ep19:魔王城散策開始!
ルシファーの目が怖いので、気分転換と称して魔王城を散策してみた。
先日、城の修繕箇所の案を出したものの、今私の周囲で動いてくれている配下は主に四人。
その四人とも様々な仕事を抱えていた。
女子高生で社会人の経験はバイトですらない私だけれど、ブラック企業は大反対。
適度に休憩、しっかり休日。働くときは働いて余計な仕事は増やさない。
以上をなんとなくの方針として個人的に掲げている以上、彼らの負担を少しでも減らすべきなのである。
ということで、私自身修繕箇所を新しく手に入れた《解析》で確認しながら城を回る。
《解析》は便利で、強度不十分や亀裂など、状態の異常を瞬時に判定できるようになっていて、《思考》のスキルと並列起動することで必要な処置まで丸わかりなのだ。
熊の結界を作り出す際に見た、《建築補助》のスキルツリーに、役立ちそうなスキルをいくつか解放していたこともあり、そもそも城の修繕は私自身が回って見つけた場所を片っ端から直していく方が効率も良かった。
私は《解析》を発動しながら、そういえば魔王として転生してから一度もしっかり城内を回ったことがなかったな、と改めて考える。
私はあの時、確かに勇者によって殺されたのだ。
それでも再び魔王として復活した。しかも外見は終末系ゾンビで。
復活にどのくらいの時間を要したのかも、実はまだわかっていない。
魔王城の朽ち方はそこまで酷くないが、私が勇者に倒された時の背景では、城はほぼ廃墟のように朽ち果てていた。
(魔王の復活と共に城も復活するのかな……。
となると、魔王の回復度とかが城にそのまま反映されているのかも?
復活直後は今よりも城全体が朽ちていたような気がするし……)
記憶を手繰るが、それがゲームのプレイヤーの時の記憶だったのか、初めての転生時の記憶だったのか、今の記憶なのか、きっちりと線引きはされておらず、その記憶の境界は曖昧である。
考えても分からないものは分からない、と割り切れることができれば苦労しないが、もやもやが残ってしまうというのが人の性なのだ。
ということで、私は《解析》で得た情報を元に、建築補助系の新しく得たスキルを発動する。
「────《修復》」
手のひらを翳し、一言呟けば、手のひらから魔力が放たれる感覚と同時に、壁に入っていた亀裂が綺麗になっていた。
このスキルはあくまで応急処置であり、甚大な被害や深刻な損傷は直すことができない。
魔王とはいえ、まだレベルもそこそこの私の、魔力量も多くはない。
限りある魔力で直していくには、必要な部分だけに絞った方が良さそう。
どうしたもんか、と考えているとき、角から一体の悪魔族が現れた。
私が元の世界で思い浮かべる“悪魔”をそのまま象ったような姿だった。
山羊に似た顔立ちを持ち、額から伸びる一対の角は樹木の根のように捻じれ、黄色く濁った瞳が不気味な光を宿している。鼻先は獣めいて長く、口元には鋭い犬歯が並ぶ。
子ども向けの絵本に描かれていそうな、実にわかりやすい悪魔であった。
(上級悪魔より下の悪魔だな……)
敵として、序盤の最後の方に出てくるレベルの魔物だったはず。
とプレイヤーとしての記憶を掘り出し紐づけていく。
「あ、そうだ! “下級悪魔”だ、“下級悪魔”!」
ピンときてつい声に出てしまう。すると、角から出てきた悪魔がビクッと肩を震わせた。
そりゃそうか、角でばったり食パンかじりながら転校生とぶつかったような青春が始まるわけでもあるまいし。
なんなら社長みたいな立場の人に偶然出会っちゃうんだもんね。
こいつは失敬。
「ま、魔王様……!
このような場所にいるとは思いもせず……。
申し訳ございません」
そう言うと、すぐさま跪き首を垂れる。
え、何について謝罪されたのかわからんけど、あれかな。
道を塞いでしまって的な?
