

見張り役のリーダーがここにいるっていうから、案内してもらっただけなの」


両手を顔の前でブンブン振って見せる。

風圧で隣にいた下級悪魔(ホーン)が吹っ飛ばされたけど、見ていないフリをした。

どうやら私のスルースキルの熟練度はまた上がってしまったらしい。


「は、オレに何か御用でしたか?

それやったら今お茶を────……言うても、机がこの有様やから片づけせな……」


申し訳なさそうに後頭部を掻く美少年。

どうやら種族は中級吸血族(ドレイン)らしい。


え、ああそう。

吸血鬼にも階級があるんだよね。

中級吸血族(ドレイン)はその名の通り、血を啜る者。

その下には下級吸血族(サースト)、上には上級吸血族(シャドウ)がいて、レイヴンは確か血影騎士(ブラッド・ナイト)という特殊個体になったはず……。


カタカナが多いと覚えるの苦手だったなぁ……。

世界史でわからない項目全部「チンギス・ハーン」で埋めた記憶を思い起こす。


……でも、不思議とこういう種族名とか覚えるのは得意だった~。


英単語は単語帳手作りしても覚えられないのにね。ふっしぎ~。


「君は中級吸血族(ドレイン)だね。種族の違う者を纏めるのって大変でしょう」


よく見ると、彼の目の下には隈ができていた。

疲労と苦労が目に見える彼に既視感を覚える。


(あ、ルシファーだわ……)


垣間見える苦労を労うように言うと、彼の目がちょっと潤んだような気がする。


「三日後に、この城で各種族を迎え会議を行いたいの。

会議室に適切な部屋があったら教えてくれる?

あと、修繕が必要な個所があれば応急処置もできるから教えてほしいんだけど……。

なんか、大変そうだから出直そうか?」


どこかで雪崩が起き続ける部屋を見て、そう提案してみる。

そして今ルシファーの目を盗んでこっそり抜け出しているという現実を思い出してゾッとした。


「大丈夫です言いたいのはやまやまなんですが……。

今晩の見張り役が体調崩してしもて、代役を立てなあかんくて……。

正直ちょっと立て込んでます」


関西弁訛りの喋り方って良いよねぇ~。

えー、なんか可愛い。大変そうにしている少年、みな等しく可愛い。


と、全く違う方向に意識を飛ばしていたから、慌てて我に返り中級吸血族(ドレイン)に微笑む。


「委細承知した。

それじゃあ、私の用件は後回しで良いや。

あとで人を寄越すから、少し眠ったら?」

「え、いや、はい……え?」

「そこの下級悪魔(ホーン)、見張りに戻るついでにちょっとだけ借りるね。

大丈夫、シフト?に穴はあけないようにするから!」

「あ、はい、いえ?あれ……?」


困惑している中級吸血族(ドレイン)を横目に、私は「じゃ」と短く挨拶を終えて転がっている下級悪魔(ホーン)を起こしてその場から立ち去った。


「ってことで、見張りに戻るついでに手の空いていそうな魔族がいないか教えてくれない?」

「何がどう“ってことで”なのか分かりませんが……。

そうですね、女中(メイド)たちならば知っているかもしれません」

女中(メイド)!なんてこった、もういるのか!」


いるなら言ってよ~。

侍女とか執事ポジション作りたいって言ったじゃん~。

心の中で。


「彼女たちは基本炊事場におります。

炊事場はこの廊下を抜けた先ですので」

「そっか、わかった!

ありがとうね!」


じゃあ見張りに戻ります、と言う下級悪魔(ホーン)と別れ、私は炊事場へと向かった。


確かに見張り役とか立てているなら、女中(メイド)もいるか~。

その辺、ルシファー辺りが手配しそうだもんなぁ。


そんなことを考えながら炊事場に向かっていると、掃除道具らしきものを持つ人影を見つけた。


(お、女中(メイド)さん第一号発見~!)


わくわくしながら近づくけれど、なんていうか、違和感。

気配を感じないというか……。


「あ、あの……」


幽霊にでも話しかけるかのようなか細い声でそう声をかけるも、返事はない。


「───おや、ダリオン様。このようなところで何を?」

「うわぉ!!」


久々のズガァンヴォイス。

最近音量調整できていたから、油断してた。


振り向いた先にはモルガントがいた。

さすがは幹部。私の爆音ヴォイスに動じない。


「も、モルガント……」

「ええ、モルガントです。

そういえば先ほど、ルシファーがダリオン様を探して────」

「ちょっと待って、私はそれを知らないし聞かなかった」


モルガントの言葉を制し、私は耳を手のひらで覆うという幼稚な手段に出た。

モルガントも察したのか、それ以上先の言葉は呑み込んでくれた。


「それで、モルガントはどうしてここに?」

「ああ、ルシファーに頼まれまして。

魔人形(ドール)”のメンテナンスをしてほしいと」

魔人形(ドール)……?」


不思議そうにする私に、モルガントは私が話しかけようとしていた魔物を指さす。


「そちらに居るのが、魔人形(ドール)です。

私が作成し、使役している者です」


そういうと、モルガントは魔人形(ドール)と呼ばれた人、のような人形に触れる。


「……ふむ、魔素切れですな」


そう一言いうと、モルガントは人形に魔力を注ぐ。

すると不思議なことに、魔人形(ドール)は滑らかにまるで人のように動き出し、せっせと窓のサッシを掃除し始めた。


「え、すご。モルガント、人形みたいな無機物も使役できるの?」

「さすがに全ては無理ですよ。

ただ、私はダリオン様に名付けていただいた際に“不死魔導士(アークリッチ)”に進化いたしました。

死霊を使役するのはもちろん、自身の魔素を与えた無機物を操るくらいならお手の物です」


死霊を使役したりするのって、ネクロマンサー的なものを想像するけれど、モルガントもできるんだ。

と、どこか他人事……いや、他人事ではあるのか……?

まあ、なんかどこか遠い世界のことのように受け止めながら、適当に流した。

こんなのでいちいち驚いていたら、魔王やってらんないからね!


「えー、じゃあ女中(メイド)さんって全部魔人形(ドール)?」

「いえ、流石に全てではございません。

魔人形(ドール)は簡単な雑事しかこなせませんし、何より数も多くは作れないのです。

なので、魔法も扱える“羊魔族(シープ)”たちが女中(メイド)の仕事の大半を行っております」

羊魔族(シープ)!」


羊のくるんと丸まった角を持つ魔物だ。

あまり(エネミー)としては出てこず、魔界では普通の住人として出てきていた。

愛らしい容姿の者が多かった気がする、と思い出してわくわくする。


「ちょっと私、女中(メイド)さんに用事があるの!

ちなみに城関係で必要なことだから、ルシファーにもし会ったら適当に言っておいて!」


そう言うと、私はすたこらさっさとその場から離れる。

ルシファーが本当に私を探しているなら、モルガントのように城内を徘徊しているはず。

まさか炊事場にいるとは思うまい、とルシファーの思考の裏をかくように、私は炊事場へと急いだ。


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