そんなんじゃ怒らんし、むしろごめんて。
「いやいや、私も普段あんまり出歩かないから驚かせちゃったね。
その姿からして、貴方は“下級悪魔”で合ってる?」
「は、勿体なきお言葉です。魔王様の仰る通り、“下級悪魔”でございます」
やっぱり~、と答えに丸が付いてちょっと嬉しくなる。
確か“悪魔族”には種類がある。
まずは知能レベルも低く、小鬼人と同じレベルの所謂雑魚キャラとして出てくるのが、《最下級悪魔》、その名の通り“尾を持つ者”。
最下級悪魔は元の世界で言う「ばい菌」と聞いてパッとイメージできるような容姿であり、体調も80~90センチと小さめである。
次に、レベリングが安定してきた序盤の後半あたりに出てくる、豚人族と同じレベルくらいなのが、《下級悪魔》、角を持つ者。
今、目の前にいる悪魔のようにヤギや牛のような顔立ちの者が多いが、時々特殊個体として人型に近い形の者もいる。下級悪魔レベルになればある程度の知能があり、群れで襲ったり、打撃系だけでなく魔法も使ってくる。
悪魔族に有効な聖魔法を覚えていないとダメージが入りにくかったけれど、まだそこまで厄介さはなかった。
そして、その上が中級悪魔、翼を持つ者。
さらに上が、上級悪魔、冠をいただく者。
魔王を除いた悪魔族の最上位であり、進化したルシファーやバアルが該当する。
まあ、そもそも上級悪魔レベルの魔物はそうそう出会うことはない。
(私も実際戦ったのは迷宮ボスと────……)
ふとルシファーの容姿を思い出す。
悪魔、というよりも天使に近い神々しささえ感じさせるあの容姿。
あの姿って……、
(えっ、ルシファーって魔王の前ボスじゃない!?)
あー、なんで忘れていたんだろう!?
突如ガバッと頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
しかもこの時私自身気づいてはいないけれど、膝と膝がくっつく女子的なしゃがみ方をしている。
もちろん、目の前にいた下級悪魔はビクッとその体躯を震わせ困惑していた。
(どう足掻いたってモブキャラ枠からはみ出るような見た目をしてるじゃない!
……となるとバアルやモルガント、レイヴンも……?
あー、確認しなきゃいけないことがいっぱいだ……っ)
「あ、あの……魔王様……?」
恐る恐る声を掛けられ、下級悪魔の存在を思い出して「やべっ」と立ち上がる。
「いや、何でもない。急に考え事を思いついただけ!」
と意味の分からない言い訳を並べるも、下級悪魔は空気を読んだのかそれ以上は何も追及してこなかった。
「あ、ねぇ、貴方ってこの城に住んでるの?」
「は、見張り役としてこの城に常駐しております」
見張り!確かに必要だよね、一応ここも城だもん。
ゲームでも城の中にうろうろしている敵いたけど、あれ、見張り役か!
納得~、と勝手に自己完結していると、下級悪魔はまた心配そうにその目を細める。
そしてピンときた私。見張りをしているということは、城の内外を把握しているはず。
まあ、決められた場所だけを見張っている可能性もあるから断定はできないけれど、下級悪魔のように城に詳しい者に案内してもらうのはどうだろうか。
そうすれば会議室となりそうな部屋も見つかるだろうし、魔王城に棲みついている他の魔物たちとの接触を図ることもできれば、ルシファーの雑事を任せられる魔物も見つかるし、一石二鳥では?
「下級悪魔、悪いんだけどあなたたち見張り役を纏めているリーダーのところまで案内してくれる?」
「は、最高統括はレイヴン様とバアル様ですが、その下、という認識でお間違いないでしょうか」
あ、トップはレイヴンなんだ。ていうかバアルも?
その辺の系統もどうなってるか把握してな……
いや、報告がないのが悪いと思う!
……なんか、そんな気がする!
でもとりあえず後で確認しておこう!
「────うん、レイヴンには今別の仕事頼んじゃってるからね」
何にもなかったかのように話を続けるも、下級悪魔は気にしていないようで私に向かって一礼する。
「承知いたしました。ご案内いたします」
恭しく頭を下げられ、なんだかむず痒い。
けれど、同時にこういう扱いにも慣れなければいけないんだろうな、とも思う。
(私は、この世界の王として生まれたのだから────……)




